第74話 探索者への道③
眷属召喚の検証は有意義に終わった。
血で召喚できるものは多岐に渡るが、召喚する際にはなるべく人目似つかないところで行った方が良さそうだ。
しかしマジックバッグ然り、宝剣然り。
俺の血肉になった瞬間から俺が死ぬまで共にある感覚がある。
思えばシャスラがなんでも口にしてたのはそれこそ気に入ったものをいつでも取り出す為だったのかもしれない。
それを知らないから、こっちはいい迷惑だったが。
シャスラも自分のことを話したがらなかったものな。
そして気づいた点はもう一つ。
一度取り込んだアイテムは、わざわざ取り出さなくても俺の肉体に強い影響を与えるらしかった。
多分だが、相手の防御力というより特性? その物が俺に備わったような感覚。
多分灼熱のブレスを直撃したってピンピンしてるだろう。
日に対する恐怖が上書きされた感じがある。
マジックバッグも同様に、アイテムの特性を俺の肉体がカバーするどころか強化してしまったようだ。
今までは時間停止の能力までは備わっていなかったが、肉体その物が上位に上がったからこその力なのか、どういうわけか時間停止機能が付いた。
じゃあ転移の魔道具を食えば俺は自在に転移出来るのか?
少し興味は引くが辞めておいた方が良さそうだ。
魔道具にどんな効能があるかわからないのもあるが、手に入れたら入れたで多用しそうだ。
もし人との集まりがある場所で帰りに安易に使ってみろ。
“魔道具を使った”が通用する相手ではないだろう。
そして王の権能の事はあまり語るべき事じゃない。
どこに敵が紛れ込んでいるかもわからないんだ。
あまり下手なことをするべきじゃないだろう。
ダンジョンから社宅に戻ると、すっかり陽が上がっていた。
ダンジョン内でモンスターを食っていたのもあって腹は減ってない。うっかり野生に帰りそうな生活ぶりだったが、人間の食事をする事で人間味を取り返した。
シャワーを浴びて、身体を拭いてる時にふと気づく。
あれ、俺の体ってこんなに筋肉ムキムキだったっけ? と。
疾風団で世話になった時に体力はついたが、細く引き締まってる程度だったのに、今や自分の体かと疑わしくなるほどにムキムキだ。
肉体改造なんて目じゃない。血管も浮き出てちょっと気持ち悪い。
というか、これってやっぱり?
<血液が上限に達しています>
8000/5000
<5000消費して上限を2500増加させますか?>
そりゃ増やせるなら増やすでしょ。YESを選択すると、ムキムキな肉体がシュッと通常時のボディに戻った。
ほんのり痩せすぎな気もするが、まぁよし。
しかしどうしてまた急に増えたんだ?
モンスターの飯じゃなく普通の飯を食っただけだが。
改めて今朝作った飯を凝視すると……ヒントはそこに隠されていた。
────────────────────────
なめ茸の味噌汁:飲み物
グレード:8
王が手ずから作った庶民の味。
隠し味に使われたユグドラシルの樹液が寿命を伸ばす。
料理バフ『増血』
上限を超えて8000ポイント血液が回復する。
────────────────────────
知らず知らずのうちに、ユグドラシルの樹液を使っていたようだ。
全く身に覚えがない。ちょっと味見をする為にお玉で直接飲んでみた程度だ。
あれ、もしかして俺の唾液に同様の効果がのった?
いやいやいや、そんなまさか。
だったら自分で食事を作ってるだけで血を増やしまくれる永久機関が完成してしまうではないか。
俺がユグドラシルの樹液を取り込んだ狙いはわざわざテイムせずとも、状態異常の回復とか、傷をすごい速さで治すとかそう言ったモノだった。
だが実際はそれを簡単に上回ってきた。
増血ってなんだ増血って。どっから湧いて出てきたこれ?
ただ、これは一品に対してしか効果がないみたいで、そのあと何杯飲んでも効果はなかった。
増血効果は貧血の人に良さそうだな。病院に売り込むべきか?
