第84話 GPS機能付き魔道具
「取り敢えず今日はスキルを解放する際、感じたことを教えてくれ。ステータス云々は俺たちの方で見えるようになんとかする。一番手っ取り早いのは入学して仮のライセンスをもらうか、ワーカーとしてライセンスを貰うかで見えてくる。ワーカーで手に入れた場合、ランクアップするのが難しくなるが、どっちを選ぶかは明海に任せる」
「ワーカーってどんなお仕事?」
「結構きつい仕事だぞ? 雑務全般に手料理の振る舞い。アイテムのドロップに換金した時のポイントをどれだけもらえるか知っておかなきゃいけない。それを同時に並行して行うんだ」
「え、すごい大変だね?」
「そもそもワーカーは探索者になれなかった人が行き着く先だもの。才能を覚醒させた明海が無理して行くところでもないわよ?」
「そうなんだけど、お兄はワーカーなんでしょ?」
「表向きはな。お陰様でダンジョンに入れるようになったし、お金儲けもできてる。目立たず、騒がれず平穏に暮らせてるよ」
「でも身を隠すだけじゃダメになった?」
「まぁな。今のままの俺じゃ、凛華のお父さんにお付き合いを許可されない可能性があるんだ。だから重い腰を上げて本腰を入れている。その分、明海に注目がいくかもしれないが」
「え……あたし?」
キョトンとする明海。
「父様はダンジョンチルドレン、もとい魔石病患者を手元に置いておきたいんですよ。なので海斗さんの素性が割れれば、芋蔓式に明海さんの身元が判明します。今まで海斗さんが身を隠していたのは、明海さんがどこに居るかを隠す目的があったんですよ?」
「そうだったんだ。そんなことも知らずにあたしってば、自分勝手だったね。ごめんね?」
「その点についてはお前に意思確認もせずに決めた俺も悪かったよ。そんなわけで明海の事は向こうにバレるかもしれない。才能の覚醒、その情報がわかったら是が非でも手に入れるべく動き出すだろう。それぐらいお前の才能は突出してる。俺からしてもそう思った。向こうもきっと、お前を欲しがる」
「そうだったんだ……もしかして、あたしって結構ピンチな立場にいる?」
俺は頭を振るう。
「そのための契約だ。凛華にはしてやられたが、今になって思えばしまって良かったと思っている。もし誰かに捕まったときは念話で連絡をくれ。王の力ですぐさまお前を呼び出すよ。俺が駆け付けないようで悪いが、この能力は使い所が悪くてな」
「契約って、あたしが元気になるだけじゃないんだ? いつでもお兄の元に呼び出せたりするの?」
「呼んだり、元の場所に戻したりできる。俺を呼ぶんならまた別の契約を結ぶ必要があるが、こっちは人数制限があってな。おいそれと結べないんだ」
「あはは、そこはやっぱり特別な人の特等席だもんね。あたしは契約だけでいいかな?」
「そう言ってくれて助かるよ。さて、あまりこっちに長居しすぎてもアレだ。日常に帰ろう」
「ちょっと待って。その前に解放だけさせて!」
「そうだな。検証の方は後でもできるし、凛華。妹は任せるぞ?」
「お任せください。責任を持ってお預かりしますわ」
胸に手を置いて自信満々な凛華。
そんなやり取りも知らずに、なんか変な声を上げながら妹がダンジョンに向けて必殺クラスの武技や魔法を開放していた。
扱いの難しい能力だ。でもしれを者にしたとき、あの子は大化けすると確信している俺がいた。
東京の社宅で凛華、寧々、久遠と別れる。
先に貝塚さんに荒牧さんの部屋に帰って貰って、俺は自分の流し台で洗い物を済ませていた。
そこへ恭弥さんからメールが来た。
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送信者:秋津恭弥
送信先:六濃海斗
お前、俺の居場所バラしたろ!
おかげでお見合いパーティー行くハメになったんだからな!
