第73話 眷属/契約召喚

 近藤さんと別れてから、俺たちは一度ギルドに戻って打ち合わせをした。

 ダンジョン協会はなんとか仲間に引き込めたが、問題はここからだ。


 恭弥さん曰く、探索者協会は御堂の息がかかってるのでルールを覆すとなると周囲に示しがつかなくなるとして新しいコネクションを作る必要がある。ワーカー業以外で得意分野があると言えば一つしか思い浮かばない。


 それはダンジョンエクスプローラー。ゲームである。

 たかがゲームと侮ることなかれ。

 ゲームはゲームでも、上位探索者がランカーの他に類を見ないタイプのゲームだった。

 これに顔出しして名前を売ろうと話が決まる。


「MNOの正体を知らないプレイヤーも多いし、お前顔見せしろよ。そっちで顔を売っとけば探索者協会も無碍にはできないぜ? トップの麒麟字さんとは顔合わせしたが、他はまだだろ?」


 そういえば、ハイランカーのメンツを俺はよく知らないな。


「お前、自分がどの位置にいるかもうちょっと考えた方が良いぜ? 探索者と言ったってピンキリだが、ランクに乗る奴はこぞってAランクばっかだ。あ、俺は8位な? 神戸のハウンドドッグは11位に落ちて悔しがってたな。あいつはBだったが、Aに限りなく近いやつだよ」


 確か犬飼さんだっけ?

 口調は男っぽいけどきちんと女性だ。

 そういえばあれから会ってないな。


「アポは俺がとっておいてやる。DEでオフ会しようぜって呼ぶからお前も来い。そん時に腕前を見せてやれよ。ハウンドドッグもあれから腕を上げたみたいだぞ?」


「今まで興味なかったですけど、俄然興味が湧いてきました」


「その意気だ。日程が決まったらクエストに入れとくから、それまで自由にしてて良いぞ。あ、あまり予定は詰め込むなよ? 正月とはいえ、探索者に定休なんてないんだからな」


「俺の方も少し検証したい事があるので無茶はしませんよ。もし俺がダンジョンにいる時に連絡したい時は疾風団か、彼女にお願いします」


「ダンジョンにいたら電波届かないだろうが」


「愛の力で届けてもらうんですよ」


「ガキが、それっぽいこと言ってんじゃねぇ」


 彼女持ちを自慢したら嫉妬に塗れた言葉が返ってきた。

 恭弥さん、彼女の一人でもいないんだろうか?

 ゲームに夢中になってる時間があるのなら彼女の一人でもできるのでは?

 そんなふうに考えるがすぐに考えを改める。


 喧嘩を売ってる相手が他ならぬ御堂グループなのだ。

 家族や彼女を容易に作れば、汚いやり口の御堂は人質に取るなりしてくるだろう。

 ダンジョンチルドレンの実験の時もそうだ。

 世界の為と言って非人道的な実験を繰り返している。

 

 蓮司さんがハブられた時も、裏から探索者たちに根回しをしていた者な。実の息子や娘である勝也さんと凛華とは違い、恭弥さんは赤の他人だ。なおさら温情はかけられない。

 なら自分の身を固めるのは当然か。


 逆に俺は自分を恥じた。

 凛華はちょっとポンコツだが可愛いし頑張り屋だ。

 しかし一度敵対したら向こうも本格的に俺を貶める作戦に出るだろう。

 明海が学園に入学した時が心配だ。

 今は凛華が守ってくれてるが、表に出ることによって良くない感情が出てくるだろう。

 それまでに俺は力をつけなくちゃいけない。


 ◇


 恭弥さんと別れてから社宅へ入り、そこからAランクダンジョンの深層へと転移する。

 今回検証したいのは眷属召喚そのものだ。


 字面からして食したモンスターを自身の血を媒介に呼び出すというぶっ飛んだスキルだ。

 属性はサポート。自身は強くならないが、表でもテイムモンスターを持ち歩けるかもしれないと早速練習開始。


 でもいきなり大物を出して貧血になるのもあれなので、弱いやつから見繕おう。

 

 スライム……ゴブリン、コボルトは食ってないからわからんが、スライムならいくらでも出せた。取り敢えず10匹出す。

 まるで血を媒介に存在させてるとは思えないくらいにスライムそのものだが、俺を制作者と認めたのか普通に意識を通わせる事ができた。


<条件を達成しました>

 眷属召喚を一回実行する

 

<ブラッドリミットが開示されました>

 血液:4990/5000

 1000を切ると集中力が散漫します。


<契約召喚を獲得しました>

 眷属とは契約が自動的に結ばれ、一度召喚した眷属は以降血液を消費せず不滅の存在となります。

 上限枠は10枠。

 血液を500捧げることで上限を+1増やすことも可能です。


<スライムと契約しますか?>


 しません。

 なんでコスト1のモンスターと契約するのか。いや、それでも使い道はあるか。

 いっそスライム系をフルコンプしてみてもいいかもな。

 表向き“スライムマスター”と名乗っておけば、クリスマスの襲撃者が俺とはバレまい。


 あともう一つは、食事したものならなんでも召喚できるということである。

 ずっとこの耐久付与に頼ってきた宝剣。

 これも食えば契約できるのか?


