第99話 過去からの刺客

 麒麟字さんや左近時さんの重大ニュースをさらりと流し、事あるごとに合同訓練をするようになった俺たち。


 最初こそ粗の多さは目立ったが、回数をこなす事でだんだんと手慣れてきたようだ。

 低燃費型の左近時さんも、超低燃費モードとなりミョルニルの違う使い方を考えたようだ。


 ここで一つ「ん?」となったことと言えば、なぜミョルニルを彼女が持ってることかと思うだろう。

 実はあれ貯めた嫉妬パワーと交換して手に入れるタイプの武器らしい。

 契約者にやる気を出させるための報酬に嫉妬パワーの必要数を絞ったのが専用装備だそうだ。

 なお、交換するのに嫉妬パワー10億を持ってかれたそうだ。

 これは通常モードで貯めたら優に五年はかかる消費量らしい。


 しかし俺が生み出したジェネティックスライムが倍々に嫉妬パワーを増やしたそうで、たったの二ヶ月で買い戻せたようだ。


 色物二人との練習が終われば、妹との技術訓練。

 凛華や寧々、久遠等は二学年になる際の代表挨拶を考えてるようだ。三人も必要なのか? と思うが、各分野で分けるようだ。

 俺が居た頃の周王学園ではありえない光景であるが、凛華や勝也さんを通じて御堂グループからメスが入ったそうだ。

 それでもまだ闇はあるから潜入操作はするらしい色物組。

 表の仕事を放っぽりださなければそれで良いか。


「お兄、私の可能性を見せちゃるぜー?」


「おー、見せてみろ」


「余裕をかましてられるのも今のうち。すぐにびっくりしておしっこちびっちゃうよ?」


 誰から学んだ、そのセリフ。

 きっと久遠だな? 変なセリフばかり教えてからに。


 明海は「ちょいさー」と叫びながら何かの拳法のポーズを取る。

 そして正拳突きを繰り出すと、遠隔操作で操った「グラビティゲート」を叩き込んだ!

 本来ならそれは概念を吸収させるためのもの。

 攻撃手段には転用しない。けれど妹はした。

 誰から教わったのかは聞かなくてもわかるだろう。


「寧々から教わったのか?」


「よく分かったね! 寧々お姉ちゃんはすごいんだよ? とにかくこう、応用力っていうの? 吸い込むだけだと思わせないための訓練を今教えてもらってるんだー」


 訓練内容を楽しそうに語る明海。

 寧々の第一印象はちょっと怖いお姉さんて感じだったのに、今じゃベッタリだ。

 Aランクダンジョンで助けられてからすっかり気を許してしまったのだろう。


「あとね、これも応用なんだけどグラビティゲートは同時に展開すると良いんだって! これは凛華お姉ちゃんから教わったんだけど、吸い込み口が満タンにならないように、後方で取り出し口を開けておくことで吸収限界を緩和するんだって〜」


 自分でもよく分かってないが、同時操作するとすごい!

 みたいなニュアンスではしゃぐ妹。

 あんまり強くなりすぎないでくれよ?

 お前には健やかな生活を送ってほしいんだから。


 と、いうのは無理かな?

 近くの教師が無茶ばかりする優等生だから。

 それに引っ張られてしまうのも仕方ない。


「久遠からは何か教わらなかったのか?」


「久遠ちゃん? 擬音が多いし、主体性がなくて何を言ってるかわからないなー。お兄は“ぐおん”ときて“べきぃー!”の説明だけで何をどうすれば良いかわかる?」


「あいつに聞くのは辞めようか。兄ちゃんとしては、お前にはあまり闘いに参加してほしくないんだが……」


「それは無理ってやつだよ、お兄! だって私は闇の力に目覚めたんだよ? それに決戦も近いんでしょ? ちょっとくらいはあたしに頼ってくれても良いんだよ?」


 まったくこいつめ。

 例の小説やアニメに相当影響されてるな?