覚えてろよ。
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既読だけつけて、洗い物に戻る。
シャワーを浴びてから荒牧さんの部屋に戻ると、劇画調タッチに戻った貝塚さん事ギルド長と、荒牧さんがトークをしていた。
「お、帰ってきたか六濃君」
「すいません、長い間ギルド長をお借りしちゃって。うちの知り合いがどうしてもお話があるって事で。ついでにこっちの海産物を使った鍋パーティーまでしてきました」
「君は少し常識がなさすぎるんじゃないか? 北海道にきてまで東京にすぐ帰るだなんて。普通はこっちで土産話の一つでも仕込むなりなんなりするところだろう?」
胡乱げな瞳が我が身に刺さる。
全くもってその通りだ。
王の権能ありきで日常を進めてるとそのうち変なイチャモンに巻き込まれるかもしれないな。
「すっかりこの魔道具の世話になってますよ」
なので種明かしをしつつ、荒牧さんは俺のマジックのネタを探ろうとその意志を持った時、バチッと弾かれてしまった。
「痛ッ、なんじゃ?」
「おかしいですね。俺が持っても特になんとも……」
ヒョイと拾い上げてまじまじと見つめるが、どこか放電した試しもない。もしかしてこれ、俺のパッシブスキルが触ると帯電する状態異常を塞いでたのか?
「ワシに貸して見せろ」
「危ないですよ、ギルド長」
しかし貝塚さんが触っても特に放電することもなく……
今の彼女には俺と同等のパッシブスキルが付与されているのでなんともなかった。
「六王君、こいつは一体なんだ? ワシは未だかつてこんな禍々しい魔道具を見たことがない」
ギルド長が三角形の石を持ち上げて蛍光灯にかざし見る。
禍々しい? 俺はそんなふうに思ったこともないが……
「俺にもわかりませんが、東京の魔道具ショップで2000万TPで買ったんです。俺みたいな準備万端のワーカーにとって自宅とダンジョンを繋ぐのって色々便利なんで。女性の探索者の場合、おトイレ問題やシャワー問題もあります。環境によっては寝苦しい場合もありますよね? そのための転移の魔道具ですけど……」
「そんな便利なもんがあったらワシがとっくに活用しとるわ」
そう言えばそうだな。2000万TPとお高いけど、需要を考えたらもっとたくさん制作されていてもおかしくない。
じゃあどうして俺の手元に?
「この魔道具、どこで買った? それ如何によっちゃ、六王君。君はとっくに向こう側からマークされてるかもしれんぞ?」
「!!」
流石にそれは思いつかなかった。
俺は心のどこかで御堂グループをみくびっていたのか?
これを買い付けたのはクリスマスの襲撃後。
あの時すでに俺、もしくは勝也さんがマークされてたとしたら?
二つ目を求めに行った時渋い顔されたのも辻褄が合う。
時間はかかったがTPさえ用意すれば準備してくれた。
それはつまり、向こうの捜査網に引っかかったことを意味している。
「なんじゃ六濃君。敵対組織がいるみたいな口ぶりだな?」
「実は少し諍いがあったのを横入りしてしまった時があって。それ以降目をつけられてるっぽいんです」
嘘は言ってない。
諍いというよりも一方的な搾取の現場を邪魔しに行った。
向こうもそれが生命線なもんだから、そりゃ躍起になって襲撃者を探すよな。
表で騒がれてなかったからすっかり煙に捲いたと思ったが、俺はとっくに捕捉されてたのかと嫌な汗が流れた。
「君はワーカーという職業上絡まれやすいからな。しかしDEの同志が困ってるとあっては見過ごせん。ギルド長、我らも力になりましょうや」
「無論だ。ワシらにとって君はかけがえのない存在だからの。こっちに滞在してる間は周囲を警戒しておこう。くれぐれも早まった真似はするなよ?」
それはつまり独断で動くなということか。
便利すぎてすっかり信用していたが、こんな仕掛けがあったなんて。まじで胃袋に入れなくてよかったな。
食ってたら異常事態に向こうが気づいたまである。
泳がせてるうちはまだいいさ。
気づかれたら気づかれたで実力行使してくる方がまずいもんな。
だが、気づく前に契約を結んでしまってよかったぜ。
そう思うことにして、俺は北海道遠征をつつがなく堪能した。
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