第12話「同棲が絶対条件!」


「……わかりました。マネージャーの仕事、受けさせていただきます……」

「しゅーくん!?」

「……おにぃ……」


「ふふふ~♪ 賢明な判断ですねぇ~♪ しゅーくんさんは学生さんなのに社会の仕組みがよくわかってますね~♪」


 というか、菜々美が暴走しすぎなだけだ。


「菜々美、落ち着いてくれ。俺たちまだ高校生だしな。人生、先は長い」

「大丈夫だよ! 養ってあげるからー!」

「いや、それじゃ、俺、情けなさすぎだから……」


 この年齢でヒモなんてダメ人間すぎる。


「いいですね~、しゅーくんさん堅実な考え方ですね~、とても好ましいですね~」

「……おにぃ……確かに……おにぃがいきなりヒモニートになったら妹としては恥ずかしい……」

「愛さえあればそんなの関係ないよぉー!」


 とはいってもなぁ。俺と菜々美はもう何年も会ってないのだ。

 もしつきあい始めたとしても、うまくいくのかどうか。


 アイドルと一般人。住む世界が違いすぎる。

 そして、温度差も激しすぎる。


 菜々美の脳内で俺は美化されすぎである。

 つきあい始めたら幻滅するのではないだろうか。


「いいか、菜々美。俺は本当にただの冴えない男子高生だからな? 理想と現実のギャップを知ればアイドルをやめてまで結婚しようというような男子じゃないと気がつくはずだ」


 自分で言ってて悲しくなるが、それが現実だ。

 俺はいつだって冷静な男なのだ。

 というか陰キャはいつだって浮かれることなく冷静に生きるしかないのだ。


「しゅーくんさんはとても理知的ですね~。その年齢でそこまで客観的に物事を見られるのはとても好ましいです~。菜々美ちゃんの美貌を前にしても動じないところは素晴らしいです~♪」


 神寄さんからの評価が鰻登りである。

 この底知れない人から褒められても嬉しくないというか逆に恐怖すら覚えるのだが……。


「ううう、しゅーくん……しゅーくんがそこまで鉄壁の守備力だなんて……わたしのアイドルパワーが通じないなんて……」


 ……すまんな。俺は非モテ街道を進んできただけあって色恋沙汰に関しては冷静というか無関心なのだ。一生独身だと思ってたからな。

 しかし、菜々美は――。


「でも、なんだか燃えてきたよー! わたし、絶対にしゅーくんを振り向かせてみせるっ! どんな手を使ってでも!」


 菜々美は檻から手を離し、両手で握り拳を作って決意を固めていた。

 体操着&ブルマなのでスポ根もののアニメキャラみたいだ。

 しかし、どんな手を使ってでもというのが気にかかるが……。


「ふふふ、菜々美ちゃん、そのためにはまずはその懲罰房から出ないと話にならないですよね~。まずは迷惑をかけたみなさんに謝罪行脚しましょう~♪」


 ここがチャンスと見たのか、神寄さんが提案してきた。

 しかし、菜々美は「むうぅー」と唸って思案する。


「なら! お仕事を続けるかわりに……条件があります!」


 キッと神寄さんを見つめてから、菜々美はそんなことを言い出した。


「条件~? それはなんですか、菜々美ちゃん~?」

「それは! しゅーくんと同棲することですっ! とにかくこれからは絶対にしゅーくんと一緒に暮らさないと嫌だぁーーー!」


 なにい!?


「いいですよ~。その条件、飲みましょう~」


 神寄さんはニコニコしながら即座に承諾した。


「って、俺の意思は!?」

「犠牲になってください~♪ 役得じゃないですかぁ~♪」


 えええ……。でも、まぁ、言われてみればそうか。


 トップアイドルと同棲なんて普通なら考えられない。

 ファンが血の涙を流してうらやましがることだろう。

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