第88話 スキルアップサポートinダンジョン

 そんなわけで俺たちはサポートメンバーと打ち解けて、流れで探索者のダンジョンアタックについていくことになった。

 正直、オフ会に参加してるのに他所のギルドの事情に首を突っ込むのはどうかと思うのだが……


 事前に瀬尾さんから探索者とサポーターの不仲があるとされていたので、俺が間に入ることで何か解決策があるのならばと手を貸した次第だ。

 どうせ俺は数日子のギルドに世話になるし、こっちのDEランカーについては後で聞けばいいかと開き直ったのである。


 そんなこんなで向かった先は近場のBランクダンジョン。

 先ほどご一緒した美和さんと同行し、俺のやり方を見せることにした。


「六王君はBランクダンジョンにも行ったことがあるの?」


「うちのマスターとの付き添いで何度か」


 本当は一度しか行ったことがないのだが、一度籠もれば長いので何度か入ったことにした。


「凄いのね、サポーターなのに上位ダンジョンにもついていけるなんて。私は一応Cランク探索者のライセンスを持ってるのでついて来れてるけど、他の子は初めてなの。あまり先行しないように申告しなければいけないし今から頭が痛いわ」


 との事だ。

 サポートのランクは総じて低いのもあり、探索者側との折り合いがつかないそうだ。


「皆さんも疾風団の教えを遵守すればすぐですよ。変に才能にこだわるから足を取られるんです。それと同じギルドメンバーだからと言っても礼儀は大切ですよね? それを忘れないようにしましょう」


「そうね、私たちはどこかで仲間だからという意識を押し付けあってたのかもしれないわ」


「変に才能を持っちゃうと驕りが出てきてしまうのは難しい問題ですよね。俺はサポーターで動く時、なるべくそこは忘れて行動するようにしてます。本日ご一緒する探索パーティとのコミュニケーションは一旦俺に任せてもらって良いですか?」


「良いけど、あの子は気難しい子よ? お客様だからと容赦はしないわよ」


「それくらいで接してくれたらありがたいですね。向こうからしてみれば俺はよくわからない一般人。サポートしかできない無能。それだけ覚えてくれたら大丈夫です」


「大丈夫かしら?」


 サポートメンバーが心配する中、俺は任せてくださいよと声をかけて安心させた。



 本日のダンジョンアタックはBランクダンジョン。

 探索者にとっては行き慣れた庭だろうが、ランクの低い探索者にとっては鬼門と言っても良い。

 俺は事前に支給されたマップを確認し、休止するポイントに赤丸チェックを入れて行った。


 モンスターの分布図と、対決する際の立ち回り。

 前衛と中衛、後衛の入れ替わりとサポートの入れ替えタイミングを狙った上での小休止ポイントをパーティリーダーと話し合う。


「すいません、お時間いいですか?」


「手早くね?」


「勿論です。今日の探索の目的と小休止時にほしい食事のレパートリー、水分補給のタイミング、そして目標TPを聴きにまいりました」


「それ、今必要な事?」


「俺の世話になったギルドでは聞いておいてそれに合わせて行動するようにしてます。無論、TP見込額以上に無駄な出費を抑えるための努力をします。備品についてはギルド持ちですが、食事は持ち込み素材の不足が見られるので聞きに参りました」


「そう、何もできないのにそういうところはしっかりしてるのね」


「何もできないからこそですよ。俺は戦闘が出来ない。でも考えて動くことはできます。あくまで探索者の皆さんの邪魔をしないための配慮としてご一考ください」


「少しだけ時間を頂戴。作戦内容は桶井さんに伝えるわ」


「いえ、俺が受け取ります」


「ギルドの方針をよそ者に教えるとでも?」


「今は貴女たちのサポーターとしてきています。それに、俺が吹聴したところで誰も信用はしませんよ。それは貴女たち探索者がよくわかっていることでしょう? それと口の軽いサポーターは信用を失うことを誰よりも恐れています」


