最低な私にお似合い
今朝、友達の島野 優里(しまの ゆり)が愛斗に謝ると私に宣言してきた。私は優里に頑張ってと伝えることが精一杯だった。だってこの話に対して私ができることなんて何一つないから。
愛斗はいつも通り、羽田巻君と話している。そんな愛斗の背後から優里が声をかけた。
「…た、環」
優里は遠慮がちにそう言った。
「…なんだよ」
それに対して愛斗は低い声でそう言った。明らかに機嫌が悪くなっているように見える。
「え、えっと…」
そんな愛斗に気圧されたのか優里が少したじろぐ。だが数秒後、意を決したような表情をした優里が言葉を発した。
「沙也加から話は全部聞いた。…ごめん!何も事情を知らないのに環を悪者にして…本当にごめん」
そう言った。私はどうにかして愛斗に優里を許して欲しかった。
「え、何?どういうこと?」
「あいつ悪くないの?」
「何の話?」
そんなやり取りを面白半分で聞いていた周りの人たちがボソボソと呟きだした。。…何も知らないくせに。
「━━━だよ」
「え?」
「今更何言ってんだよ!」
突然、愛斗が悲痛な表情を作りながらそんな声をあげた。私は愛斗の突然の叫びを聞いてポカンと呆けていた。優里も私と同じような表情をしていた。
「まな、と?」
私が小さく呟いたその名前は誰の耳に入ることもなかった。
「お前のせいで…お前らのせいで俺がどれだけしんどい思いをしたか分かるか?!学校に来ても周りからは冷たい目で見られて居場所なんて無い!そんな状況にしたやつが今更何言ってんだよ!」
その『お前ら』の中には私も入っているのだろう。そう理解すると胸が締め付けられるような感覚に陥る。
「ご、ごめ…」
「もう俺に関わらないでくれ」
優里が何とか謝ろうとするが、愛斗はその言葉に耳を傾けることなく教室から出ていってしまった。
愛斗が教室から出ていった後、みんなが愛斗を非難するような声を上げた。
「え、あいつ何?」
「どういうこと?」
「なんなんだよあいつ。女に怒鳴るなんて…」
私はそんな教室の雰囲気に耐えることが出来ず、声を上げた。
「みんな聞いて!」
そう言うとみんなの視線が私に突き刺さる。とても居心地が悪い。でもここで引いてしまえば愛斗が悪者のままになってしまう。そんなことになってしまえば、私はきっとこれから先どんなことがあっても自分自身を許せなくなってしまうだろう。だから私は覚悟を決めた。
「違うの。愛斗は悪くないの」
そう言うとみんなが声を上げた。
「何が悪くないんだよ。女に怒鳴っておいて」
「沙也加ちゃん?幼馴染だから庇いたい気持ちもあるんだろうけど…今はそんな安っぽい同情してたらダメだよ?」
「お前も環に泣かされてたじゃん」
みんなが愛斗を悪く言うことを辞めない。やめて、愛斗をそんなふうに言わないで。悪いのは私だから。
「違うの!話を聞いて!」
私が必死の形相を作ってそう言うとみんなが面食らったような顔になった。その隙に私は事情を話した。
話をしていくうちに、疑いを持っていたみんなの目が次々と変わっていく。私を非難するような目に変わっていく。
そして最後まで話し終えるとみんなの目つきは完全に目の前の悪者に向けられていた。
「は?何それ、じゃあ環なんにも悪くないのか?」
「…沙也加ちゃん。そんなことしないと思ってたのに」
「それに島野も悪いよな。なにも知らなかったのにただ友達のためだって言って環を悪者にしたんだから。そんな気持ち悪い正義感振るうなよな」
次々と私たちに刺々しい言葉のナイフが振りかざされる。痛い。心に見えない傷が次々と出来上がっていく。愛斗はずっとこんな痛みを味わっていたの?それも私のせいで?そう考えただけでどうにかなってしまいそうだった。
私の横にいる優里は顔を蒼白にさせていた。そして何度も「ごめんなさいごめんなさい」と連呼している。
そうでもしないときっとおかしくなってしまうのだろう。そうでもしないと自分のしてしまったことの大きさに耐えられなくなってしまうのだろう。
ごめんなさい愛斗。私はあなたにとてつもなくしんどい思いをさせてしまっていた。それに気づくことなく私は過ごしてきた。それに気づいた今、どれほど自分が馬鹿なことをしたのかも。こんなの耐えられない。
都合のいいことを考える。この状況を愛斗が救ってくれるという都合のいい妄想を。そんなことあるはずがないのに。誰だって自分を傷つけた人間を救いたいなんて思わないよね。
「私って最低」
【あとがき】
どうにかして沙也加のやってきたことに落とし前をつけようとした結果、このような展開になってしまいました。ただ、このまま沙也加の話を終わらせる気はないのでこれからの展開を期待して頂けたらと思います。
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