第98話 打ち明けられた秘密
やはり一緒に強敵に立ち向かったのが良かったのだろう、凛華達が不審を拭えなかった
腐ってもAランク。ただ、冷静沈着さは持ち合わせてないので、どっちかと言えば久遠枠としての扱いだ。
「本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございました。レッドオーガさん、イエローヴァイオレンスさん。俺たちの訓練はいつも予想だにしない難敵を前にして、いかに知恵を巡らせるかと言うものだったりします。基本的にこんな訓練、探索者向けではありません。普通に探索者になるのなら、こんな秘密訓練致しません」
「そりゃそうよね、どいつもこいつも規格外の化け物ばかり。アフターフォローが整ってなければ誰だって文句の一つや二つ言うわよ?」
「耳が痛いですね。でも来る決戦、一般訓練で満足してたらそれこそお荷物。俺たちは第三勢力として認めてもらう為に訓練しています」
「来る決戦か。御堂グループが悪事に手を染めてまで備える脅威。私達の王は何も言ってくれないのよね」
王と契約者。自分たちは俺たちとは違う陣営に与している事を明かした。
「海斗、教えてちょうだい。この人達は……」
「寧々の察している通り、俺たちとは異なる王の従者だよ。色々とコミュニケーション不足なところはあるが、秘密裏に御堂の悪事を水際で阻止しているんだそうだ」
「そうだったんですね。ですが貴女たちのような存在を私は把握していません。お父様だってそうでしょう」
「これは言っていいのかな?」
俺は
「なになにー、なんのお話〜?」
久遠が興味本位で聞いてくる。
俺はやたらボディタッチを繰り返す久遠を押し除けて説明した。
ジェネティックスライム戦以降、思い切りが良すぎる。
もはや心を打ち明けたからとくっつきすぎだ。
「この人達は、今の姿とは別の姿を持っている。【嫉妬】陣営は契約者の見た目を保たせ、全盛期の自分をいつでも呼び覚ますのだそうだ。ちなみに本来の年齢は、俺たちの倍くらい上だぞ」
「【嫉妬】! 序列は何位くらいかしら?」
「それがごめんなさい、我が王は自身のことをあまり語ってくれないの。私達契約者に【嫉妬パワー】を集めさせて、それ以降はノータッチよ」
「俺としては本人は誰かの使役者なんじゃないかと思ってる。アーケイド・シャリオさん同様に、その相手も上位ランカーの手の者だろう」
「じゃあ敵にもなりうるって事?」
「それこそ王次第だろう。俺は仲良くしたいと思っても、向こうはそうじゃないかも知れない。しかしダンジョンチルドレン計画を水際で処理し続けてきた実績を買って、こうして顔合わせを頼んだんだ」
「そう、だったんですね。お疲れ様でした。あとは私たちにお任せください、お役目ご苦労様です」
凛華が微笑みながら、あとはもう私たちがやるから帰っていいぞと促した。問答無用といった感じか。
敵となるならこれ以上情報を与えるのは不利と受け取ったようだ。
「あら、結構な言い草ね。ケツの青いガキが」
「若作りのおばさまに言われたくありませんわ」
「は? 喧嘩売ってんの?」
「どのように取っていただいても構わない。そうおっしゃっています。先ほどの戦闘、確かに光るものがありました。しかし状況判断は未熟。いくら戦闘力があろうと、あのような体たらくでしたらいないほうがマシです」
「ステイステイ、凛華。あまり敵対心を促すな。こう見えてお二人ともお偉いさんだから。この二人の協力があって、俺は探索者ライセンスを手に入れたんだぞ? あまり嫌わないでやってくれ」
「海斗さんがそう言うのでしたら……」
俺の呼びかけでようやく止まる凛華。日に日に番犬ぶりが板についてきたな。
「実際、今日見るまで貴女たちの戦力を侮っていたのは本当よ。学生に何ができるんだ。ここから先は大人にまかせろって、そう思ってた」
「ま、私達の身分じゃそう思われたって仕方ないわね。でも体験を通して気が変わった?」
寧々の返しに頷く
その態度に得意そうにする寧々。
どうして女子ってこう、マウントを取りたがるんだろう。
「ええ、海斗君の鍛えた精鋭を侮っていたわ。もし貴女たちが探索者として表に出るなら、私達の地位は脅かされそうよ」
「安心なさってください。私達が表舞台で活躍することはありませんわ。私達従者は、海斗さんの側でのみその力を振るう」
「ええ」
「そうよー、流石にこのまま探索者になってもレベルが低すぎて欠伸が出ちゃうよ」
「でしょうね。一学年でこの実力。なぜ学園に固執しているのかしら? 貴女たちはすでに超越者の領域に至っている」
確かにこの実力なら学園を退学したって上位に行ける。
『海斗さん、妹さんの事は……』
『言わなくていい』
『畏まりました』
念話で明海の事を明かすかどうかを聞かれ、俺は即座に返答する。
俺たちに取っての明らかな弱点。下手に突き入る隙を与えるのは不安だ。あいつはまだ裏の世界のことを何も知らないからな。
「学園に用があるからですわ、おばさま」
「この姿の時におばさまはやめて欲しいわね」
「ですがお名前を存じ上げません。レッドなんとかとやらが本名ではないのですよね?」
「そうね、いっそ偽名も決めましょうか。もう子供とか居てもおかしくない歳だし。そうしましょう」
どこか覚悟を決めた口ぶりで、
「そうね、娘としてだったら、構わないかしら?」
続く
何やら共通の苗字で通すつもりらしい。
名前はいつ産むかわからぬ子供のを貰い受ける形で名乗るようだ。
いいのか、それで。
珍しい苗字だからすぐにバレるぞ?