 ま、無理やりいうことを聞かせるのは俺らしくないか。


「じゃあ兄ちゃんからは新たなモンスターを想像するから、そいつに勝てるようにしろ」


「お! それってあたしを認めてくれたってこと?」


 調子に乗った妹のおでこを弾く。


「言っとくけど兄ちゃんの操るモンスターはそんじょそこらのモンスターじゃ相手にならないぞ。それでも挑戦するか?」


「頑張るます!」


「よし、じゃあ動きやすい格好に着替えるか」


「はい、はい!」


「どうしたね、明海君?」


「あたし、普段着以外のお洋服持ってない!」


「そういやそうだ。凛華に任せてたからそこらへん把握してなかったな」


「じゃあ明日、買い物行くか?」


「買い物デート?」


「兄妹でデートはないだろう、デートは」


「でもお兄、結構周囲からモテてるよね? あたしが妹だって言っても信じてもらえる?」


「じゃあついてきてほしい方を明海の見識眼で見繕ってくれ。俺の方からも念話で話を通しておく。買い物は次の日曜日でどうだ?」


 今の明海の判断なら凛華か寧々のどちらかに落ち着くだろう。

 それを決めさせてやるくらいの懐の深さは見せてやらないとな。


「オッケー」


 ◇◆◇


 そんなわけであっという間に週末、日曜日になり……

 俺は待ち合わせ場所に行くなり頭を抱えたくなった。

 そこには妹含めて4人いたのだ。

 全員が全員今日という日のためにめかし込んでいる。


「明海……」


「どうしたの、お兄? ポンポン痛い?」


「なんで全員居るんだ?」


「え〜、それ聞いちゃう?」


「何よ海斗、私達がいたら都合悪いの?」


「そうですよ海斗さん。兄様から聞きましたよ、Aランク探索者になられたのでしょう? 何を隠すことがあるのです」


「そうよー、ムックン。うち達はただ黙ってるだけの子じゃないよー?」


 暴れるなと言いたいのに、暴れる気満々の久遠。

 そしてなぜか得意げな明海に引っ張られ、やたら注目されるショッピングが始まった。

 俺も来年から社会人として働くのでスーツの一着でも持っておこうと思い袖を詰めたりシャツやスラックスのサイズ合わせをした。

 その側で彼女達の下着やら、普段着を買い込みつつ、妹の動きやすい格好の衣装を買い付けた。


 そんな帰りに、今まで避けてた相手と遭遇する。


「あぁ、海斗じゃねーか! テメ、一体今までどこに潜伏してやがった。随分探したんだぜ?」


「お久しぶりです、総司兄さん」


「お久しぶりじゃあ、ねぇんだよ! クソガキを勝手に退院させて意趣返しのつもりか、あぁん?」


「病気の妹の回復を祈ることの何がいけないのですか? 妹はもう十分苦しんだはずです」


 凛華の後ろへ隠れる明海。妹的にもこいつはトラウマの一つである。


「苦しんだとかそういう問題じゃねぇんだよ! こっちはそれが仕事だってんだ! テメェ、親父の商売邪魔して何が目的だ? 無能探索者の出来損ないのクソガキがよ!」


 無能探索者……きっと父さんのことを言ってるのだろう。

 今までは言われっぱなしでいた。

 でも麒麟字さんと出会い、やはり父さんは素晴らしい人だったと証明してもらった。だから耐えられる。


「そこまでにしていただきましょうか、お父様の飼い犬さん」


「お嬢様、なんでこいつと一緒に行動してるかわかりませんが、こいつのやったことは親父さんへの反逆ですぜ? そこんところわかってるんですかい?」


「ええ、最初から私と兄様は反逆の意思を明確にしていました。海斗さんはそれに共感してくださったのです」


「チッ、ガキどもが。大人しく黙っていれば調子に乗りやがって」


 アイツが口笛を吹き、近くに潜伏していた暴漢達が集まった。

 あれは確かウロボロスの面々か?

 三月にもなって暇な奴らだ。弱いものいじめでしか体面を守れなくなってきてるのか?


「これは……なんのつもりでしょう?」


 凛華の鋭い視線がより細められる。

 アイツはそれを余裕顔で嘲笑い、舌を出して挑発した。


「ちっとばかし教育的指導をしてやろうってんだ。海斗ぉ、お前はいつものコースだぞ? 早々にへたるんじゃねーぞ?」


 暴漢たちが俺たちを囲い、街中であるにもかかわらずスキルを扱い始めた。

 そうか、そちらがそのつもりなら、俺も徹底的にやってやる!

 もうあの時の俺ではないことを、教えてやる。

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