第10話


 弱音を吐くことが、罪ならば。

 わたしの存在こそが罪であろう。


 強くあれと、父がいう。

 厳しくあれと、母がいう。


「辛うございますかな」


「ううん」


「爺は、告げ口などいたしませんとも」


「そうじゃない」


 最後に泣いた日のことを、もう思い出すことができない。

 日に日に強く、大きくなっていく肉体は父母から授かったものだ。誇りであって、……いや、誇りでしかない。


「爺といたしまして、ぼっちゃまには優しくあってほしいと願っております」


「爺が、弱虫だから?」


「ほっほっほ、その通りですな」


 常日頃から彼は言う。自分は弱虫だと。

 だけど知っている。彼が誰よりも勇敢であることを。だからこそ、彼にだけはもう泣いている姿を見せられない。


「それは王じゃない」


「かもしれませんな」


「爺はわたしが王になってほしくはない?」


「まさか。ぼっちゃまが王となる日、それを見るためだけにこのおいぼれは生き長らえておるのです」


「王になったら爺は死ぬのか」


「いえ、お暇をいただき日がな一日ごろごろしようかと」


「爺らしい」


 爺が笑うから。

 わたしも釣られて笑ってしまう。


 これだから、いつまでたっても私はぼっちゃまなんだ。

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