第5話
「認めない」
向けられた敵意に、歓喜する。
心根を隠し、姫は弱者の笑みを浮かべた。
「貴様のようなヒトが、妃となることを認めてたまるものかっ!」
「わたくしは、ただ王の言葉に従うだけにございます」
「いいか! 少しでもおかしなことをしてみろ。その細首、わたしが噛み砕いてくれる!!」
王がヒトの姫を妃とすると宣言して以来、王の側近から姫の護衛兼見張りへと役割を変えられた雌獅子のケモノが、するどい牙を唸らせる。
乱暴に閉められ悲鳴をあげる扉を、姫は静かに、寂し気に見続けた。
※※※
「ということがありまして」
ケモノの王が、国務を終えて私室へ戻れば当然の顔をして姫が居座っている。
聞かれもしないのに今日あったことを静々と話す姫に、耐えかねた王が口を開いた。
「良かったな」
「それはもう!」
途端に部屋いっぱいに花が舞い踊る。
悲しそうに俯いていた姫が、一転、いまにも踊り出そうものかというほどに、明るい声で歌いだす。
「彼女は素晴らしい御方! あれだけまっすぐに感情を向けてくださる方がいらっしゃるなんて……ああ! ああ! 天にも昇る思いにございます!」
分かった上で配置を行ったとしても、苦悩する配下の顔を思い浮かべ、王は頼れる部下に手紙を記す。せめて、配下の心が少しでも軽くなることを祈って。
「王は釣れない御方。愛する妻が傍に居て、他の女子に文を贈るのですね」
責めるのであれば態度を変えた方がいい。
鼻歌を口ずさんで、姫が紅茶を淹れる。紅茶に罪はない。香る茶葉に癒される心を、穏やかに王は文を書き終える。
「お砂糖はひとつ? それともふたつ?」
「明日になった」
「承知致しましたわ」
ふたりは今日もカップを鳴らす。
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