第4話


 月光を浴びながら、姫は裸体を曝す。

 姫にはあるまじき行為よりも、女性にあるまじき股間のそれを証左と示す。


「ヒトがを喚んだか」


「彼の者の調整には、三月ばかりほどかかると言われております」


 爪も、牙も、鱗すら持たぬケモノを誰ぞが憐れんだ。

 誰ぞがケモノに与えた火の知恵が、ケモノからヒトを生み出した。ヒトはヒトこそが至高の存在たるとケモノを殺す。だが、それは恐怖の裏返しでしかなかった。怯えることがヒトであり、逃げまどうことがヒトならば、知恵を携えようともヒトはヒトのままである。


 手を取り合ったケモノが、異物となっていくヒトを駆除していく。

 あと少しの時となると、どこからともなく現れる。誰ぞが現れ、ヒトを救う。ヒトに近しい、ヒトではない誰ぞを人間と呼んだ。


「十年ぶりとなろうか」


「兄は、決着をつけたいのです」


「種の存命……いや」


「己の欲望」


「羨ましいものよ」


 王を跨ぐ。

 強者の胸に、小さな尻を落として、姫は笑う。


「王よ、王よ……。ケモノの王よ」


「要らぬ」


「ぁぁ……あぁぁ……っ! ならば捧げましょう。すべてを、ええ、ええ、すべてを」


「我は王よ」


「わたくしは姫に非ず、さりとて、姫でありましょう」


 ケモノの王が瞼を閉ざす。

 傾く天秤に、彼は重しを乗せる。悩むは一瞬、暗き眼が世界を視る時。


「よかろう」


 心を決めた。

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