思い出せない
帰ってきた俺は早速2人に話してみることにした。
「あの、ちょっといいですか?」
目の前には真希さんが居る。俺がそう話しかけると真希さんはびっくりしたような顔をしてから勢いよく聞き返してきた。
「っ!な、なに?!」
おぉ…そんなに勢いよく聞き返さなくても…まぁいい。さて
「…えっと」
あれ?
「な、なに?」
真希さんが心配そうな顔をしている。
「その…」
おかしい。言葉が出てこない。
「すみません。やっぱりなんでもないです」
「あ、愛斗!」
俺はそう言い残すとその場から逃げ出すように自分の部屋に帰った。なんだ?なんで言葉が出てこなかったんだ?小さい時みたいに本音で話すだけだったのに。あれ?小さい時みたいに?
俺、小さい時真希さんとどうやって会話してたっけ…思い出せない。なんでだ?なんで思い出せないんだ?
おかしい。おかしい。どれだけ思い出そうとしても思い出せない。…奈那さんになら話せるかもしれない。
そう思った俺は自分の部屋から出て隣の扉の正面に立った。そして拳を作り拳の甲で扉を軽く叩く。
「奈那さん、今ちょっと時間いいですか?」
そう問いかけると扉が勢いよく開き奈那さんが飛び出してきた。
「お兄ちゃん?!な、なに?」
だからそんなに勢いよく出てこなくても…
「えっと…」
だめだ。やっぱり言葉が出てこない。なんでだ?
「な、なにかな」
「…」
「お兄ちゃん?」
奈那さんが不思議そうな顔をしている。だがやはり言葉は出てこない。
「…すみません。やっぱりなんでもないです」
「え、お兄ちゃん?!」
俺はやはり逃げ帰るように自分の部屋に戻った。だめだ。奈那さんとどうやって話していたのかも思い出せない。なんで…
なんで?と考えたところで1つの可能性が頭を過ぎった。俺が拒絶し続けたから?そのせいで話し方を忘れたのか?
もしそうだとしたらもうどうしようもないんじゃないか?俺は前まであの二人とどうやって話していたか忘れてしまっている。どれだけ思い出そうとしてもダメ。ならもう思い出す手段なんて無い。一体どうしたら…
いや、まだ望みはある。だがそれはあまり気が進まない。だっておかしくなっている幼馴染に話しかけようとしているのだから。
綾乃は俺の彼女だと言い張って俺の言葉に耳を傾けない。正直話が通じるとは思わない。だが話が通じない相手なら話せるかもしれない。ほとんど独り言と変わらないから。多分、いや絶対に綾乃は聞く耳を持たず近づいてくるだろう。そんな綾乃を前に独り言を呟くだけだ。
「大丈夫」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言ってベッドに体を預けた。
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