第83話 SSRは使い手を選ぶ?
「明海、どうだった?」
「お兄!」
レッドジェルを討伐した時、妹の様子がおかしかったので声をかけると、振り向き涙ぐんで引っ付いた。
どうやら才能を得たは良いが、なんとも扱いに困るモノのようだった。
「大丈夫だぞ、明海。こっちは問題があってもそれに対処できるプロフェッショナルが揃ってる」
「うん……」
抱きよせながら背中を摩って安心させる。
妹は俺に対して妹離れができてないという態度を取るが、この子だってまだ兄離れができないでいるのだ。
こうやって引っ付くのもそう。
一緒に暮らせないと示した時も嫌がった。
でも、一人での暮らしは経験させなくちゃいけない。
俺にできるサポートはそれくらいだ。
あとは妹の自主性を育む要素を補ってやれば良い。
「兄ちゃんもな、自分の才能には心底苦労させられた。それは先にも話したろう?」
「うん」
「だからな、自分では使えないと思っても話してみろ。ここのメンツなら決してそれを悪様に扱う人は居ないよ。自分なりの意見を出してくれる。兄ちゃんも手伝うから、な?」
「分かった」
「よし、お前は偶に頭が悪くなるが馬鹿じゃないんだ。遅れた分はこれから取り戻せば良いさ。兄ちゃんの作った仲間はスパルタな面もあるが、さまざまな障害を乗り越えてきたからこその厳しさだぞ? それを選ぶったりせず、適切なことを教えてくれる。兄ちゃんはお前の成長する姿を楽しみにしてるんだ」
「なにそれー。あたしはいつまでもお兄の側にはいられないんだよ?」
「それでもだ。契約上、俺が死んだらお前も死ぬ。でも俺が死なない限りはお前は死なない」
「そうだった! お兄とは運命共同体だったね」
今の今まですっかり忘れてたらしい。
俺が死んだら終わり。でも逆に言えば死なない限りは早々ピンチにならない。自分の思った通りに動く体にすっかり気を良くして、それ以外を忘れてしまっていたようだ。
そう言うところがあるから兄ちゃんは心配なんだよ。
「海斗、妹さんはどんな能力を?」
「それは今から本人から発表してもらうさ。みんなも自分ならどう扱って見せるか、公正な判断をしてくれ」
「最初は使い所がわからないものが多いのよね。でも使ってみると意外と強い。だからこその活かし方を考えましょう?」
「分かる。この能力だからこそ、うちが選ばれたんだってやる気になるよね?」
「ええ、才能とは性格も考慮した極限に高められた異能。自分以外には満足に扱えないよ考えれば不安なんてすぐに拭えますよ?」
「ボクも、最初はこの能力を持て余していた。けどね、ボクしか持ち得なかったからこその役割がある。君にもそれがきっと見つかるはずだ。話してごらん?」
それぞれが自分の才能と出会った時の不安を語り、自分で活かせるようになった時の充足感を語った。
誰しもが己の望んだ能力を得たわけではない。
しかし、それを使いこなすことで前に進んできた者達だ。
自分にとって微妙でも、文句は出さないぞと妹に話して見ろとけしかけた。
すると、自分でもうまく話せないのかもじもじしながら語り出す。
その能力詳細を。
「ディメンジョントレーダー……え、強くない?」
誰かの言葉。それは俺の言葉だったかもしれないし、寧々の言葉だったかもしれない。
問題は使用回数が極端に限られてることだ。
入り口が1回。
しかし出口が3回。もう一つが拡散、これは1回ときた。
「みんなはこの能力、どう見る?」
「敵から能力を奪って、そのまま解放するストック型の遠距離アタッカーのように思いますわ」
小さく挙手をした凛華が答える。
遠距離型、と言って良いのか?
実際距離を自由に操れると言う効果がエグすぎる。
俺だったらどう使うか?
いろんな悪用法が並べられるぞ?
