幼馴染
私と愛斗は小さい時からずっと一緒に育ってきた。それこそ小学校に入る前からずっと。
それは幼馴染と呼ばれる関係で他の人とは違う何か特別な関係。私はその関係に満足していた。
だって小さい時はただ一緒に遊んでくれる『お友達』として彼のことが好きだったのだから。
でもそれは次第に違う感情へと変化して行った。愛斗の発言や行動に心がざわつくようになった。例えば「その服似合ってるじゃん」と言ってくれたら心が暖かくなったし、二人で遊びに行っている時に愛斗が私の手を少し強引に掴んで歩き出した時は心が締め付けられるようなそんな感覚がした。
その時の私はまだ小学生低学年。この感情がなんなのか自分で理解していなかった。
でも小学生高学年になれば周りであの子が好きとかあの子がかっこいいとかそんな話が聞こえてくる。
ある子は付き合ったなんて言っていた。みんな恋愛に興味が出てくる時期だった。私もその中の一人だった。その頃には愛斗のことを他の男の子とは違う特別な男の子だと自覚していた。
そしてこの感情がなんなのか恐らく理解していた。
中学生になった頃、私はあの人に出会った。原崎 幸樹(はらさき ゆうき)先輩。
中学生になったばかりで三年生の怖い先輩たちに絡まれていた時、幸樹先輩は私の前に現れて私を助けてくれた。その姿がとてもかっこよくて一目惚れしてしまった。
おかしいよね、私、愛斗が特別な男の子だと思っていたのに先輩のことしか見えなくなったんだから。
私は先輩と仲良くなるために積極的に先輩に話しかけるようになった。なぜだか知らないけどその時愛斗は家にいることが多くなっていた。どうしてだろう?
そして先輩と仲良くなっていくうちに更に先輩のことが好きになった。容姿はかっこいいし性格も良い。先輩は常にクラスの中心に居るような人だった。そんな人を集めるようなスター性のあるところも好きだった。
だから私は先輩に告白した。でも先輩には彼女がいた。あっさり振られてしまった。でもなんだかそんなに悲しくなかった。どうして?あ、そうか。私、愛斗が好きだったんだ。だから先輩に彼女が居たと知った時も悲しくなかったんだ。
そう自覚したのが中学二年生。だからその時から私は愛斗を連れ回すようになった。そういえば愛斗って妹いたっけ?小さい頃三人で遊んだ記憶がある。まぁそんなのどうでもいいけど。
そして現在、高校生になった私は愛斗と登校していた。
「愛斗、私好きな人が出来た」
それはあなたのこと。
「そう、なんだ」
「うん」
気づいてるかな?
「その人はいつも私のそばに居てくれて、頼りがいがあるの。でもどこか危なっかしくて放っておけないような人」
言っちゃった!こんなの愛斗にしか当てはまらないよ!私は赤くなる顔を愛斗に向ける。
「…へぇー」
でも愛斗はどこが上の空。どうして?
「…その人と上手くいくと良いな」
「…愛斗?」
どういうこと?
「俺、用事思い出したから帰るわ」
「え?あ、ちょっと!」
…どうしちゃったの?
次の日、私は昨日と同じように愛斗と登校していた。そんな私に声をかけてくる人物がいた。
「おはよう、沙也香」
幸樹先輩だった。
「あ、おはようございます!先輩」
私は少し声が弾むのを自覚できないままそう声をかける。一度振られた相手だ。気まずくないのか?そう聞かれても別に?としか言えない。
その証拠に私は先輩に愛斗とのことを相談しているのだから。先輩は真剣に考えてくれる。私はそんな先輩のことをとても尊敬していた。だから先輩を見る目が尊敬の眼差しになってしまうのは仕方ないだろう。
「…俺、先に行ってるから」
「え?愛斗?ちょっと!」
先輩と話していると愛斗が急に先に言ってしまった。
「なんだか最近愛斗変…」
どうしたんだろう?
「彼が沙也香の言っていた想い人か?」
「え!?あの、その…はい」
先輩にはただ好きな人がいるとしか伝えていなかった。だから愛斗のことを見るのは今日が初めてだ。それにしても面と向かって想い人なんて言われると恥ずかしい…
「そうか、その想いが実るといいな」
「はい!すいません。いつも相談に乗ってもらって」
本当に実るといいな。
「気にするな。後輩の頼みだからな」
本当に先輩って優しいな…
「流石先輩。可愛い彼女が居るだけのことはありますね」
私も一度見たことがあるが先輩の彼女は派手な格好をしていてとても可愛い人だった。
「もちろんだ。俺の彼女に敵う女は居ないからな!」
そのセリフを聞いて私は苦笑いすることしか出来なかった。
「じゃあ私もそろそろ行きますね」
そう言って先輩から離れようとしたのだがそれを先輩が引き止める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「なんですか?」
どうしたんだろう?そう思いながら後ろを向き直す。
「その、俺の相談にも乗って欲しいんだ」
先輩の相談?一体なんなんだろう。
「いいですけど…どんな相談なんですか?」
「俺に彼女がいることは知ってるだろ?」
当たり前だ。あんなに可愛いと豪語しているのだから。
「知ってますけど…」
それがどうしたと言うのだろう。
「どうやらバイトをしているらしいんだがそのバイト先を教えてくれないんだ」
「…どうしてバイト先なんて知りたいんですか?」
「そんなのいきなり行って驚かせたいからに決まってるだろ?!」
この人ちょっと変なところあるよね…
「なぁ、沙也加。なんで教えてくれないと思う?」
そんなの知らない。とりあえずそれっぽいこと言っておこうかな。
「そうですね…そこまで知られたくないんじゃないですか?」
「…俺彼氏なのに?」
「彼氏にも秘密にしておきたいことだってあるんですよ」
知らないけど。
「…そんなものなのか?」
「そんなものですよ」
知らないけど。
そこで先輩の相談は終わった。
-------------------------------------------------------
人は知られたくないこともある。もちろんその通りだと思う。
でも親しい人には教えておいてくれても良かったんじゃない?
ねぇ?愛斗?
その日はたまたま買い物に行っていた。そしてたまたま古本屋に目を向ける。そしてたまたま愛斗を見つけた。たまたま。本当に偶然。でもきっと必然。
愛斗はバイトをしていた。女の人と一緒に。楽しそうに。私知らなかったよ?愛斗がバイトしてたなんて。それも女の人と。
…
最近私から距離とってるしなんか素っ気ないし。なんで?どうして?私、何かした?してないよね?それなのに愛斗はそんなことするんだ。私を疎かにしてその人と楽しそうに笑うんだ?
…
ふーん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます