冷静

今日も学校がある。昨日の今日で教室の空気は地獄のような空気だった。


誰も彼もがいちいちこちらを気にしてくる。相変わらず気分が悪い。だが昨日とは明らかに違うことがある。それは俺の心の持ちようだ。


昨日の奏の言葉がまだ耳に残ったままでいる。


知らなかった。人に信用されるのがこんなにも嬉しいことだなんて。だから今日の俺はこんな空気の中でも対して気持ちを落としていなかった。


どちらか言うと気持ちが落ちているのはあいつらの方だろう。


俺は沙也加と里奈と言う少女の方を見た。あの二人は教室の中で常に陰口を言われている。それこそ前までの俺と同じように。


正直少しスッキリとしてしまっている自分がいる。だがやはりそれを常に聞くのは気分が悪い。


「…ふん。自業自得だよ」


俺の隣に居た樹があの二人を憐れむように見ていた。


「まぁ…そうだよな」


そう、現状はアイツらの自業自得だ。それは分かっている。分かっているのに可哀想だと思ってしまう。あれが辛いことだと分かってしまうから。だから同情してしまう。


「…まさかあの二人を助けたいなんて言わないよね」


樹がジト目でこちらを見てくる。


「…」


俺は無言で樹を見つめ返す。すると樹は口を開いた。


「愛斗。気持ちはわかるよ。愛斗は優しいからね。でもその優しさを向ける相手を間違えちゃダメだよ。あの二人は愛斗に決して許されないことをしたんだ。そんな二人を愛斗が救ったらどうなると思う?あの二人が愛斗に依存するんだよ。だから軽々しく自分に危害を加えてきた人を許す、ましてや救うなんてことしちゃダメなんだよ」


樹の言葉には重みがあった。その重みが何なのかは…だいたい予想がつく。だからこそ思ったんだ。樹の言う通りだって。


「そう…だよな」


幼馴染である沙也加との思い出。それは確かに大切な思い出だ。出来れば沙也加には幸せになって欲しい。でもそれとこれとは話が別なんじゃないか?別に俺が助けなくても苦しい思いをするのはせいぜい高校が終わるまでだ。だったら別に助ける必要なんてないんじゃないのか?


そう思ってしまう。あぁ、そうだ。俺を苦しめた人間を救うより俺を信じてくれる人と一緒に居た方が絶対にいい。


俺は今とても冷静に物事を判断できている。そう。あの二人を助ける必要なんてないんだ。きっとそれがアイツらの為でもあるから。


だから






俺は二人を助けない。



【あとがき】


作者は誰彼構わず人を助ける主人公があまり好きではありません。報いを受けるべき人間は受けるべきだと思っています。なので愛斗にはそういった選択をしてもらいました。

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