 思えばシャスラはなんでも口に入れていた。

 あれはマナーを知らないんじゃなくて、実は武器を仕入れるために無意識でやっていたことだとしたら?

 

 そう思うと腑に落ちる。

 腐ってもアーカイド。ソウルグレード3の化け物だ。

 血がある限り無敵。

 底抜けにバカなことを除けば、と後ろにつくが。


 マジックバッグから宝剣を取り出し、もぐもぐする。

 口の中が切れたりはしない。

 味は鉄、じゃないな。なんだこれ?

 よくわからない味だが、飲み込んだら召喚リストに載ったのでそれを手にしてみる。


 消費血液は1400。スライム1400匹分だ。

 コストおもってなったのは内緒だ。

 モンスターよりもアイテムの方が貴重なのが分かるな。

 

 実際に俺はこれでモンスターを攻撃した事がないので契約するだけ無駄なのだが、一応契約するとやはり思った通り。

 今まで所持していただけで付いていた耐久が所持しなくても付与された。

 今までは表に出てこないステータスだったが、王になったと同時に手厚いサポートがついたのだ。

 頭に響いてくる音声もその一つ。

 今まではメロディだったものな。


 ──────────────────────────

 <眷属召喚>

 血液:3590/5000

 契約眷属【2/10】

 スライム、宝剣エンデュア

 <パッシブスキル>

 『耐久』new!

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 ついでにユニコーンの角をもぐもぐして、召喚したら消費が3000だった。アイテム重すぎんだろ、と思いつつも便利なので契約、契約。

 意識を保ってる間に捕食して血を回復。

 料理をすれば美味しいが、別に料理しなくても直に食べることも可能なのが暴食のいいところ。

 流石にそれを人前でやるわけにはいかないので、検証は必須だ。

 そしてこんなくそ重いコストのアイテムはもちろん契約!


 俺はモンスターよりも武器として活躍できるアイテムを狙って契約していく。

 スライムマスターを名乗るんじゃなかったのかって?

 別に消費軽いし、なんとかなるだろ。


 ちなみにもぐもぐするより、直接相手の血を吸った方が早いと気付いたのは全ての契約を終えてからだった。

 いっそ血を吸いながら契約するべきだったなと後悔するも時すでに遅し。次回から気をつけるとしよう。

 契約したアイテムは以下の通り。こうやって一覧表で見ると【】枠のランクとグレードによって契約コストが馬鹿みたいに上がっていくのが面白い。正直何回貧血起こしかけたか……俺は過去を振り返らない男。新しい能力を前に少し悦に浸る。


 ──────────────────────────

 <眷属召喚>

 血液:5000/5000

 契約召喚【8/10】

 宝剣エンデュア  【D1】1400

 命の雫      【C5】2600

 マジックバッグ  【C9】3000

 ユニコーンホーン 【B2】3200

 ユグドラシルの樹液【B7】3700 

 マンティコアの毒液【B9】3900

 ティアマットの鱗 【A2】4300

 キマイラマント  【A5】4600

 ──────────────────────────


 今回契約枠は増やさないでおく。血を消費して枠を増やすなんて一見メリットのように聞こえるがこれは罠だ。

 ただでさえ血の増加方法が確立されてないのに、意識を失うギリギリまで消費するメリットがどこにもないからな。


 今のところモンスターと契約するメリットが俺の方にないのと、モンスター使いだと表でモンスターを連れ歩く為一般市民から通報されかねないのを防ぐ為だ。


 モンスターが外を歩いてるだけでダンジョンブレイク確定だから近隣住民の安全の為にも連れ歩かない方がベストだろう。

 だから武器を厳選する。

 流石に武器を持たず、手ぶらでダンジョンに入るのはまずいと思っていたところだ。


 お金はあるが、荷物のほとんどが食料だから自分の血で武器を作れるのなら増やしておくに越したことはない。


 そしてマジックバッグは盗難を見越してこの際契約しておいた。

 名前が売れるってことは能力が開示されることも踏まえなくちゃいけないからな。

 今まで通り無能のままだといらんアクシデントが起こるのは目に見えてる。探索者って言うのは直感の鋭い人が多いのだ。


 ちなみに上限の5000を超えるアイテムは【血液が足りません】と表記が出て呼び出せなかった。

 食ったアイテムを惜しみながらも、どうにかして血液の上限を高める方法を探るのだった。

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