お弁当議論
「どうしたの愛斗、なんだか悩んでるような顔してるよ?」
昼休み、自席に座っていると後ろからそんな声がかけられた。
「樹…」
そこには樹が立っていた。
「どうしたの?何かあったの?」
無かったと言えば嘘になる。だが樹に伝えてもどうにかなるような問題だとは思えなかった。
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「そう?でも、何かあったんなら僕にいつでも相談してね?」
「あぁ、ありがとうな」
「どういたしまして」
ほんと樹には助けられてばっかりだな。
「じゃあご飯食べに行こ?」
「あぁ」
樹にそう言われて俺は席を立った。そしていつもご飯を食べている屋上に向かった。
階段を登りきり少し錆び付いた鉄の扉を押して開ける。すると一面真っ青な空が目に入ってきた。
「今日はいい天気だな」
「そうだね」
そんな他愛もない話をしているといつもは誰も居ない屋上に先約が居ることに気がついた。
「ん?誰かいるな」
その誰かは立ち上がってこちらへ向かってきた。え、誰?
その人物とは少し距離が離れていて顔がよく見えない。
徐々に距離が縮まってくる。それに伴って顔も段々鮮明になってきて…
「奏?」
「そうだよ。愛斗とご飯が食べたいんだって」
横にいた樹がそんなことを言っていた。
「ちょ、ちょっと兄さん!」
そしてそんな樹の声が聞こえていたのか奏が慌てたように小走りで近づいてくる。と、その時。奏が足を絡ませて体勢を崩した。
「あ、危ない!」
俺は咄嗟に奏のお腹辺りを腕で支えた。そのおかげで何とか奏は転ぶことがなかった。
「大丈夫か?」
「…」
返事がない。
「奏?」
不思議に思った俺は奏の顔を見る。そこにはポケーっと呆けている奏がいた。
「はっ!あ、あああ、ありがとうございます!」
「おう、怪我がなくて良かったよ」
「…はぁ、全く。愛斗は危険だよ」
「は?どういう意味だ?」
樹にそう聞き返す。
「危険です…」
だが樹は答えずに奏も危険だと言ってきた。どういう意味なんだ?
「は、早くご飯を食べましょう!」
「…そうだね。ほら愛斗、行こう」
「あ、お、おい」
結局危険だと言われた意味は分からないまま二人とご飯を食べることになった。
「はい愛斗」
そう言って樹が弁当を俺に手渡してくる。
「ほんとにいつも悪いな…」
「いいんだよ。ちゃんと材料費は貰ってるんだから」
「なんですか?それ」
やり取りを聞いていた奏からそんな質問をされた。
「ん?樹から聞いてないのか?俺の弁当を樹が毎日つくってくれてるんだよ」
それを聞いた奏は驚愕といった表情をしていた。
「…はっ!だ、だから最近起きるのが少し早かったんですね…」
「何か言ったか?」
奏が何かを小声で話していたがよく聞き取れなかったため聞き返すと奏が何かを決意したような目で見てきていた。
「…決めました!明日から愛斗先輩のお弁当は私が作ります!」
「ん?な、なんでいきなり…」
どういう事だ?
「だ、ダメだよ?!僕が愛斗のお弁当を作るんだから!」
「いいえ!私が作ります!」
「ダメだよ!」
「お、おい…どうしたんだよ」
そう声をかけてみるがヒートアップしている二人には俺の声は届かなかった。
結局俺の弁当は二人が一日ずつ交代で作ることになった。
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