知ってる人居ない?

俺は綾乃と別れて学校に向かっていた。なんだか気分が重い。





最悪だ。何故最悪かって?綾乃の好きな人が目の前に居たからだ。



はぁ。自然と口からため息が零れる。最近ずっと嫌な日が続くな…



見なかったことにしてさっさと通り過ぎようとした。でも綾乃の好きな人の横にいる人を見てそれが出来なくなった。



派手な格好でいかにもギャルと言う感じの人。その人は綾乃の好きな人と距離が異様に近かった。それこそ彼氏彼女のような…



まさか本当に彼氏彼女なのか?綾乃はその事を知らないのか?なんであの人は綾乃に親しげに話してたんだ?色々な疑問が浮かび上がってきたが女の人を見るとそんな疑問は吹き飛んでしまった。



既視感のある表情だった。笑っているはずなのに笑っていない。矛盾しているのは分かっている。でもそう表現するしかなかった。そしてその顔はどこかで見たはずのものだった。どこだ?思い出せない。だが思い出せないと言うことはそれほど大切なことではなかったのだろう。



俺はそう自分に言い聞かせその人たちのそこを通り過ぎた。



「えっ、環君?」


そんな声は愛斗には届いていなかった。



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「あ、た、環君。こんにちは」


「こんにちは」


俺は学校終わりにバイトに来ていた。もう俺の日課になってきている。


「俺準備してきますね」


「あ、う、うん」


なんか久井さんぎこちなかったな。俺の気のせいかもしれないけど。



準備を済ませてバックヤードから出る。そして店頭に並ぶと久井さんが話しかけてきた。


「ね、ねぇ。環君はどこの高校に通ってるの?」


なんでそんなこと聞くんだ?俺の高校なんてどこでもいいはずだ。そう思いながらも答える


「俺は…」


高校名を答えた俺は久井さんの顔を見た。どこか気まずそうな、そんな顔をしていた。


「そ、そうなんだ…し、知らなかった」


そりゃそうだろ、言ってないんだから。


「それがどうかしたんですか?」


「な、なんでもないよ」


なんだよ、結局言わないのかよ。


「そっか…一緒の高校だったんだ…」


横で久井さんがなにか言っているような気がしたがあいにく聞こえなかった。


「た、環君」


「なんですか?」


まだなにかあるのか?


「そ、その。し、知ってる人、居ない?学校に」


沢山いるだろ?学校なんだから知り合いが居て当然だ。


「いますけど…」


「あ、えと、その、そう言う意味じゃなくて…」


なんだ?なにが言いたいんだ?


「その…ごめん。何でもない」


「…そうですか」


本当になにが言いたいんだ?こんな時、相手の言いたいことが理解できたら楽なんだろうな。

そんなことを思っても仕方ないけどな。



結局バイトが終わるまで久井さんはソワソワしていた。本当になんだったんだ?



俺がバイトを終えて店を出ようとしたところで久井さんが声をかけてきた。


「本当に、知ってる人居ない、かな?」


だからなんなんだよ。


「知ってる人ならいっぱいますけど?」


少しだけこの質問にイライラしてしまった。なんでそんなにその質問ばかりしてくるんだ。


「そう、だよね。ごめんね」


それだけ話して俺と久井さんは別れた。



…あぁ、そういえば今日の朝に見たあの女の人、ちょっと久井さんの面影があったかもしれないな。そんなことないのかもしれないけど。



不確かな記憶を思い出しながら俺は帰路を歩くのだった。

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