約束
やはり、というか学校に行くと俺は周りから白い目で見られた。それは言うまでもなく彩乃との会話のせいだろう。
はぁ、めんどくさいな。
めんどくさいとは思うが学校が早く終わればいいとは思わない。なぜなら学校は羽田巻と話せる唯一の場所だから。
憂鬱な毎日も羽田巻と話せば忘れることが出来る。
そう考えているとさっそく羽田巻が話しかけてきてくれた。
「環君、今日も一緒にお昼ご飯食べようね」
こいつだけなんだよな。この学校で普通に話してくれるのは。
「あぁ、いつも通り屋上でいいか?」
俺は少しだけ声のトーンが上がりそうなのを必死に堪えてそう返す。
「うん!もちろん」
羽田巻との会話はそれだけだったが憂鬱だった気分がかなり楽になった。さすが羽田巻パワーだ。
今から昼休みが楽しみになった。
「愛斗…」
一人の少女が愛斗のことを見つめていることに愛斗は気づかない。
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「はい!環君」
昼休み、屋上に来ていた俺と羽田巻はご飯を食べようとしていた。
「…ありがとな」
屋上に来た途端羽田巻は俺に弁当箱を渡してきた。羽田巻が俺に弁当を作ってくると言った日から羽田巻はずっと俺に弁当を作ってきてくれている。それが嬉しい反面、とても申し訳ないのだ。
「どうかしたの?」
俺の表情から何かを察したのか羽田巻が俺の顔を覗き込みながらそう言ってきた。
「いや、こうやって毎日弁当を作ってきてくれることにはものすごく感謝してるし助かってるんだが、…その、申し訳なくて」
そう言った俺を睨みつけるように羽田巻の目が俺の目を見据えた。
「環君。僕は僕がそうしたくてしてるんだよ。だから僕のしたいことを否定するようなことを言わないでくれる?」
「…悪い。…本当にありがとな」
良い奴すぎだろ。こんな友達、俺には勿体ないくらいだ。
「うん!じゃあ食べよ!」
それから俺たちは弁当を食べ始めた。弁当の中身はもちろん同じ。今日は唐揚げがメインだった。箸で唐揚げを一つ摘んで口に放り込む。
朝作ってからそれなりに時間が経っている。だからもちろん冷たいのだがそれでも美味しさが口に広がる。
「今日はどうかな…」
羽田巻が不安そうに俺を見てくる。
「今日も美味しいよ」
そう言うと羽田巻は分かりやすく顔を明るくした。…なんだか羽田巻を見ているとイケナイ気持ちになりそうだ…
それからは弁当を食べながら他愛もない話をした。
「僕、妹がいるんだ」
「そうなのか?」
へぇー、羽田巻にも妹がいたのか。…俺のは妹と呼べないかもしれないが。
「うん。この学校の一年生だよ」
なんと。一緒の学校だったのか。
「それで環君のことを話したら一回会ってみたいとか言ってるだよ」
「羽田巻の妹か…まぁ機会があったら話をさせてもらおうかな」
「うん。話してあげてね。妹も僕と一緒であまり人と喋らないタイプだから出来れば環君から話しかけてあげて欲しいかな」
まぁ、機会があればだな。
「それで、ね?」
ん?なんだ?羽田巻が俺の顔色を窺うように話している。
「どうかしたのか?」
「えっと、その、今度の休みどこかに遊びに行かない?」
「…」
「だめ、だったかな」
「あ、あぁ、違う違う。いいぞ。どこかに遊びに行こう」
そう。俺が黙ってしまったのは嫌だったからじゃない。ただ驚いてしまったんだ。今までは誰かに誘われても俺の事情で断っていた。そんなことを続けている間に俺は誰にも誘われなくなっていた。だからもうそんなことはないと思っていた。だから誘われて驚いてしまった。そしてそれ以上に嬉しかった。
「やった!」
こいつ、可愛くね?だ、だめだ!オトコの娘に手を出すなんて…間違えた。男の子に手を出すなんて絶対にしてはいけない!
その日の昼休みは何処に遊びに行くかという話題で持ち切りだった。そして今度の土曜日、ちょうどバイトのシフトが空いているのでそこで遊びいにく事にした。場所は高校生にもなって少し幼稚だと思われてしまうかもしれないが遊園地に行くことにした。
楽しみだなぁ。
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