第6話
「■■■だな」
「そうだけど、どちらさ、おいッ!?」
捕まれた腕を振りほどこうとしても、やせっぽっちの少年に大した抵抗などできるはずがない。相手が、屈強な兵士となればなおさらだ。
「離、せ……! なんだよ! 捕まるようなことは何もしてねぇぞ!!」
「対象を確保しました。連れて帰ります」
「おい! おい! 聞けったらお、ご……ぁッ!!」
「先輩、乱暴に扱って宜しいので?」
「うん? こいつは……自分で転倒して気絶したんだ。そうだろう?」
「はは、そうでしたね」
めり込んだ拳に、胃袋の中身が逆流する。こんな時でさえ、口から吐き出されるのは、胃液のみで惨めな生活を付き付けられながら、少年は意識を手放した。
※※※
「……、報告に…………だな。……労」
「はっ!」
「ここ……は、……で…………」
「……し……、……ました!」
駆けていく足音を、働かない頭で聞いていた。
なぜか痛む腹に違和感を覚える前に、少年の意識は痛いほど冷たい冷水によって強制的に覚醒させられる。
「……ぶっはぁ!?」
「よし、よし。起きたか」
「ぁぁ……! ぁぁ、くそっ!!」
「そうだな……」
「ごふぉッ」
「まずは、図が高い」
ぼやける視界が回復する前に、鋭い痛みが再度腹に突き刺さる。我慢できずに蹲った少年は、まるで首を垂れるしもべのようであった。
「お前はだれだ。ここはどこだ。俺に何のようだ。一辺倒の質問に割く時間ほど無駄なものはない、そうだろう? ああ、そうだろうとも」
文句も、悪態も付けない。
ただ痛む腹に、咳き込むことしか少年には出来なかった。それを知って、少年を蹴った男は、演説をしているように独り言を紡ぐ。
「価値などない命に意味を与えてやろう。お前は、今日からこの国の姫となる。うれしかろう、ああ、うれしかろうとも。さぁ、お前にしかできない仕事を与えてやろうか」
「ぐ……っ」
男のつま先が、少年の顎を持ち上げた。
頭を上げる許しを与えられ、少年ははじめて男の顔を見る。痛みで、怒りで、張り裂けそうだった。
「ふはは! その目! その目はなんだ! 感謝を述べる時はそうではなかろうが!」
「あぎっ! んがっ、ご!」
「愚かよなァ! 愚かな妹をもつ兄がこれほど辛いとは思わなんだ! ああ、なんとも哀れ、余は哀れであることよ!!」
蹴られ、蹴られ、蹴られていく。
顔以外のどこかしらにも、男の足型が残される。痛みを得れば得るほど、少年の身体を怒りを越えた恐怖が縛っていく。
――ぐに
「ぁぁああああああっっ!!」
仰向けに倒れ込んだ少年の、彼の股間を、男の足が乗せられた。
かかる体重に、悲痛な叫びがあがる。耳を覆いたくなる叫びを聞いて、男は恍惚な表情を浮かべていった。
「それでも愛そうではないか。愚かな妹を、この余が愛してやろうではないか。ああ、ああ、ああ!」
白目をむいて、泡を噴き、少年は気絶した。
途端に興味を失った男が、指を鳴らす。数人の男たちが、急いで部屋にやってきて、気絶した少年をどこかへと連れ去っていった。
「余は、余こそが……」
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