着いてきた理由

「楽しい?」


俺は奏にそう聞いた。楽しいね。と言わなかったのはなんだか強制的に楽しいと言わせてしまうかもしれないと思ったからだ。


「あ、はい。今まではこんなとこに来て遊ぶなんてことしたことがなかったので新鮮で楽しいです」


「俺も久しぶりに遊園地なんて来たな…」


遊園地なんて来たの何年ぶりだ?最後に来たのは父さんが亡くなる前だったな。そんなことを考えると少しだけ寂しい気持ちになってしまった。


「愛斗先輩?」


おっと、少し顔に出てしまっていたようだ。


「ところでどうして今日着いてこようと思ったんだ?」


俺は話を変えた。


「普通、兄貴とその友達が遊ぶところに行きたいなんて思わないと思ってな」


普通はそうだろう。もし俺に姉ちゃんがいたとして遊びに行くと言っても着いて行きたいとは思わない。


「そう、ですね。ある日、兄さんが友達ができたと嬉しそうに話してきたんです」


奏がそんな始まり方で話しだした。


「兄さんは気弱な人なので私はとても心配になりました。もしかしたら兄さんを利用しようとしているのでは無いか、と」


まぁ分からなくもない。今でこそ樹はかなり頑固なことを知っているが初対面の人だと樹は弱気になるだろう。


「だから兄さんにそう聞いてみたんですが、話を聞けば聞くほど「環君はね!環君がね!」と嬉しそうに愛斗先輩のことを話すんです」


樹…やめてくれ。恥ずかしいだろ。


「聞けば「僕みたいな人にも親切に接してくれて信頼してくれてる」と言っていました。兄さんがそんなことを言うことは今まで無かったのでなんだか私まで嬉しくなってしまいました。きっとその『環君』はとてもいい人なのだろうと私の中で確信となりました。ですがやはり一度は会ってみたいということで無理を言って今日連れてきてもらったんです」


なるほど、だから初対面の俺に対してあんなに評価が高かったのか。


「そして愛斗先輩は本当にいい人でした。兄さんはもちろん、妹である私にもとても優しく接してくれることが本当に嬉しかったんです。私、学校だと一人でいることが当たり前なんですがこんな体験してしまったら友達が欲しくなってしまいます」


「じゃあもう出来てるな」


俺はそう言った。


「え?」


奏は少し困惑したような顔をしていた。


「俺はもう奏の友達だろ?だったらこれから二人目、三人目の友達を作っていこうな」


「い、いいんですか?」


「ん?何がだ?」


奏の問の意味が分からなくて聞き返す。


「わ、私の友達なんて…そんなの…いいんですか?」


「なんでダメなんだ?」


本当に意味がわからなくてそう聞く。


「い、いえ。……ありがとうございます」


「おう、これからよろしくな」


「はい、お願いします!」


そう言った奏は満面の笑顔を浮かべていた。それを見た俺は素直に可愛いと思った。


「もっと笑えばいいのに」


「え?」


「そっちの方が可愛いぞ?」


「え?!か、かわ!?え、と、その、…ありがとうございます…」


奏は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「おまたせー」


そこでトイレに行っていた樹が帰ってきた。


「そろそろ行くか」


俺は隣に座っている奏にそう声をかけて立ち上がる。


「…はい」


奏もそう言って立ち上がったが顔は真っ赤のままだった。



それから俺たちは夕方まで遊んで遊園地の門の前で別れた。



今日は本当に楽しかった。こんなに楽しかったのは久しぶりだな。



そんなことを思いながら俺は帰路に着いた。

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