第105話 妹の交友関係

 妹に、どうやら入学1日目からして早くも友達が出来たらしい。

 本当か? と少しだけ疑ってしまう俺に対し、誰とでも会話できるコミュニケーション能力を久遠から習ったと聞いて腑に落ちた。


 あの子の生い立ちから考えると空元気の可能性は大いにある。

 けど自身と同じ境遇の凛華、寧々との出会い。

 俺と言う師を得て持ち味として確立していったのも事実だ。

 戦闘スタイルや冷静な判断は久遠以上の先輩がいるからな。

 残った残滓をかき集めて熟成したら元気なところと戦闘力の高さだけが残った、そんな所か。

 

『そうか、じゃあ後で久遠にはお前が感謝してたって伝えておくよ』


『ありがと、お兄。それでね、今度の日曜日なんだけど。時間空いてる?』


 妹からこうやって時間的なおねだりをされたのは何度目か。

 忙しい身ではあるが、妹の頼みだ少しくらいスケジュールを開けるくらいの努力はしよう。


『日曜日か?』


『うん、予定詰まってた?』


『そうだなぁ、ちょっと塾講師のお仕事の予定がある。時間指定次第では少しくらいなら開くぞ?』


『ほんと? やった。実はお友達がね、どうしてもあたしのお兄について詳しく知りたいって言い出して』


『俺の?』


 そりゃ一体どう言う意味でだ?


『お前学校で初日からなんかしでかしたのか?』


 じゃなきゃ俺に興味が向くなんてあり得ないだろ。

 弁明手段に俺から習ったと聞いたなら納得できるが。


『そ、そそソンナコトナイヨ?』


 一瞬にして対応が棒になる。

 大根役者もいいところだ。

 が、対人関係もろくに構築してこれなかった人生。

 友達が出来ただけマシとしよう。

 

『全く、仕方のない奴だ。俺の教え云々なら数名生徒としてねじ込む事なら可能だ。日曜の午前9:00から指定の場所に来れるか? 一緒に指導してやる』


『いいの?』


『どうせ教えることは一緒だからな。都合よく第一回だ。二回目も受けたかったらそこからは自費で頼むぜ?』


『お兄のケチー』


『ケチで結構。一回だけでも無料提供してやってるんだぜ? むしろ感謝して欲しいくらいだよ。つーかぶっちゃけ、凛華達に施してる訓練規模と比較すんなよ? ありゃ別メニューだ。そっち受けたいならダンジョンチルドレンの裏を取ってることが必須条件。並大抵の才能じゃついてこれない超スパルタモードだからな? ちなみにお前の特訓メニューもハードモードなので、それと同様の訓練受けたきゃ木曜の午後9:00になる。兄ちゃんもこればっかりはスケジュールの変更ができなくてな。場所はいつも通り学園のダンジョン内になるから、表メニューか裏メニューどっちを受けたいかはお前が決めろ』


 一度に言いすぎたか?

 妹の念話からはうーんうーんと唸るような思考が聞こえた後、結局は自分の力の発端が知りたいのだと悟り、裏メニューの方へと思考をシフトしたようだ。


『じゃ、裏メニューの方で』


『了解。でも裏に連れてきてメンタルをやられないか心配だ。お前程度の実力でビビる奴らなんだろ?』


『一人は大丈夫かな? 30%の力に対して15%だって言ってたし、それで一学年のクラス対抗戦で注目されたから』


『お前の30%を軽々受け止めるか。ダンジョンチルドレンの可能性があるな』


『やっぱりそうなのかな?』


『それ以外考えられないだろう。じゃなきゃプロの暗殺者とかだな。まず表の世界で生きてる限り、お前の戦闘力についてこれる生徒はいないと思ってる。お名前は聞いてるか』


『お名前? 鏡堂美影ちゃんだよ』


 鏡堂! 勝也さんや静香さんの系列か。ガッツリ御堂関係じゃねーか!

