第21話「巨乳攻防戦~そして、悟りの境地へ……~」


「ともかく! もうこれ以上脱線はさせないよー! しゅーくん覚悟ぉーーー!」


 菜々美は素早く正面に回りこんだ!

 つまり、文字どおり俺と向きあうことになる。

 すなわち、巨乳を見下ろすことになる。


「あああああああ!」


 やっぱり無理だ! なんだこの破壊力!

 なんで人体に大量破壊兵器が搭載されているんだ!


「……巨乳は滅ぶべき……」


 そして、貧乳の瑠莉奈は憎悪の視線を菜々美の巨乳に向けながらつぶやいていた。


「くっ! もってくれ、俺の心と体……!」


 俺は中二病台詞のようなことを言いながら、必死に顔を背ける。

 こんな大量破壊兵器を見続けていたら肉体と精神が制御不能になってしまう。

 しかし――。


「だめーーっ! しゅーくん、わたしをちゃんと見てぇーーー!」


 凶戦士ならぬ巨乳戦士と化した菜々美は、あくまでも俺に現実(巨乳)を直視することを強いる! 三次元アイドル怖い! 二次元に逃避したい!


「むぅう~……! しゅーくんが顔を背けるというのなら……わたしが常に移動して視界に入ればいいもん!」


 菜々美は立ち上がると、俺の視界真正面に移動してきた。

 巨乳がすぐ目の前に!


「うわわっ!」


 俺、顔を背ける。


「移動!」


 菜々美、移動。


「わわわ!」

 

 俺、顔を背ける。


「移動!」

「ぎゃーっ!」


 俺の視界に常に巨乳が!


「……バカップル……」


 否定できない。

 カップルじゃないけど。


「ハァハァハァハァ……」


 よくわからない攻防によって、俺は息が上がってしまった。

 アホすぎる。


「……巨乳を前にしてハァハァしているおにぃ、キモい、キモすぎる……おにぃキモすぎるカードを新設してポイントを5つ押印する……5キモポイント……」


 こっちは必死に本能や煩悩と戦っているのに、妹からの評価はダダ下がりだ。

 兄の苦労、妹知らず。


「むぅう~! しゅーくんの意気地なしー! わたしとおっぱいから逃げないでよー!」


 そして、菜々美からは罵られてしまう。

 そんなこと言われたってなぁ……。


 しかし、まぁ……少しは巨乳に対しての免疫ができた。


 こんなもの、ただの肉塊だ。

 そんなものに対して、興奮するなんておかしいだろ?

 肉まんだと思えばいい。


「……オーケー、もう大丈夫だ。俺は悟りの境地に達した」


 澄んだ瞳で菜々美に告げる。


「わ。しゅーくん、なんだか、お釈迦様みたい」

「色即是空、空即是色」


 仏教について詳しくないが、とりあえずそれっぽいことをつぶやいておく。


「……涼しい表情のおにぃキモイ……キモポイント1つ追加……」


 もう俺はなにをしても妹からは評価されない運命だと受け入れる。

 妹より優れた兄などいないのだ。

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