きっと大丈夫

「…」


俺はベッドで目を覚ましたまま寝転がっていた。時刻は7時を少し過ぎた頃。いつもなら既にリビングに言っている時間だ。だがそうしていなかった。


なぜなら昨日思い切って本心を全て話してしまったせいでどんな顔をして二人と話せばいいのか分からなくなったからだ。


だがこんなことをしていても何も変わらず刻一刻と時間が過ぎていくだけだった。幸い、今日は学校が休みだ。だがバイトがある。いつまでもこうしている訳にはいかない。


ベッドから体を起こしリビングへ。そこにな既に母さんと奈那がいた。


「…おはよう愛斗」

「…おはようお兄ちゃん」


二人は俺の事を視認すると恥ずかしさと少しの気まずさが混ざったような顔をした。まぁ、あんなに泣いたんなら仕方ない対応だろう。


「おはよう。母さん、奈那」


俺も二人に挨拶を返す。だがやはりそれはぎこちない挨拶だった。確かにぎこちない挨拶だった。だがこれまでのような重苦しい雰囲気ではなかった。


「愛斗。…その、今日家族みんなでどこかに遊びに行かない?」

「え?でも母さん仕事は…」

「最近は余裕が出てきてかなり自由が効くようになってきたの。だから心配しなくても大丈夫よ」


母さんは遠慮がちにそう誘ってきた。きっと前俺に断られたことを思い出しているのだろう。


「ありがとう母さん。でも今日はバイトが入っててさ…」

「あ、そうよね…いきなり誘ってごめ」

「でも明日なら大丈夫だよ」


そう言うと母さんの瞳が揺れた。


「っ!わかったわ!明日は絶対に仕事を休むから遊びに行きましょう!」


さっきの様子が嘘のように母さんは元気になった。


「…ははっ」


俺は自然と笑みがこぼれた。


「あっ…その、ごめんなさい。はしゃいじゃって…」


母さんは恥ずかしそうにそう言いながら俯いた。


「大丈夫だよ。久々にそんな母さん見た」

「愛斗…」


俺たちはお互いの目を見つめていた。お互い思うところがあるのだろう。そんなことをしていると奈那が頬を膨らませていた。


「…お兄ちゃん。お母さんばっかり」

「…母さんでもダメなのか?」

「…私も同じように接して」


どうやら奈那は俺が思っていたよりもずっと嫉妬深いようだ。


「悪かったよ」


そう言ってそっと奈那の頭を撫でる。


「あっ…んふ」


すると奈那は気持ちよさそうに目を細めた。…この光景も随分久しぶりに見たな。半年。言葉にするとそれほど長くないように聞こえるかもしれないが体感した時間は半年よりも遥かに長かった。


「…」


確かに俺は本心を二人に話した。それはいい。やっとスッキリした。でも、でもやっぱり昔と同じように接するにはかなりの時間がいると思う。今だってぎこちない。それを完全に感じなくなるのはやっぱりかなり先の事だと思う。


だって今でも脳裏にこびりついて離れないんだ。二人が楽しそうに話している空間に俺が居ない時のことを。


それを思い出す度胸が締め付けられて苦しくなる。二人の笑顔を見る度にその時のことを思い出してしまう。


…俺はいつになったらその事を忘れられるんだろうか。


「お兄ちゃん?」


考え事をしていると奈那が心配そうな顔でこちらを見ていた。


「あ、あぁ…なんだ?どうかしたか?」

「…ううん。なんだか悩んでいるように見えたから」


どうやら顔に出てしまっていたようだ。気をつけないと。


「いや、大丈夫だ」

「そう?それならいいんだけど…」


そう言った奈那はまだ心配そうな顔をしている。やっぱり奈那は優しい子なんだ。ただ自分の気持ちを表現することが苦手なだけで心優しい女の子なんだ。


大丈夫。俺は大丈夫。なんとかやっていける。きっと大丈夫だ。


「それじゃ朝ごはん作るから待っててね」


母さんがそう言って朝食を作り出した。


数十分後、朝食を食べ終えた俺はバイト先へと足を運んだ。



【あとがき】


次の話は久しぶりに久井さんとの話です。

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