本心

「…母さんと奈那に聞いて欲しいことがあるんだ

だ」


リビングでそう切り出した。それを聞いた母さんと奈那は緊張したような面持ちになった。


「…分かったわ。とりあえず椅子に座りましょう」


そう言われて俺たちはいつもご飯を食べている椅子に座った。


「…」

「…」

「…」


少しの沈黙。それは覚悟を決めるための間だった。今まで胸に秘めていた本当の気持ちを話すんだ。そう考えると緊張してしまう。二人もこんな気持ちだったんだろうか。


「…母さん。奈那。俺は…俺はただ愛して欲しかったんだ」

「…」

「…」


二人は無言で俺の事を見つめている。


「分かってる。母さんはずっと俺の事を愛してくれていたから俺に構うことが出来なかった。奈那も愛しているが故にあんな行動をとってしまった。それは分かってるんだ」


そう。言葉で言われて理解はした。だが


「でも…それでも俺は行動で愛して欲しかった」


そう言うと二人の表情が悲痛なものに変わった。


「母さんには甘やかして欲しかった。昔みたいにもう一度甘えたかった。奈那には無視なんてしないで普通に接して欲しかった」


一度話し出したらもう言葉が止まらなかった。次から次へと心の内が出てくる。


「正直二人のことを恨んだことだってある。俺が何をしたんだって、そう思ったこともある」

「まな、と」

「お兄、ちゃん」


二人は目に涙を浮かべている。だが決して泣かないように堪えていた。俺も自然と目に涙が浮かぶ。


「でも今は二人の本心を知れた。知れて良かったと思ってる。あぁ、この人たちはこんなふうに考えていたんだって思ったから」


だからこそこれ以上わがままを言ってはいけない。


「愛してくれていたんだ。そう分かっただけで十分だよ。だからもう母さんに甘えたいなんて言わない。奈那に昔のように仲良くしてくれなんて言わない」

「っ!愛斗!」

「っ!お兄ちゃん!」


母さんと奈那は勢いよく立ち上がり俺の方に駆け寄ってくる。


「そんなのは俺のわがままだ。分かってるんだ。分かってるのに…昔みたいに戻りたいって…思っちゃうんだよ」


二人が俺に抱きついてくる。


「ごめんなさい!私はあなたのことを何一つ分かっていなかった!あなたはこんなにも苦しんでいたのにそれを理解しようとしなかった!私なんて母親失格だって、そう分かってるの。でも…でもやっぱりあなたの母親でいさせて…」

「ごめんなさい!ごめんなさいお兄ちゃん!私の軽率な行動のせいでここまでお兄ちゃんを追い詰めて…私みたいな妹なんて要らない。自分でもそう思う。でも私はお兄ちゃんと一緒にいたい。都合のいいことだっていうのは分かってる!分かってるけど…お願い…私のお兄ちゃんでいて…」


二人が泣きながら痛いくらいに抱きしめてくる。俺も我慢できずに涙をこぼす。


「俺は…寂しかったんだよ。母さん、奈那」


寂しかった。それが全てだった。


二人だけの空間が広がっていることに対して疎外感を覚えた。俺は要らないんだって、そう言われているような気がした。


でもそれは違った。ただ俺たちはすれ違っていただけなんだ。お互いがお互いのことを理解していなかった。


「これからは沢山甘えていいからね…これまで甘えられなかった分、存分に甘えてくれていいからね…」

「寂しいなんて思わせないくらいずっと一緒にいるから…だから私からも離れないでね…お兄ちゃん…」


二人がいっそう強く俺を抱きしめる。体が痛いくらいに締め付けられるが、今の俺にはその痛さが心地よく感じた。



【あとがき】


やっと愛斗の本心が二人に伝わりました。ここまで長々と引っ張ってしまい申し訳ありません。これからこの家族がどんな風に変化していくのか楽しみにして頂けたらと思います。

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