受け入れられない謝罪
「…」
学校についた俺は無言のまま教室に入る。俺が教室に入った瞬間、周りから刺すような視線が飛んでくる。その視線の意図はきっと俺を疎んでいるのだろう。居心地悪いなぁ…
「おはよう」
だがそんな視線を向けてくる人たちの中で一人だけ声をかけてくれる人物がいた。
「おはよう、樹」
そう、俺の唯一の友人である羽田巻 樹だ。
「…あの人たち、愛斗のことなんにも知らないくせに」
樹がいつも温厚な表情を崩し鋭い目付きになる。
「いいんだよ。気にしないで」
俺はそう言った。口ではそう言ったがやはり居心地が悪いのは事実だ。そしてその原因を作った沙也加が俺は…やめよう。こんなこと考えても仕方ない。変わるんだろ?ならこんな考え持っていてはいけない。
「でも…」
「ほら、この話はもうやめようぜ」
そう言ってこの話にピリオドを打つ。これ以上この話をしていると自分の醜い心が出てきてしまいそうだったから。
「…た、環」
そんなことを考えていると不意に後ろから声をかけられた。声をかけてきた人物を確認するために後ろを向くとそこには前に教室で俺を糾弾してきた名前も知らない小さな女が立っていた。
「…なんだよ」
自然と声が低くなってしまう。どうしてもこいつを目の前にするとあの時の光景が鮮明に思い出される。
「え、えっと…」
そう呟いてから数秒がたった後、その小さな女は覚悟を決めたような顔をした。なんだお前。
「沙也加から話は全部聞いた。…ごめん!何も事情を知らないのに環を悪者にして…本当にごめん」
目の前の女がそう言うとクラスがザワザワとしだした。
「え、何?どういうこと?」
「あいつ悪くないの?」
「何の話?」
反応はそれぞれ違った。だが俺にはそんな周囲の声が聞こえていなかった。
「━━━だよ」
「え?」
「今更何言ってんだよ!」
俺は気づけばそう叫んでいた。再び周囲の目線が俺に突き刺さる。だがそんなこと気にしていられなかった。
「お前のせいで…お前らのせいで俺がどれだけしんどい思いをしたか分かるか?!学校に来ても周りからは冷たい目で見られて居場所なんて無い!そんな状況にしたやつが今更何言ってんだよ!」
言い終えて肩で息をする。
「ご、ごめ…」
「もう俺に関わらないでくれ」
俺は静かにそう言って教室を出た。
「え、あいつ何?」
「どういうこと?」
「なんなんだよあいつ。女に怒鳴るなんて…」
教室ではそんなことを言われていた。
「みんな聞いて!」
そんな声を上げたのは沙也加だった。
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「…」
屋上で雲が少しかかった空を見ていた。今は何もしたくない。どうしてあんなことを言ってしまったんだ。自分でも分からない。気づけば勝手に口が動いていた。
「はぁ…」
ため息を一つ吐いた。それと同時に後ろにあった扉が開いた。
誰だ?
「…愛斗」
「…樹か」
そこには樹が立っていた。
「なんだ?何か用か?」
きっと樹は俺を心配して来てくれたのだろう。そんな樹に対して冷たい言葉をかけてしまう自分に嫌気が差す。
「…」
樹は何かを言う訳でもなく、無言で横に座った。
「…このまま授業サボっちゃおうか」
「…そうだな」
樹は何も言わなかった。何も言わないでいてくれた。今の俺はそれがとても嬉しかった。
「…愛斗、僕が前に言ったこと覚えてる?」
「…何の話だ?」
前がいつのことか分からない。樹はなんのことを言っているんだ?
「愛斗に敵しかいないのなら、僕だけは君の味方になるって言ったでしょ」
そう言われて胸が熱くなるのを自覚する。
「…ありがとう」
俺は静かに頬を濡らしながらそう言った。
【あとがき】
愛斗に謝ってきた女の子は、正気に戻った沙也加から話を聞いて謝りに来ています。
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