帰り道

結局バイトが終わったのは予定の一時間も前だった。それでもらえる給料はもう一時間働いた分貰えた。やっぱりこの店大丈夫じゃない気がする。


「久井さん、失礼します」


「あ、うん。お疲れ様」


俺は久井さんに声をかけて店を後にした。


「あ、お兄ちゃん!」


その後を奈那さんがついてくる。



帰り道、奈那さんと隣合って歩いている時俺は久井さんの言葉を思い出していた。


『家族を大切にして欲しい』


久井さんにはそう言われたが俺はそんな気にはなれなかった。というかなりたくない。それが本音な気がする。それはただ単に俺がいじけているだけかもしれないがやはり俺は…


「ば、バイトお疲れ様」


隣を歩いていた奈那さんが労いの言葉をかけてくる。


「まだ全然疲れてないですけどね」


本当に疲れていなかった。当たり前だ。ちょっと作業して後はレジに立っていただけなのだから。


「…無理しちゃダメだよ?」


…どうしてそんなに俺の事を心配?するんだ。前まで無視してたじゃないか。


「…はい。心配してくれてありがとございます」


本当は聞いてしまえば答えてくれるのかもしれない。でもなんだか聞きたくなかった。それはまだ俺が子供だからなのかもしれない。



奈那さんとの会話は途切れ途切れながらも続いた。いや、正確には奈那さんが俺にずっと話しかけてくるのだ。前までは立場が逆だったのにな。



今隣で歩いているのは本当にあんなに冷たかった人物なのか?

疑ってしまう程に前と今では態度が違う。隣でニコニコしている。何がそんなに楽しいんだ?分からない。


「今日は連れてきてくれてありがとう」


連れてきたというか勝手についてきたんだろ…とは言わない。

さすがにそれくらいは常識をわきまえている。


「いえいえ」


それにしても本当にバイトが終わるまで待ってたな。暇だったのか?まぁなんでもいい。


「それで、さ、またついて行っていいかな…」


それはさすがに勘弁願おう。


「それはちょっと…店側に迷惑がかかってしまうかもしれないので」


店に迷惑がかかってしまったら俺は働けなくなってしまう。それだけは避けなくては。


「あ、あはは。そ、そうだよね…」


なんだよ。またその表情かよ。なんで無理に笑おうとしてるんだよ。なんでなんでなんで!



…落ち着け。


「はい、ですからこういうことは今日限りでお願いします」


「…うん、ごめんね」


俺は別に謝って欲しい訳じゃない。ただ邪魔をしないでいてくれたらそれでいいんだ。お互い無干渉でいた方がいいに決まってる。久井さんは家族を大切にしろと言っていたがやはりそんな必要ないのではないだろうか。家族と言えど所詮他人は他人だ。血が繋がっているだけの人間。心は通っていない。そんな薄っぺらい家族なら要らない。



俺は奈那さんの言葉に反応せずに歩き出した。



やっぱり久井さんのお願いは聞きいられないかもしれない。

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