遠距離恋愛

ツカサ

遠距離恋愛

「最近、連絡とかとってる?遠くに行ってる彼氏とさ。」


「ううん。全く。寂しいよ。」


 私は久しぶりに友達の加奈の家に遊びに来ていた。大学生の頃には2人でよく遊んだものだが、お互い、社会人になり、SNSで連絡は取り合うものの、2人で遊びに行くことは無くなっていた。 


「そうだよね、寂しいよね。」


 そう言ってから、加奈は机に置かれたアイスティーを見つめながら、何かを考えるように黙る。そして、恐る恐る私の目を見て、口を開いた。


「どうして、今日だったの?」


加奈が尋ねた。


「何が?」


「私の家に遊びに来るのが。」


「たまたま今日の日に有給が取れたからだよ。それに加奈だって今日休みだったんでしょ?」


「そりゃあ、まあ、私はね。」


 加奈は何かを迷っているようだった。意味も無く、アイスティーが入ったグラスのストローで、中身をかき混ぜている。また黙ってしまった。


「ねぇ、もう、やめにしない?」


「何を?」


「その遠距離恋愛。」


意味が分からなかった。私は遠距離恋愛をしている。それら加奈も知っているはずだった。それをやめろ、とは、どういうことだろうか。


「なにそれ。別れろ、ってこと?」


「・・・・。」


また加奈は黙ってしまった。イライラが募る。


「さっきから何?いちいち黙らないでよ。」


「だって、さ、」


まだ何か迷っているのか。彼女の視線は泳ぐばかりで、口は、もごもごと言葉にならず動いているだけ。

 ようやく決心がついたのか、私を真っ直ぐに見つめ、こう言った。


「だって、あんたの彼氏、もう亡くなってるでしょ。」


 その言葉を聞いた途端、自分でも驚く程に、顔から血の気が引いた。背筋が凍りそうなほどに寒い。頭の奥から、ぼや、っとした片頭痛が現れ始める。


「どうしてそんな事言うの、遠距離だって言ってるじゃん。勝手に殺さないでよ。」


「じゃあ、その遠距離の彼氏はどこに居るの?どうして連絡が無いの?普通、何か連絡が・・・」


「やめてって言ってるでしょ!!!」


 加奈は私が怒鳴っても驚いた顔を一切せずに私を見ていた。肩で息をするほどに、私は興奮していたようだ。加奈の後ろにある姿見に自分が写っている。それで気がついた。


「ねぇ、今日が何の日か知ってるでしょ。彼の命日だよ。もうやめなきゃって思ってるんじゃないの?遠距離恋愛ごっこなんて。」


「・・・・。」


喉に力が入り、何も言葉が出ない。



「ごめん、やっぱりさ、遠距離恋愛かもしれない。」


「どうして?そんなわけない、もう・・・」


「あんたがお婆ちゃんになって、死んじゃったらさ、天国で会えるんじゃない?だから、今は遠距離恋愛。間違ってなかったね、ごめん。」


そんな加奈の言葉を聞いて、再び涙がこぼれだす。さっきの涙なんかより、優しい温かさだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遠距離恋愛 ツカサ @tsukasa888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