なんで?

家、学校、バイト。どこにいても変わらない。どこにいても俺は愛されない。そんなこと分かりきっている。だから全てを諦めたんだ。諦めたはずなのに…最近の俺はどうかしている。



なんなんだ?どうして心が乱れているんだ?いつも通りの日常のはずだ。朝起きて学校に行ってバイトをして帰ってきて寝る。俺の日常はそれだけ。それが機械的に毎日毎日続けられているだけ。



そんな日常の中で俺は全てを諦めたはずだ。母さんと奈那、沙也加に愛されたかった。でもそんなことは叶わなかった。だから諦めた。そうだ、俺は全てを諦めたたんだ。今更愛されようなんて思っていない。はずだ。



だから俺はいつもの日常を繰り返す。



「…おはよう、愛斗」


学校に向かっていると綾乃が待っていた。


「綾乃?どうしたんだ?」


どうして待っていたんだ?幼馴染という鎖で繋がれた関係を断ち切った今、こいつはもう俺と接する必要なんて無くなったはずなのに。


「…やっぱり名前で呼んでくれないんだ」


「なんだって?」


声が小さすぎる。よく聞こえなかった。


「…ううん、何でもない」


「そうか。で、なんで待ってたんだ?」


俺は一番聞きたかったことを聞く。


「…愛斗と学校に行こうと思って」


だからなんでだよ。お前は先輩が好きなんじゃなかったのか?


「…なんでだ?」


思ったことを口に出…


「愛斗のことが好きだから」


「は?」


言われたことの意味が分からなかった。


「だから、私は愛斗のことが好きなの」


「…いや、何言ってんだ?」


本当に何を言っているんだ?


「私は愛斗のことが好き。愛斗は?」


その質問に対しての答えは前までは好きだと答えていただろう。


「…俺は綾乃のことが好きじゃない」


でも今は違う。綾乃に対する好きという気持ちは完全に無くなっていた。


「なんで?」


なにがだ?


「ねぇなんで私のことが好きじゃないの?」


「…は?」


どうして俺が綾乃のことが好きだと思っていたんだ?


「やっぱりあの人が好きなの?」


「あの人って誰だ?」


誰のことだ?頭の中を探しても答えは見つからない。


「バイト先の女の人」


「…なんで俺がバイトしてるって知ってるんだ?」


心の中に芽生えた一つの感情。怖いという感情。どうして俺がバイトをしていると知っているんだ?それに久井さんのことも。俺は綾乃に伝えていないはずだ。


「そんなのどうでもいいよ。やっぱりあの人が好きなんだ」


なんか勘違いしてるようだが俺は久井さんのことはなんとも思っていない。


「俺は別にあの人のことはなんとも思ってないぞ?」


素直にそう伝える。


「嘘。愛斗笑ってた。私といる時は笑わないのに」


俺笑ってたか?覚えていない。


「そんなのたまたまだろ」


なんかめんどくさいな…


「なんでたまたまがあの人なの?私じゃないの?」



「俺もう行っていいか?」


なんだか綾乃と喋るのがめんどくさくなった。だからもう行かせてくれと言ったのだが…


「ダメに決まってるでしょ?まだ話は終わってないよね?」


「俺はもう話したいことなんてないんだよ」


そう行って綾乃に背中を向けて歩き出したが肩を掴まれる。


「ねぇ、まだだって言ったじゃん」


あぁ、めんどくせぇなぁ。


「なんだよ」


少しだけ機嫌が悪くなって声のトーンが下がる。


「お、怒らないでよ…」


急に沙也加が弱々しくそう言った。


「…もう行くから」


俺はそれだけを伝えると学校に向かうためにまた歩き出した。


「愛斗…」


後ろにいる少女はただそう呟くことしか出来なかった。

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