「改めまして、三重の方で母がトップランカーをしている麒麟字紗江よ」
「麒麟字プロ!?」
ほらバレた。俺は探索者に詳しくないが、凛華は違う。
御堂からの英才教育でプロの界隈に精通している。
凛華を見返す為に探索者になると決めた寧々や、借金に追われて自分のこと以外どうでも良かった久遠はそこらへん詳しくないんだよな。
「母が、という事にしておいてくれるかしら? お嬢さん」
「私ったら、大変な失礼を。兄様が普段からお世話になっております」
正体が明かされた今、凛華は自分の態度が誰に向けられたものかはっきり自覚し、そして恐縮している。
いったじゃん、お偉いさんだって。
「この姿の時はそう畏まらなくても結構よ。紗江と呼んでちょうだい」
「レッドオーガは有名人だから良いわよね。私はお役所仕事だからあまり若い子からの覚えが良くないのよ。妬けるわ」
「そんな事ないですよ。実際に俺がこのライセンスを手に入れるための様々な試験を顔パスできたのは貴女のおかげですし」
「そう? まさかあんたからそこまで持ち上げられるとは思わなかったわ。左近時涼夏よ。涼夏と呼んでちょうだい、お嬢様方?」
「左近時って、探索者協会のお偉いさんじゃない! 嘘でしょう?」
「あら、私を知ってくれてるの? 若い子は知らないと思ってたわ」
「知ってるも何も、うちのギルドが一番世話になってる人よ! 探索者至上主義のこの時代、一般人でもありつけるワーカーに興味を示して席を残してくださった大恩人よ!?」
「あら、あなたのご両親はワーカーなのかしら? さぞご苦労された事でしょうね。この時代に風当たりが強かったでしょう? 興味をかけて存在は残せてもそれ以上口を出す事は許されなかったわ。所詮私は秘書でしかないもの」
何やら寧々の琴線に触れたようだ。
先ほどまでの疑念は一瞬で瓦解し、そして凛華と同様に自分の態度を悔いた。
「良かったじゃない、涼夏。知ってくれてる子がいて」
「慈善事業はしておくことに限るわね。そして興味本位で決定したワーカー業にとんでもない人材が紛れ込んだ」
麒麟字さんと左近時さんが同時に俺を見た。
探索者としての適正を持たず、しかしワーカーとしての能力は異端。
それが俺、六濃海斗としてのワーカーデビューだ。
ワーカーとしての道は勝也さんから。
恭弥さんを通じて麒麟字プロと接触し、俺はシャスラと出会った。
こう考えると全ての糸は一本に繋がっているのだなと思う。
「正直、貴方の能力を知った今、我々探索者協会は大きな岐路に立たされているのよ。それが一般人でもやり方次第でダンジョン内を工夫次第で歩けるという事実。貴方によってもたらされたノートにはその可能性があるの」
左近時さんが変質者の格好で真面目な顔をする。
さっきまでの煩さはすっかり形を顰めていた。
「ムックン、ノートって?」
「俺がモンスターをどうやって攻略したかを記した雑記帳だよ。スライムやゴブリンから始まり、ドロップ品の応用や、習性を利用したハメ技が記載されている。最初は俺が生き残るためのものだったが、恭弥さんに見せたらすごい驚かれたんだ。これ一本で食っていけるぜって。最初はそんな上手い話あるかって信じてなかったけど、左近時さんの興味がここに集約してる今、俺は挑戦してみても良いかと思ってる。六王塾はその先駆けだ。最終的には才能の当たり外れ問わずに訓練を行おうと思ってる。一般人でこっちの道に入る人って大体懐が寂しい人だからさ。そこら辺も配慮しての教えを授けたいなって思ってるぞ」
「海斗さんはそこまで考えて動いていたのですね?」
「伝えるのが遅くなってごめんな? まだ想像だけで全然形になってないから伝えるべきか悩んでいた。机上の空論と言われたらそれまでだからさ」
「海斗がやる事よ、私達はそれに付き従う。それ以外何も心配しなくて良いわよ」
こういう時、しっかり者の寧々が凛華を励ましてくれるので助かる。久遠はムードメイカーなので、清いままでいて欲しい限りだ。
ジェネティックスライム戦以降、若干距離感がバグってしまったが、妹のいる前でもやったら粛正だな。
彼女の気持ちは非常に嬉しいのだが、ここで久遠と仲良くしたら凛華のメンタルケアが大変なことになるので勘弁して欲しい限りだった。
「貴女たちはしっかり王に教育されてるのね、妬けちゃうわ。うちの王とは大違い」
左近時さんは力だけ渡して接触してこない王に不満を抱いてるようだった。
俺もそこらへん気をつけないとな。
「涼夏、そう言わないの。当時の私達はそれでも希望を抱けたわ」
「で、戦いに明け暮れて婚期を逃して今に至るのよね?」
「言わないで!」
麒麟字さんは頭を抱えてその場でしゃがんだ。
この姿は相当トラウマなようだ。
ま、何はともあれ偽りなしの自己紹介ができたのでよしとしよう。そう話をまとめようとしたところで、麒麟字さんが挙手をした。
「実は私達、この姿で来年から学園に潜入することにしたの」
「「「「は?」」」」
俺たちは何を言われてるのかさっぱりわからず開いた口が塞がらない。待て待て待て、表の仕事はどうするつもりだ?
「皆まで言わなくて結構。もちろん表も仕事と並行してやるわ。これからは年下としてよろしくね? お姉さん!」
やめろ、脳がバグる。
ほらー、凛華と寧々も信じられない言葉を聞いたと呆けちゃってるじゃんかー。
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