 そっかー。まぁ妹もマークされるとは思ってたけど。

 入学前に協力関係結んどいてよかったぜ。結んだおかげで暗殺対象か護衛対象くらいの差が出るからな。

 かと言って俺の契約者。早々に死ぬことはないが、俺が安心できないと言う理由でどのみち協力関係になっておいてホッとした。

 でも、この関係をどう教えるべきか……ちょっと濁して冗談混じりに教えることにした。


『あ、察し』


『なになにーその反応? お兄のお知り合い?』


『知り合いって言えば知り合いだな。今世話になってるロンギヌスのマスターが鏡堂の系譜でな』


『ほえー、意外と狭い世の中』


『本当にな。でもその子ならお前を任せて安心だ。こっちの事情も全て把握してると思うぞ?』


『知り合いであるからこその利点か、なるほど。あたしは少し賢くなった』


 今のどこにそんな知的好奇心を満たす内容が?

 まぁ本人が納得してりゃいいか。


『で、他に二人いるんだけど』


『このタイミングで明かすか。その子達は一般の方?』


『よりは少し強めかな? あたしの動きについてこれるから。でも50%以上になるとぽかーんとしてる。もう一人の方は面白そうに目をギラつかせてるんだけど、どう思う?』


『バトルジャンキーか何かか?』


『あっははは、お兄ったらおもしろーい。探索者に成りに来て、才能持ってる子がバトルジャンキーじゃないわけないじゃん! ウケるー』


 それは確かにそう。妹のクラスがA〜Cのどこかは定かではないが、上位クラスに配属されたらその時点でバトルジャンキー確定だ。

 しかし上位クラスでも、運悪く一般人が配属されてしまうケースもあるわけで……


『遊ぶ金欲しさで入学する奴もいるし、分からんぞ?』


『そういう人とは距離を置くので、お兄は心配しなくていいよ?』


『ま、お前はそこら辺の直感が鋭いもんな。兄ちゃんはそこだけは心配してないし』


『へへへー、でしょー?』


 今得意気になる場面あったか?

 まぁそれはともかく。


『一人は左近時紗江ちゃん』


 俺はその場で突っ伏した。

 何やってんだあの人!

 学園に潜入するって言ってたからてっきり関西の方かと思ってたのに、よりにもよってこっちかよ!


『お兄?』


『なんでもない。少しリアルで返答してただけだ。それでもう一人は?』


『あ、お仕事中に念話繋げてごめんねー?』


『凛華や寧々で慣れてるから平気だ』


『うん、じゃあもう一人は五味初理ちゃんっていう子なんだけど、お兄は知ってる?』


 五味……父さんの親戚筋が五味だった。

 じゃあどうして苗字が六濃なのか?

 今まで考えないことはなかったが、クズな弟やその息子達を見れば縁を切りたいと考えてもおかしくない。


 しかし国内ではそう珍しい苗字でもない。

 気のせいか?

 あの家族との縁はもう切った筈なのに、胸の内側がザワザワする気がした。


『父さんの家系は確かに五味だ』


『うん』


『家系図を遡っても女の子はいなかったと思う』


『そう? じゃあ!』


 念話の思念を弾ませる妹だが、俺はあえて釘を刺す態度に出た。


『でもタイミングが絶妙すぎる。無関係だとは思いたいが一応注意しとけ』


『戦闘力は全然だから、心配する必要ないと思うけど。やっぱり表の部にしとく?』


『両方連れてこい。俺もその子を見定める』


『まったくもー。お兄は心配性だなー。あたしはもう昔のよわよわな妹じゃないよー?』


『凛華、寧々、久遠と比べたら駆け出しもいいところだろ?』


『あっちは比べるのも烏滸がましいほどの年季の差があるもん!』


 たった一年の差じゃないか。

 実際、俺と出会う前なら今のお前のほうが強いまであるぞ?

 と、それ以上追求したっていじけるだけなのでこの辺でやめとくか。


『じゃあ、次の日曜朝9:00と、翌週の木曜夜9:00に会おう』


『朝の集合場所は?』


『お前は何度も来てるロンギヌスのビル内にある一室で行うぞ。俺の所属ギルドであると同時に、そのギルド出身のAランク探索者の講師が教える裏技って触れ込みで塾を開くからな』


『オッケー、凛華お姉ちゃんに聞いとく』


 待て、お前は散々あれだけ通っておいてまだ道順を覚えてないのか。

 まぁ案内役が迷子になられても困るし、念には念を入れるのは妥当かな?

 俺は念話を切って仕事に着手した。

 仕事と言っても、次の日曜日に実施する塾生の選別が大半だが。


 雑務全般は割とこなしてきたつもりだが、早々にパソコンに向き合いすぎる時間を無駄に感じる。事務員さん、雇うべきかなぁ?

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