昔のように
「あ…おはよう愛斗」
「おはよう、沙也加」
学校へ登校していると沙也加が待っていた。
「…そ、それじゃあ行こっか」
「あ、あぁ」
二人の間には気まずい空間が出来上がっていた。それもしかないことと言えばしかないのかもしれない。
「…」
「…」
沈黙。それが酷く息苦しかった。
「と、ところでさ」
その息苦しさを無理やり振り払うように沙也加が口を開いた。
「あの話はどうなったの?」
「あの話?」
そう聞き返すと沙也加は控えめに頷いた。
「その…家族と本音で話す手伝いをして欲しいって話」
沙也加はそう言ってこちらを見ていた。
「あぁ…それならもういいんだ」
「え?」
「もう話は出来たからな」
出来たのは話だけだが。
「…そっか」
「あぁ」
「そうだよね…私の助けなんて要らないよね」
沙也加が小さな声で何か言った、
「え?」
「ううん。なんでもない」
沙也加は首を横に振りながらどこか寂しそうにそう言った。
「…」
「…」
再び沈黙が訪れる。どうしても会話が続かない。
「…話し合いは出来たんだよ」
「?」
突然話し出した俺を沙也加が不思議そうに見てきた。
「でも二人との距離を感じてるんだ」
「愛斗?」
沙也加はよく分かっていないようだったが、構わず続ける。
「どうしても俺が居ない方がいいんじゃないかって、そう思うんだ」
「…」
もしかしたら俺は誰かに心の中の言葉を聞いて欲しかったのかもしれない。
俺は今どんな顔をしているのだろうか?
「でも…本当は俺もあの中に入りたい。楽しそうな二人を見ているのは辛い。でも…怖いんだ」
要領を得ないことを言っていることは自分でも分かっている。だが言葉にせずにはいられなかった。きっと沙也加は俺が一体何を言っているのか理解出来ていないと思う。
「だからさ…たまには俺の家に遊びに来て俺の相手でもしてくれよ」
自己中心的で勝手な物言い。沙也加を自分のために利用する。きっとこの場に第三者がいたのならお前は一体何を言っているんだと言われてしまうだろう。それでも俺は誰かに縋らずにはいられなかった。もしこれで沙也加が了承してしまえばきっと俺はまた沙也加に依存してしまうだろう。それは好ましくない。だがそうでもしないと俺は…
「…分かった。遊びに行くよ」
「ありがとう」
あぁ、これで少しは気持ちがはれ…
「でもそれは愛斗が家族と仲直りしてから」
「何言ってるんだ沙也加。俺はもう仲直りして…」
「ならさ」
俺の言葉を沙也加が遮った。そしてそのまま言葉を続ける。
「どうしてそんなに辛そうな顔をしてるの?」
どうやら俺は辛そうな顔をしていたらしい。
「…」
何も言わない。いや、言えない。きっとそれは図星を疲れてしまったからだろう。俺たち家族ら本当の意味でまだ仲直りが出来ていない。沙也加はそれを瞬時に見抜いたらしい。
「本当は分かってるんじゃないの?今のままじゃだめだって。自分から行動しないとだめだって」
分かっていた。そんなの分かっていたのだ。だがやはり怖い。これ以上距離が離れてしまうのはきっともう耐えられない。そんなことになってしまえば次は本当に壊れてしまう。
「ねぇ、愛斗。私に出来ることはない?」
「…」
沙也加がそう聞いてくる。
「…」
きっと沙也加が俺たち家族にできることは何も無い。でも俺だけになら
「なら…昔みたいに俺と接してくれ」
俺が好きだった頃の沙也加と同じように。
「そんなことでいいの?」
沙也加はそう言って来るが俺にとっては大切なことだった。
「あぁ、それだけで…十分だ」
「…そっか。うん、分かった」
沙也加はそう言って笑った。
「ぁ」
その笑顔は俺の知っている笑顔だった。俺が心酔していた頃の沙也加の笑顔だった。
「は、はは…」
自然と目が熱くなる。まつ毛が濡れて涙が溢れてくる。
「ありがとう」
ただ一言そう言った。これで俺たち家族の仲が変わるわけじゃない。でも、これで少しは気持ちが楽になった。
やっぱり俺が感じている疎外感が消えることは無い。でも足掻いてみようと思えた。それがどれだけ時間がかかっても。
【あとがき】
え?なんか沙也加許されてね?と思う方もいると思います。は?ふざけんな納得出来ねぇよ、と思う方もいると思います。ですが酷いことをされたと言っても愛斗にとって幼馴染である沙也加との思い出はそう簡単に消すことが出来ないものです。釈然としないと思われるかもしれませんが、沙也加との話がこれで終わる訳では無いので、もうしばらくお待ちください。
それと星がついに1000を突破致しました。まさか四桁を越す評価を頂けるとは思っていなかったので本当に嬉しい限りです。これからもこの作品をよろしくお願いします。
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