どこ行ってたの?

楽しい気分で家に帰ってきた俺はそんな気分が台無しになっていた。なぜなら玄関の前に綾乃がいたからだ。


「…何してんだよ」


不機嫌なことを隠すこともせずにそう言う。


「ねぇ、愛斗。今日どこ行ってたの?」


「なんで俺がそんなことおしえなくちゃいけないんだよ」


どうしてわざわざ日々の行動を伝えなくてはいけないんだ。そんなことする義理もないし必要も無い。


「なんでって私は彼女なんだから当然でしょ?」


「…前にも言ってたけど彼女ってなんだ?俺は彼女を作った記憶なんてないんだが?」


「…え?何を言ってるの?私は愛斗の彼女だよ?」


前からこいつとは話が出来ない。どうしたんだよ。


「お前は俺のことが好きなのか?」


「何当たり前のこと聞いてるの?大好きだよ」


そう言った綾乃は満面の笑みを浮かべていた。普通なら可愛いと思う笑顔のはずだ。でも俺にはその顔が酷く恐ろしく見えた。どこか…狂気を感じるような気がした。


「お前、あの先輩が好きなんじゃないのか?」


「先輩?あぁ、幸樹先輩のこと?先輩彼女いるよ?」


は?あいつ彼女がいるのに綾乃にあんな馴れ馴れしく話してたのか?あいつおかしいんじゃねぇの?


「…」


俺が何も言えないでいると綾乃が話し始めた。


「だから私が好きなのは愛斗だけ。今も昔も。」


その言葉が本当か嘘かは分からないが俺は綾乃の気持ちには答えることが出来ない。


「悪いが俺はお前を彼女にするつもりは無い」


今はもう彼女とかそういうのはいらないと思い始めている。いない方が楽だ。


「うん?何言ってるの?私はもう彼女なんだから私以外の彼女を作る気なんてないのは当たり前だよね??」


ダメだこいつ。話が出来ない。噛み合わない。


「ちげぇよ。お前を彼女にはしないって言ったんだ」


「…なんで?」


目の前の綾乃は本気で分からないと言った顔をしていた。


「俺がお前のことを好きじゃないからだ」


「そんなことないよね?愛斗は私のこと好きだよね?」


自意識過剰もいいところだ。


「好きじゃない。断言できる。俺はお前のことが好きじゃない」


これは嘘偽りない本当の気持ちだ。


「そうなの?でも私は愛斗のこと好きだからこのまま彼女でいてもいいよね」


は?もうこいつダメだろ。


「いいわけないだろ。もう俺家入るからどいてくれ」


そう言って綾乃の隣を通り過ぎようとすると右手首を握られた。


「今日はここで話を終えるけど私と愛斗は恋人同士だからね?それだけは揺るぎない事実だからね?だから他の女の子と一緒に遊んだりしちゃダメだよ?」


…こいつ、今日俺が樹奏と遊びに行っていたことを知っているのか?いや、そんなこと無いはずだ。


「何言ってんだよ。離せ」


俺は右手を振るい手首から綾乃の手を引き剥がす。


「またね、愛斗。今度は家に入れてね」


絶対に入れない。入れたら何をしでかすか分からないからな。

俺はそう決意して玄関から家に入り扉を閉めた。



「うふふ、愛斗やっぱりかっこいいな…」


一人の少女の目には目の前の少年しか写っていなかった。

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