第72話 探索者への道②
すっかり気をよくした近藤さんを伴い、Bランクダンジョンにやってきた俺達。
夕方に申請しても通るものなんだな、時間的には夜に差し掛かるが、問題なく受理できた。電車で移動しつつダンジョンへ。
Bランクダンジョンは東京の巣鴨にある。
受付で引き止めかけられたが、恭弥さんと近藤さんの力で強引に中へ入ることに成功した。
やはり権力者というのは偉大だな。粗品渡しておいてよかった。
ダンジョン内の主な出現モンスター分布はD〜C。
ボスや取り巻きがBに類するようになる。
BランクダンジョンなのにDが居るのか? と思うかもしれないが、DはDで厄介なのが居るのだ。
そいつらがCと組んで攻めてくるので処理を間違えたら防戦一方。
一度守りに入ったら、そのまま削り取られかねない厄介な奴が居るのだ。
その筆頭が火食い鳥。Dランク_グレード6。
上空で屯して炎のブレスを噴射する厄介極まりない飛行タイプのモンスターである。
これの亜種に氷食い鳥というのが居て、初手で氷結のブレスを浴びると身動きができないままに袋叩きにされる。
特に氷結状態の時は打撃系の攻撃にクリティカルがつくので注意したい。
あいつらは真上からの攻撃だけでなく、強襲する事で嘴による突き刺し攻撃もしてくる。
凍らされるか、燃やされるか二者択一を選ばせられる。
「さて、あいつは厄介だぞ? 君はどうどう対処する」
近藤さんが望遠鏡を覗き込み、俺に語りかける。
先ほど手渡した手帳にも記されているDランクモンスターの討伐ノウハウ。
俺は勿論対処法がありますと準備をしてから挑んだ。
用意したものはケルベロスの毛皮とユニコーンの角。
今回はテイムを利用せず、対応力のみで勝負する。
火食い鳥のブレスは厄介だが、ブレスを吐く時間に欠点がある。
勝負の決め手はそこだった。
「ギピエエエエエエ!!」
俺を餌と認識したのか、甲高くなくと上空で旋回してブレス攻撃。
それを毛皮で払う。ケルベロスは火炎無効。
その毛皮に纏った繊維がブレスそのものを無視する。
「ギペ!? ギピエエエエエエ!」
俺の無事を確認すると、ブレスが無理なら鋼の嘴で攻撃だとばかりに一直線に下降。
もちろんその行動パターンは読んでた。
俺は闘牛士の要領でユニコーンの角を毛皮の内側に隠すようにし、ぶつかる直前に真横に回避。
地面に突き刺したユニコーンの角は火食い鳥の嘴を貫通した。
ユニコーンはランクC_グレード2。
神話に出てくる角が生えた馬ではあるが、問題はその角にある。
敵意を察知した時に異様に伸びるのだ。
強く、太く、固く隆起する角。
そしてその角は切り取られた後も敵対者の敵意に応じて鋭く収縮する。
俺はこの特性を利用して地面に設置。
上空のモンスターを返り討ちにしてやった。
「大したものだ。その角はもしかして?」
「ユニコーンのものです。学園の五階層に居たので討伐してから今も愛用してます」
「学園生だったのか? なのに才能はないと」
「学園側からいつになっても認められないので自主退学したんですよ。探索者になれないのに学園に居残る意味もありませんので」
「実際こいつは大した奴なんだよ。ちなみに在学中の踏破回数は何回だっけ?」
それを教えていいものか?
しかしせっかく話題を振ってくれたのだ。
今回は特に能力のアピールをしにきているからな。ここは話題に乗っておこう。
「30回から先は数えてないですね」
近藤さんがその言葉に息を呑む。
学園在学中にダンジョンを踏破するのは卒業課程だからわからなくもないが、自主退学するような生徒が、30回以上踏破したという事実に飲み込めきれない思惑があったのだろう。堪らず話しかけてきた。
「待ってくれ! 才能もないのに学園のダンジョンを踏破したというのか!? あそこのダンジョンは確かに五階層と浅いが、出てくるモンスターは決して弱くはないんだぞ?」
「だから言ったじゃん、こいつは能力のあるなしで見てたら痛い目見るぜって。ちなみに在学中に5000万TP稼いでるからな、こいつ。Fクラスに在籍しながらだ」
「私はあまり学園に詳しくはないのだが、在学中にその桁を稼ぐことは可能なのか?」
信じられないという顔をされる。
そりゃそうだ。実質俺に才能は芽生えてるからな。
ただし表立って発表されないもんだから扱いに困った。
貧乏性だからその特性を利用しまくってるだけにすぎない。
驚かれるのも無理はないな。
「無理だよ。俺だって1500万がせいぜいだぜ? Aクラスでさ。凹むよなぁ、そんくらいこいつは規格外なんだよ」
「さっきから少し話が噛み合わないんだが、クラスによってTPの取り分は変わってくるのかい? 私は探索者時代に学園ができたものだから詳しくは知らないんだ」
近藤さんが詳しい説明を頼むと恭弥さんに話を振った。
話していいか? とアイコンタクトで聞いてきたので頷く。
そして恭弥さんの説明により、実は俺が在学中の半年で10億稼いだ事を知った。
「何で君が無脳のレッテルを貼られてるんだ! 学長は何を考えてるんだ!」
