懐かしい?
今俺は学校へ向かっている。もちろん授業を受けるために。昨日は自分の情けなさに嫌気がさした。でもしょうがないだろ?思い出せないんだから。
自分自身にそんな言い訳をしながら歩き続ける。
「愛斗ー!」
そんな俺に馴染みのある声がかけられた。
「綾乃…」
変わってしまった綾乃。この綾乃とは話したく無い。だが昔を思い出す手がかりになってくれるかもしれない人物が綾乃だった。
「いや、沙也加…」
だから俺は昔読んでいたはずの呼び名で彼女を呼ぶ。
「え…さ、沙也加?愛斗、今沙也加って言ったの?」
沙也加が困惑の表情を浮かべている。
「あぁ、そう呼んだ」
俺がそう伝えると?彼女は…泣いていた。
「え、お、おい!どうしたんだよ」
今度は俺が困惑の声を上げる。
「あ、ご、ごめん…なんだか、懐かしい気持ちになっちゃった」
懐かしい気持ち、ね。
「なぁ沙也加。お前に好きな人が出来たって聞いた時、俺は落ち込んだんだ」
「え?」
彼女は驚いたような顔をしていた。
「多分それは俺じゃないんだろうなって。だってお前はあの先輩と楽しそうに話してたから」
「そ、それは違うよ!」
今の沙也加はおかしな沙也加じゃない。なんだか懐かしい感じのするような…懐かしい?あぁ、俺は沙也加とはこういう風に接してたっけ。
「あぁ、それは分かってる。前あんなに好きだって言われたらな。でもあの時の俺はそれに気づくことが出来なかった」
そう言うと沙也加は少し間を開けて口を開いた。
「…あたし、も、あの後伝え方が悪かったと思ったの」
「そうなのか…」
「で、でも!私が好きなのは本当に愛斗なの!」
沙也加が訴えかけるようにそう言ってくる。
「知ってる」
「っ!だ、だから!私と付き合ってください!」
正常な状態の沙也加はそう言って頭を勢いよく下げた。
「…悪い。俺はお前とは付き合わない」
「…あ、あはは…そう、だよね。当たり前、だよね…みんなの前で愛斗を追い詰めるようなことまでしちゃったし…」
多分教室での1件のことを言ってるのだろう。
「…ああ、そうだな。確かに俺はお前を恨んでる」
俺がそう言うと沙也加の顔がいっそう悲痛なものとなった。
「今もお前を見ると嫌な気分になるし関わりたいとも思わない」
「う、ん」
沙也加は涙を堪えながら佇んでいる。
「でも俺も自分で悪い所があったと思ってるんだ」
「え?」
静かに涙を流していた沙也加がそんな声を上げた。
「本人に直接確認せずに決めつけたしな」
「愛斗が悪かったところなんて何も無いよ!私が全部悪いんだよ!」
沙也加は否定してくるがやはり俺にも悪いところはあった。
「…少しでも悪いと思ってるんなら俺に協力してくれないか?」
「する、何でもするよ」
内容を何も説明していないのに目の前の少女はそう言ってきた。
「いいのか?」
俺は思わず聞き返していた。
「うん、沢山愛斗に迷惑かけちゃったから少しでも愛斗が救われるなら」
「そう、か」
あぁ、俺はこの少女を知っている。間違いなく俺が好きだった頃の綾乃 沙也加だ。
「それで、私は何をしたらいいの?」
「俺があの二人、真希さんと奈那さんに本音で話せるように手伝って欲しいんだ」
「真希、さん?奈那、さん?」
俺が二人をそう呼んだことに疑問を持ったのか沙也加が不思議そうな顔をしている。
「あぁ…気にしないでくれ」
「…うん」
嫌な沈黙が流れた。
「そ、そういうことだから頼むな」
「あ、愛斗」
俺はその場から逃げるように足早に学校へと歩き出した。
沙也加のことは今では苦手だ。だが自分の気持ちをあの二人に話すには沙也加の手助けがいる。いらないかもしれないけど。
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