待ち合わせ
今日は遂に羽田巻と遊びに行く日だ。高校生にもなってこんなにも楽しみにしているなんて他の人には知られたくない。
そんなことを思いながら準備をしていた。
「あれ、お兄ちゃんどこか行くの?」
すると奈那さんが話しかけてきた。
「はい、今日は友達と遊びに行くんです」
特に隠す必要も無いため素直に答えた。
「え、お兄ちゃんが誰かと遊ぶなんて…」
なんだ?なんて言ったんだ?
「そ、それなら私も…」
奈那さんが何か言いかけて途中でやめた。
「なんですか?」
「…ううん。なんでもない。楽しんできてね」
そう言った奈那さんはどこか寂しそうな顔をしていた。その顔が何故か心に引っかかったが今日の俺は浮かれていたため直ぐに引っかかりは無くなった。
奈那さんにそう言われた後、俺は直ぐに家を出た。
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言えるわけないよね。私もついて行くなんて。だって今までお兄ちゃんを遊ばせなかったのは私なんだから。そんな原因である私がついて行くなんてそんなこと絶対に言えない。
「そっか、お兄ちゃん友達出来たんだった」
それは当たり前のことのはずだ。それなのに寂しいと感じてしまう。それはきっと私が今までお兄ちゃんを束縛しすぎたせいだ。お兄ちゃんが居る日常が当たり前だと勘違いしていた。
ふと考える。本当にお兄ちゃんがこの家から出ていったら?私たちを見限って出て行ってしまったら?
想像しただけでも泣きそうになってしまう。
「嫌だよ…もっとお兄ちゃんと一緒に居たいよ…」
もし本当にお兄ちゃんが出ていくと言っても私は行かないでなんて言えない。そんな権利私には無い。
もっと素直になってれば良かったな。
人は失敗を繰り返して成長すると言われているが私の場合は失敗を繰り返しすぎた。もう手遅れなのかもしれない。でも、それでも完全に手遅れだと確信する日まではなんとか…
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楽しみすぎて家を早く出すぎてしまった。待ち合わせ場所の駅前には羽田巻はまだ居なかった。…当たり前だな。だってまだ30分前だから。
さてどうやって時間を潰そうか。そんなことを考えていると
「あれ?環君?早いね!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。羽田巻?早くないか?まだ30分も前だぞ?そんなことを思いながら振り返る。
「羽田巻、はやい、な…」
「は、はじめまして…」
そこに居たのは羽田巻、と誰だ?
「えっと、羽田巻?」
「紹介するね。僕の妹」
妹?あぁ、屋上で言ってた子か。
「え、と、羽田巻 奏(はたまき かなで)です。よろしくお願いします」
「あ、あぁ、俺は…」
俺も名前を名乗ろうとする。
「環 愛斗先輩。ですよね?」
「お、おう。よろしくな」
どうしてこの兄弟は俺が名前を名乗る前に俺の名前を言ってくるんだ。
「ごめんね?奏がどうしてもついて行きたいって言うから…」
「あ、あぁ、気にしなくていいぞ」
羽田巻の妹と言われた少女の第一印象は教室の隅にいて本を読んでそう。という感じだった。びっくりするほど可愛い訳では無いが顔は整っている。うん、可愛いな。なんだか羽田巻に女性物の洋服を着せたような…は!今俺は何を…
「ん?じゃあ俺はなんて呼べば良いんだ?」
それは独り言のつもりで言った言葉だった。
「えと、奏、って呼んでくれたら…」
おぉう。いきなり名前か。まぁ仕方ないな。羽田巻が二人いたら紛らわしいし。
「分かった。よろしくな、奏」
「ひゃ、ひゃい…」
よろしくと言うと奏は顔を赤くして俯いてしまった。えぇ…そんなに俺に名前で呼ばれるのが嫌だったのか?ちょっとショックだな…
「…ずるい」
「え?」
さっきまで黙っていた羽田巻が急にそんなことを言った。
「なんで今日会ったばっかりの奏が名前で呼ばれて僕が苗字で呼ばれてるの?!」
「ふふ、私の方が上ですね。兄さん」
あ、そんな風に笑うんだな。奏の笑顔は柔らかくて安心するような笑顔だった。
「わ、分かったよ。今から樹って呼ぶよ」
「っ!うんうん!ぼ、僕も愛斗って読んでいいかな?!」
「お、おう。全然いいぞ」
やっぱりはたま、樹はかなり押しが強いな。
「っ!だ、だめですよ…わ、私が先に呼んでもらってたのに…」
「え?」
なんでそんなに奏からの評価が高いんだ?俺この子にあったことあるっけ?少し考えただけでわかる。絶対に会ったことがない。そう断言出来る。
「わ、私も愛斗先輩って呼んでもいいですか?」
奏が不安そうな目でこちらを見てくる。あぁ、やっぱり兄妹なんだな。不安そうな目が樹とよく似ている。
「あぁ、全然いいぞ。好きに呼んでくれ」
「やった…あ、その…」
控えめに喜んだ奏は顔を赤くしてまた俯いてしまった。
「むぅ…」
樹がほっぺたを膨らませてこちらを見ていた。
「な、なんだ?」
「愛斗は僕達兄妹を誑かすんだ?」
「ちょ、言い方悪すぎだろ」
しばらくそこで話していたが遊園地の開園の時間が近づいてきていたため移動を始めた。
移動の最中も今みたいな会話が続いていた。
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