「そうね、私だったらその能力を仲間からの魔法を取り込んで支援用として扱うかしら?」
続いて寧々が言葉を並べる。
「どういう事? 寧々お姉ちゃん」
「言葉の通りよ。その魔法、ディメンジョンホールと言ったかしら? 入り口は文字通りあらゆる状況を飲み込む効果がある。それは敵の苛烈な攻撃でも良いし、味方からのサポート魔法でも良いわ。私だったらそう使うって意味よ。深く捉えなくても良いわ」
「なるほどね。あたしはこれだけで戦うのはすぐに攻撃手段がなくなってダメかなって思ってたの。でもみんなの意見は違うんだ? 勉強になるなー」
「言ったろ? ここに居るみんなは能力の活かし方が上手なんだ。俺も最初は手解きしたが、そこからは自分なりの解釈で上に上り詰めた」
「凛華は最初から上に居たけどね?」
「そうやって貶す発言はしないでやってくれ。凛華の場合は環境の問題だ」
寧々の場合は茶化しなんだけど、当の本人が必要以上に落ち込むので俺からのケアが必要なんだ。
咄嗟に彼女を庇う俺を見て、妹が何かを言いたそうにしていた。
なぜかグッジョブのハンドサインを交えている事から、好印象を与えてるようで安心する。
「うちだったら、一日一回しか使えない能力を、どれくらい溜め込むことが可能か検証してみるよ?」
「そんな事ができるの? 久遠ちゃん!」
「うちのスキルにも一度しか使えないのがあるけど、それは日を跨いで継続することができるんだ。チャージって言う力を貯める系のサポートスキルなんだけどね? それを一気に解放してパワーを出せるようにしてるよ!」
「ほへー、だって? お兄」
「久遠は俺の世代では歴代最強の生徒だから、実はできて当然なんだぞ?」
「え、そうだったの? って、お兄の世代?」
「久遠は俺の同学年だぞ? なんだ、知らなかったのか?」
妹の動揺ぶりから察するに、きっと自分と同じくらいか年下に見ていたに違いない。
妹も背は小さい方だが、久遠も小さいからな。
栄養環境もあるけど、やはり生まれや食生活にも由来してる。
凛華のところに預けて少しはマシな食事ができているとは思うが、俺の料理を食うたびに喜ぶ姿を見るに意外と節約家のようだ。
「ボクだったら、ストックできるだけしていざという時の切り札に使うかな? 基本、モンスターって才能なくても倒せるし」
続いて貝塚さんが語る。
それを実証できる人が今の時代は皆無だが、彼女は自分の年齢を誤魔化してギルドに配属されている。その上で超スパルタな環境で生き残った経験談がある。
学園の実態を知らないからそう言えるんだ。
「そう言えば、あたしもお兄から借りた武器で倒せてた!」
「それをされると都合の悪い人が何処かにいるんだろうな。誰とは言わないが、この探索者優遇時代だ。探索者協会かダンジョン協会か。どちらかが実権を握ってると見て良いだろう」
「よかったら入学までボクのところで預ろうか?」
「お兄? どうしよっか?」
貝塚さんからの提案に妹が心配そうに俺の顔を見る。
行きたいのなら引き止めないが、あそこは女人禁制みたいな雰囲気があるぞ? その上で学園で首席だろうと優遇されない。
正直劣悪な環境である。
妹なら翌日死にそうな声で念話をかけてくるに違いない。
やめておけと断言できるので俺は賛成しなかった。
「ありがたい申し出ですが、あの環境に妹を放り込むのは保護者として気が引けます」
「どんなとこなの!?」
逆に興味を示したが、聞かない方がいいぞ?
「それはさておき、一度使ってみよう。明海、一度だけしか使えないホールを展開してみてくれ」
「オッケー」
ノリが軽い。
が、あまり背負いこまないでくれたので良しとする。
「俺だったらどれくらい連続して能力を取り込めるかを検証するな。それと解放できる時間もな」
「なるほどー」
妹の抜けた感じの掛け声と共に展開されたのは真っ黒な渦だった。
そこにそれぞれ攻撃を仕掛ける。
ある程度の回数を仕掛けると、どんどん縮んでやがて消えてしまった。
ストック制限か、はたまた時間制限かはわからない。
時間としては2分間、ストックされたであろう武技/魔法は10個だった。
「終わっちゃった」
「きっちり計測してるから安心しろ」
「流石お兄!」
「それでどうだ? ステータスの方に影響はあるか?」
「それなんだけど、ステータスってどう見るの? 小説やゲームなら念じれば見えるけど」
そう言えば王の権能や生徒手帳以外でステータスって見たことねーな。妹の質問に、俺たちは途方に暮れてしまった。
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