「ったく、無駄な考えで時間を割かせないで頂戴。ただでさえ索敵班が厄介な奴を見つけて面倒だっていうのに」


「面倒?」


 今回のパーティリーダーはまだBランクになったばかり。

 それでも探索者になっても中堅。20代後半だという。

 まだ信用はされてないので名前は聞かされてないが、パーティ六名、索敵一名、サポーター三名。計十名をまとめ上げるリーダーとして適任された人物だ。

 ただ強いというだけではない。統率力も認められた人なんだけど……俺から見たら凛華が頑張ってるくらいにしか見えなかった。

 なので相手が何かを聞いてみる。


「どんな奴です?」


「火食い鳥よ」


 忌々しそうに上空を見上げるリーダーさん。


「ああ……あいつですか。唐揚げにすると美味いんですよね」


 しかし俺の口から溢れた言葉は、彼女の中には存在しない常識だった。


「モンスターを食べる? 貴方は何を言ってるの? 奴らは倒したら消えるのよ! ダンジョンの常識も知らない子が!」


 故に信じられないことを言う余所者としてより強く意識した。

 まぁ、そうなるか。


「ま、ここは俺に任せてください。あいつにはちょっとした攻略法があるんですよ。こう見えて俺、戦闘はからきしですが頭を使った戦略には定評があるんですよ?」


 俺は前に出つつ、俺が提供したモンスターデータをまとめたリストを彼女に渡した。


「これは?」


「戦闘能力0の俺が知恵と勇気で手に入れた情報群です。討伐時のちょっとしたコツとか載ってます」


「は? 貴方は一体何を言って……」


 受け取ったリストに目を落とし、舐めるように見ていく。

 だんだん読む速度が早まり、ページを捲る手が速くなる。

 俺はそれを横目に準備運動をする。


「見ていてください。なぁに無知な一般人が囮になるだけですよ。ダンジョン内では見慣れた光景でしょ?」


「ちょっと佐伯さん、彼は何をしに? あの子は戦闘才能を持ってないのよ!」


 サポートリーダーの美和さんがパーティリーダーへと詰め寄った。


「火食い鳥を倒すのだそうよ。そのお手本を見せてくださるらしいわ」


 そう言って美和さんにリストを手渡した。

 俺がダンジョン内でモンスターの生態系、習性、行動モーション、隙、好み、手負の時にしてくる行動、用いてくるスキル。

 それぞれが記載されたそれを。


 さぁて、あまり女性陣を待たせるのも悪いしな。

 手札を見せるのはやめておきたいのだが、ここで足踏みするのも悪手だ。俺はずっと北海道にいるわけではないが、彼女たちに無能でもここまでのことができることを示しておくか。


「こいよ、鳥野郎!」


 囮役がヘイト取りをする。

 それはある意味で自殺行為だが。


 浴びせられる灼熱のブレスはしかし、俺のマジックバックから取り出した風に見せたケルベロスの毛皮によって遮られる。


「マジックバッグ!?」


「クケェエエエエ!!」


 パーティリーダーの驚きの声を無視し、強襲してきた火食い鳥にユニコーンホーンのコンボを喰らわせる。

 まだ死なないうちに解体セットを組んで足を縛って生きたまま血抜きをした。

 死なないように俺の血も混ぜておく。

 こうする事で、生きたまま枝肉にすることができた。


「ま、こんな感じで、火食い鳥くらいなら俺にとってはカモですね」


「本当にお肉として食べちゃうのね。その、それの味の保証は?」


「ロンギヌスのマスター両名、アロンダイトのギルド員さんが証明してくれてますよ。と言う事で俺の能力は把握してくれたと思います。戦闘で頼られても困りますが、自分の身を守る手段は用いてますので悪しからず。では俺は持ち場に戻りますね?」