辞めとくか。俺は病院に対して碌な思い出がない。
医療発展の為と大義名分をかざせば人の命をなんとも思ってない連中に渡したら今度は俺がモルモットにされかねない。
俺は正義の味方じゃないので、この能力は自分の血を増やす事に使った。
寧々達に念話で話したら興味を持たれた。
どうも月々のモノで常に貧血気味だと言う。
そんな赤裸々な話題を持ってこられても俺には対処できない。
手製のドリンクで手を打ってくれないかと話したら、機嫌を損ねられた。
寧々は時々話が通じなくなる時がある。
照れ隠しなのは分かってるんだが、知ったかぶりで地雷原に突っ込む勇気は俺にはないのだ。
◇
そして翌日、恭弥さんと勝也さんから同時にクエストが来る。
通知内容は年度末のパーティーへ連れてくからそれまでに顔を売ってこいとのお達しだ。
どうやら親父さんと直接対決する場を設けてくれるようだ。
しかし期間は二ヶ月とこれまた短い。
ただ行動するだけじゃダメだな、もっと頭を使って行動しないと。
転移の能力が欲しくなるが、グッと喉元で堪えた。
これ以上人間を逸脱したら誰も擁護してくれなくなる。
ただでさえ敵の多い探索者界隈、勝也さんの為にも俺が強くならなくちゃいけないよな。
そしてもう一つが……
「よう、スケジュール埋めてきたぜ。準備はいいか?」
「場所は?」
「北海道。世界最古のダンジョン、Sランクダンジョンがある地域だ。当然、Aランク程度じゃ入ることも許されない。それくらいの魔境を構える本拠地だ。連なるダンジョンも揃いも揃ってBやAと高い。ほとんどの地域が自然に帰っちまったが、そこに残って鎬を削りあう探索者達にお披露目する。お前には丁度いい難度じゃないか?」
「もう少し新人を労ってくださいよ」
「俺、自分に嘘をつけない性格だからさ。せいぜい揉まれてこい」
「恭弥さんはついてきてくれないんですか?」
「俺が暇そうに見えるか?」
「ええ、とても」
恭弥さんは普段の探索者装束を身にまとい、これからどこかのダンジョンに入るかのように思えた。
一昨日まで暇そうにしてたのに急に忙しくなるだなんて有り得るか?
俺は湿った瞳で恭弥さんを窺う。
「こう見えて忙しいんだよ。スケジュール取ってやっただけでも感謝しろよな! じゃあな!」
そう言って部屋を後にした。
少し間をおいて勝也さんがやってくる。
どうやら恭弥さんを探してるようだ。
「恭弥は?」
「用事があるからと忙しなく出て行きましたよ」
「逃げたか」
手元にあった一枚の封筒をグシャリと握りつぶす。
何かのクエストだったか?
「何かのクエストでしたか?」
「いや、いい加減身を固めろとお見合いパーティーの招待状が来ていたんだ。俺もいい歳だが、あいつもいつまでも独り身じゃ居られないだろう? 探索者協会も若く有能な探索者には次世代を担う立場になってほしいそうなんだ」
「あぁ。でもそれって御堂グループ総帥の息がかかってる企画では?」
「十中八九そうだ。俺が役に立たないから、その子供にターゲットを切り替えたんだと思う。ダンジョンチルドレンに最も高い適合を果たすのは女である必要があるからだ。だから親父は探索者の二世を求めている」
「なんとも息の長い計画ですね。それを待ってられる余裕があると?」
「凛華から聞いたか? 俺も詳しい事情は知らないが、親父は焦ってるらしいな。そういえばクエストは受け取ったか?」
「先ほど」
「そのクエストの発注条件が今回のお見合いパーティーだったんだ。俺たちが身を切るんだ。お前はしっかりチャンスをモノにしろよ?」
そう言って勝也さんは自分ばかり被害に遭ってなるものかと恭弥さんを探し歩いた。きっと多分、ゲーセンに居ると思いますよ?
そう申告して、俺はパスポートの手続きをした。
普通なら一週間かかる申請も、探索者のライセンスをかざすだけで即日発行されるガバガバセキュリティ。
こんなんでいいのか? 探索者。
どうも北海道に好き好んで行く探索者は向こうみずな人たちが多いとかで、言っても聞かないから言うだけ無駄と開き直ったらしい。
なお、TPは100万持ってかれた。
これを高いと思う人はそもそも向こうに渡る権利を得られないらしい。どれだけ修羅の国なの、北海道?
飛行中、北海道に行く旨を全員に念話で送ったらお土産を請求されたのは口にするまでもないだろう。
遊びに行くんじゃないんだけどな……
ゲームはするが、あくまでもプレゼン目的でのゲーム大会なのだ。
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