生きていくために

俺は今ボーッとなにも考えることなくただ授業を聞いていた。

なんかなんにもやる気起きないな…

やる気が起きないからと言って何もしない訳にはいかない。

何もしなければ俺は生きていけないのだから。



真希さんに今朝お金は要らないと言ってしまった。だからどうにかしないと…



バイトするか…



バイトをすると言っても慎重に選ばなければいけない。労働時間や時給、仕事場の環境など出来れば条件のいい場所で働きたい。最低でも時給のいい場所を選ばないと…



そんなことを考えていると授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。今からは昼休憩が始まる。今のうちにバイトを探して今日から働きたい…



そう思いポケットからスマートフォンを取り出して近くで働ける場所を探していると前から声がかけられた。


「ね、ねぇ、愛斗」


その声の元に目を向けると今朝まで幼馴染だった人物が立っていた。


「どうしたんだ?綾乃」


「っ!や、やめてよそんな呼び方…」


そんな呼び方?俺は何か失礼なことを言ってしまったのだろうか?


「えっと、なにが?」


本気で分からなくてそう聞いてしまう。


「綾乃なんて呼ばないでよ…」


えぇ…じゃあなんて呼べばいいんだよ。


「沙也香って呼んでよ」


「なんでだ?」


俺と綾乃はもうそんなに親しい間柄じゃないはずだ。どうして名前で呼ぶことができるだろうか?


「だって私たち幼馴染でしょ?」


「だからもう違うって言ってるだろ?」


そうだ。俺たちはもう幼馴染などではない。俺とその他。綾乃とその他。ただの同級生でクラスメイト。それだけの関係だ。


「いやだよそんなの!どうしてそんなこと言うの?!」


綾乃が教室で声を張り上げたせいで教室に居る生徒たちが一斉に俺たちの方を向いてくる。


「お、おい。ちょっと落ち着けよ」


そう言ってなだめようとするが綾乃はそんな言葉を聞き入れない。


「落ち着けるわけ無いでしょ?!どうして愛斗は勝手にそんなことするの?!どうして分かってくれないの?!」


「何をわかって欲しかったのかは知らないがそんなに幼馴染が大切ならどうして俺の誕生日を忘れてたんだよ」


口調が少しだけ強くなる。


「それは…」


どうしてこんなことを聞いているのだろう?俺は諦めたはずなのに。もしかしたらまだ心のどこかでは綾乃に愛されようとしている自分がいたのかもしれない。



でもそれは直ぐに諦めへと変わる。


「本当に忘れてたの…ごめんなさい」


やっぱり幼馴染なんてそんなもんじゃないか。大切だなんだと言っておきながら簡単に忘れることができるくらいなら本当に大切では無かったんだろう。


「ま、そんなもんだよな。もうそれなら幼馴染なんて関係なくてもいいだろ?話はそれだけか?それなら俺は今忙しいからあっちに行っててくれ」


綾乃にそう伝えると俺は目線をスマートフォンに移す。



綾乃は何か言いたそうな顔をしていたが少しだけたって俺に背中を向けてとぼとぼと自分の席に戻って行った。

すると周りからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。



居心地悪いなぁ…



しばらく好奇の目が俺と綾乃に向けられていた。



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学校を終えた俺は今ある場所へ向かっている。ある場所と言うのは古本屋だ。



なぜ古本屋へ向かっているのかと言うともちろんバイトをするためだ。家と学校からそんなに遠い場所にはなく時給も1000円とこの辺りの平均より高い。これなら3時間働けば朝昼晩のご飯は買えるだろう。後はこのバイトはシフト制なのだ。出来ればそんなにきつくなかったらいいな…



そんな期待を抱き古本屋の前についた。



手元に持っているスマートフォンで位置を確認してあっているのを確認してから中に入る。


「すいません。ここでバイトをしたいんですが…」


中は外見からもわかる通りあまり広くない。だがそのおかげで古い紙の匂いが店内に充満していて悪くない気分だった。



レジに目を向けると一人の女性が立っていた。

メガネをかけていて大人しそうな人だった。なんだかこの人の顔見たことがあるような…気のせいか?


「あの、バイトをしたいんですが…」


そう伝えると女性店員は体をビクッと跳ねさせた。


「は、はい!て、店長を呼んできます!」


女性店員はそう告げるとバックヤードと呼ばれる場所に入っていった。なんだか凄く気の弱そうな人だな。



しばらくして女性店員が高齢の男性を連れて戻ってきた。


「ぁ、こちらが店長です」


女性店員にそう告げられて俺は高齢の男性を見る。


「すいません。ここでバイトをしたいのですが…」


「あぁ、いいよ。じゃあ明日からお願いね」


…え?


「え?いやあの、え?」


「ん?まだ何かあるのかい?」


高齢の男性は首を傾げながらそう聞いてくる。


「あ、そうだね。何をするのか分からないよね。明日から何をするのかはここにいる久井(ひさい)さんに聞いてね」


女性店員は久井さんと言うのか。いや、そうじゃない。


「ち、違います!その、面接とかしなくていいんですか?」


当然の質問だろう。どこのバイトでも面接はあるはずだ。そうじゃないとバイトをしに来た人物がどんな人か分からない。


「あぁ、いいのいいの。君真面目そうだからね」


真面目そうって…そんな簡単に決めて大丈夫なのか?


「安心していいよ。僕が採用した人はみんな優秀な人だからね」


「…ありがとうございます」


なんだかこの人にはどう言っても無駄なような気がした。そんな不思議な雰囲気を纏っていた。



俺のバイト先が決まった。

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