 枝肉を抱え、サポートたちの集う場所へと戻った。

 リーダー達はその場でポカンと立ち尽くしていた。



 ◇



「いやぁ、それにしてもさっきはお見事だったわ。いつもあんな事してるの?」


「根っからの貧乏性なもので。学園でダンジョンに篭ってる時はこいつらも食えたらなぁっていっつも思ってましたよ」


 探索者メンバーとの一悶着後、俺たちサポートメンバーはその時を思い出しながら小休止ポイントで軽食の準備をしていた。


「で、実際に食べたと?」


「食ってみたら美味しくて。これは広めないとって謎の使命感に燃えて今に至ります。さっきのスライムプリンも好評でしたし、これも受け入れられるかなって」


「だからってダンジョン内で揚げ物するなんて初めてのことよ?」


「普段は火を使っての調理もないんです?」


「多少切ったり茹でたり、付け合わせと一緒に食したりでも十分に贅沢品よ。でも六王君にとっては違うのね?」


 油の海から取り上げた唐揚げに釘付けになりながら、美和さんは唾を飲み込んだ。


「まだ出来上がってないのでお待ちください。流石にこのまま渡すのは危険です」


「そ、そうよね。女子とはいえ食べたかにもこだわるわ!」


 こだわりはあんまり関係ないけど、流石に衛生面を気にするだろうからと恭弥さんや近藤さんに提供したみたいに地面に直接皿を置くことは控えた。


「そこで取り出したりまするはコッペパン」


「六王君のポケットってなんでも入ってるのね。私、さっきからワンアクション毎にいちいち驚いてる気がするわ」


「こいつを縦に切って、千切ったレタス、ドレッシング。そしてあっさりドレッシングに浸した唐揚げを乗せて……はい、完成です」


「これ、もういただいても?」


「味見ですよ? あんまり予備もないですし」


 なんかもう、食べたくて仕方がないって顔をしてるので三等分してサポートメンバーに食べさせた。

 ハムスターみたいにほっぺいっぱいに頬張らせて食べる年上の女性陣。なんと言うか和むな。


「お口に合いましたか?」


「ええ、とても美味しかったわ。と言うより六王君、うちの子のお婿さんになったりなんかは、どう?」


 そう聞いただけなのに、突然距離を詰めて両手を握られてそんなことを申告された。


「あ、いえ。俺彼女いるので……あと、娘さんにもよく知らない男を勧めるのはどうかと思います」


「そう、残念だわ。六王くんがウチにお婿さんに来てくれたら私は毎日君の食事を食べれるのに! くぅう!」


「美和さん、それは流石に六王君に失礼よ」


「そうだわ。六王さんは私のお婿さんになるんだから」


 いや、俺そんな許可出してませんから。

 というか、主婦歴長いのに食事できるだけの男を求めるってどういう判断基準だ?


「それはダメよ!」


「私のよ!」


「私のだってば!」


 だなんて取り合いが起きた。

 やれやれ職務を真っ当にしなさいってさっき言ったばかりなのにもう忘れて。配膳も立派にサポートのお仕事だ。

 美和さん達が取っ組み合いの喧嘩を始めてしまったので配膳も俺が担当することになった。


「お待たせしました。少し休憩としましょう。これ、濡れタオルです。熱いのでお気をつけください」


「ありがとう、ここまでのサービスは初めてよ」


「それとドリンクです。緊張し通しだと喉も渇くでしょう? 軽食もお持ちしたので食べてください」


「さっきのお肉? 火食い鳥の……」


「ええ、油淋鶏にしてスナックサンド風にしてみました」


「この場で調理したの?」


 パーティリーダーさんが熱々の軽食を持ち上げて、未だパチパチと油の弾ける唐揚げを見下ろし、ごくりと唾を飲み込んだ。


「ええ、調理は出来立てを提供するのが疾風団の習わしです。俺はそれを忠実に再現してるだけですよ。向こうでは丼ものとかメニューも豊富ですが、それをそのまま提供するのもアレですし、今回は食べやすさを重視しました」


「そうなのね、美味しいわ。その……さっきは何も知らずに叫んでしまってごめんなさい。貴方のことを勘違いしてたの。何もできないくせに、コネだけで瀬尾さんから気に入られてる奴だって、多分私ってば身の程を知らずに嫉妬してたのね」


「それは仕方ないのでは?」


「どうしてそう思うの?」


「だって俺たちは今日出会ったばかりです。他人の事なんて分からなくて当たり前です。なので俺は貴方のことも知りません。俺は俺の仕事を尽くすだけです。俺に謝るよりも探索者としての仕事を全うしてください。そうするだけで俺も初めて貴方を評価できます。俺はあくまでサポートですからね。一緒に行動する上で、評価する面は色々ありますが、一番は統率力とチーム全体の雰囲気の把握。戦闘面とかはおまけです。仲良く、とまでは言いませんが仲違いしすぎで全体の行軍が遅れるようではリーダー失格だと思いますから」


「ふふ、私ったらこんな子に嫉妬して、みっともないったらありゃしないわ。そうね、ここでの総指揮は私よ。着いてきなさい、プロの指揮を見せてあげるわ!」


 最後の一口を放り込み、ドリンクで強引に流し込むと、彼女は両頬に気合いのビンタを叩き込む。

 憂いは晴れたのか、先ほどまでこのパーティに漂っていた嫉妬の感情はすっかり晴れ渡っていた。


 そして、帰りの際に見込みTPよりも多く稼げたのはサポートがしっかりしてくれたおかげだと、再認識してくれたらしい。

 こうして俺のサポートにおけるレクチャーは終了し、探索者とサポーターの不仲の溝は取り払われた。

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