ついには頭を抱えてしまうレベル。
そりゃ(短期間で億稼げば)そうよ。
ダンジョン協会にとって探索者の持ち帰り品であるトレジャーは何よりも優先される。
何せ世界中で資源が枯渇してる中、トレジャーを新しい資源として利用してる企業が多いからだ。
その中で特に貴重なものをその額納品している事実に不正を感じ取ったのだろう、恭弥さんへと振り向き。
本人は肩をすくめて首を横に振っていた。
「あそこの学園は御堂の息がかかってるからな。おっちゃんはお偉いさんの中でも結びつきが一番薄いから知らないだろうが、結構黒い噂が多いぜ? 探索者協会はほぼ染まってるようだし」
なるほど、だから先にこっちにきたんだな。
恭弥さんなりに俺を気遣ってくれたようだ。
「そうか、取り乱してすまないね。そして所持ライセンスで君を測った事を改めて謝罪しておく。すまなかった」
「恐縮です。俺の力は初見の人に伝わりにくいので仕方ないですよ。それよりも近藤さんは火食い鳥は食べたことあります?」
「ダンジョン内のモンスターは倒せば消えてしまうだろう? だから口にする事はないんだが。もしかして君は食べたことがあるのか?」
「俺に取ってモンスターも貴重な食材ですから。流石に二足歩行モンスターまでは食べませんが。牛とか豚は食材によりけりですね。興味はおありで?」
「ないと言えば嘘になるな。秋津君が気にいる相手だ。味は期待していいのだろう?」
「こいつの飯、めちゃうまいぜ。一度食ったら外で食えないレベルだ」
「それ程とは……」
変にハードルを上げられてしまったのを苦笑しつつ、いまだにユニコーンに捉えられて苦しんでる火食い鳥に命の雫を解体ナイフに振りかけて捌いていく。
切ったそばから部位は塞がろうとするが、分断された肉片は傷口を塞ぐに留める。
今回は血を抜かずに調理してみる。
俺にとっては血もまた調味料。
枝肉に加工しつつ、調理開始。
こんな場所で調理するのかと驚かれるが、火食い鳥如きをわざわざ警戒する必要はない。こういう時は仮テイムで消しかけて同士討ちさせるのだ。
そして火食い鳥にとってお仲間が調理されてる過程程恐怖するものはない。
ダンジョン内モンスターは倒されれば消滅するのがお約束だが、生かされて食われる恐怖は未だ味わったことがないだろう。
俺はどんな環境でも火がつく魔道具コンロで湯を沸かし、さっと下茹でして一口味見。
浮き出る電子音に従って揚げ物に決める。
本当にモンスターによって調理過程が全く違うのが面白い。
火食い鳥を唐揚げにして、付け合わせを料理内容に沿って提供していく。血抜きしてないことによって旨みが凝縮されて俺的には赤身くらいの旨さを感じたが、探索者的にはどうだろうか?
バフ効果は自然治癒力上昇と炎耐性だった。
「うまい。俺は塩でいいな」
レモンは邪道だ、とばかりに揚げたてに塩を振って食す恭弥さん。
「私は油淋鶏風にして頂いたが、これは確かに美味いな。普通の鶏肉と違って野趣が強いが、逆にそれがいいアクセントになっている。血抜きはしてないのだっけ? 逆に言えばこの味わいは現地でしか食べられないのだろうな。これが君の強みか。そりゃ秋津君も推すわけだ」
そう言いつつ2人はバクバク食事を続ける。
たくさん作ったからな。
それにしても暴食の俺とは違い、一般人の恭弥さんと近藤さん。
探索者という枠組みではあるが、ダンジョンに潜ると一般的な料理とは縁遠いものばかり口にするからだろうか?
長い道中だというのにこの食事量を口にして平気なのだろうか?
複数の料理にして振る舞った火食い鳥のオードブルは残さず完食されてしまった。
寧々にレシピを渡しつつ「Dランク上位のモンスターを単独で持って帰れるのはあなたぐらいよ」とお小言をもらう。
確かにそうかもなぁ、と念話内で濁しつつ。
お土産に数匹枝肉状態で保存した。
俺がマジックバック所持者である事を最初は驚いていた近藤さんだが、10億稼いだ実績を告げればすぐに疑問は納得へと変わった。
Fクラス生の現状、そして単独での踏破。
これができる生徒は俺かダンジョンチルドレンぐらいだろう。
ダンジョン探索はつつがなく終了し、近藤さんから俺宛の紹介状を頂いた。
特に気に入られたのは粗品で渡した“命の雫”。
頭部の薄い人にあの粗品は特に喜ばれるようだ。
俺の中でもモンスターの再生率を上げる役割もあるのでストックは豊富にある。減れば増やせばいいし、寧々達に量産してもらう伝もある。学園でも溢れすぎて換算レートは地に落ちたようだが、それでも100万をそうそう切らないのは頭部でお悩みのお金持ちが世に溢れてるからだろう。
特に学園に在籍経験のない探索者程頭部の薄毛に悩んでいるので需要はまだまだ終わらないようだ。
飲んでも一時的な効果しかなく、消化して体から出ていけばまた薄くなることから定期的に購入を余儀なくされるとかなんとか。
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