第55話 モンスターテイマーの参戦

「同時に操れるのは五枠までなんだろう? 君にはサポートを手伝ってもらいたいのだが」


「手の内を明かしたのでなんでも大丈夫ですよ。俺も使役モンスターを増やせるのはありがたいことなんで。あ、使役モンスターを持ち帰っても大丈夫ですか?」


 魔封じの瓶を持ち出して揺らしながら質問する。


「成功率が恐ろしく低いそれで封じ切れるのかい?」


「ダンジョンテイマーはモンスターの意思を乗っ取る能力なので、入りたくて入るから成功率100%なんですよ。あ、仮テイム状態は50%です。倒してテイムしないと意思は乗っ取れないので注意ですね」


 簡単に答えると狩野さんがギョッとした様にこちらを見る。


「どうしました?」


「いや、ウチのビーストテイマーとあまりに違いすぎるもんだから」


「そりゃそうでしょう。俺のはモンスターを持ち帰る方法がこっちしかありません。狩野さんはテイム枠になら持ち帰り可能でしょう? その違いですよ」


「いやいや、絶対そんな違いじゃないって。テイムするのだってすっごい時間かけるんだよ? どっかのゲームと違って倒したら起き上がって仲間になりたそうに見上げるとかないもん!」


 もんとか言い出したぞこの人。実はキャラを隠して接してるな?


「はいはい、喧嘩しないの。テイムの仕様だって才能によって変わるもんでしょ? その違いに嘆いたって話は平行線よ?」


「諦めろ、キリ。俺からみりゃお前の才能も十分羨ましい。隣の芝生は青いって言うだろ?」


「そうなんだけどさー」


「それよりもここに出てくるBランクのモンスターを倒す術はあるのかい? 仮テイムモンスターをけしかけても本人が倒さないとテイム可能とはならないんだろう?」


「ちょっとだけ時間をください。手持ちを増やします。あ、勿論見るのは勝手ですが何をしてるのかは内緒の方向で」


 俺は持ち込んだ魔封じの瓶から五種の虫系モンスターとユグドラシルを取り出してその場でテイムからの同士討ち後、蘇生を10回繰り返して枠を強化。合成して一体のグレイターワームを作り出す。

 ユグドラシルをもう一体出して、グレーターワームでユグドラシルを討伐。蘇生されたユグドラシルをテイムして瓶へ。

 もう一匹のユグドラシルをテイムして瓶に入れて準備完了だ。


「おいおいおいおいおい!」


「ダンジョンテイマー、やべー奴じゃん!」

 

「やっぱりさっきの説明半分もいいところだったじゃねーか!」


「いや、問題はあのでっかい樹の性能だ。こんなマグマフィールドで燃え広がらずに存在を維持し続けた。あんな存在、私は知らないよ?」


「お手軽に強いみなさんには敵いませんよ。俺のは準備ありきでようやく強さを発揮できるタイプなので。いやー、楽しみだなぁコレクションが増えていくのは」


「力を持ってなお上を目指す上昇志向は探索者向きではあるがな」


「でもこれが表に出たら消えるのは可哀想だね」


「あー、だから表向きはワーカーになるしかないのか。探索者協会はどんな才能を持っているかのテストもある。それを見せつける手段がないと探索者としてはやっていけないものな」


「テイマーはどうしたってテイムモンスター任せだから優遇はされないのよね。六濃君の場合はさらにそのモンスターを連れてこれないと。そりゃ探索者になれない訳よ。学園でFクラスに甘んじていたのも実際そこがきっかけじゃ?」


 だなんて俺の話で盛り上がる。

 ご本人達は学園に通わずにいたが、親戚たちから聞こえてくる噂は入ってくる訳で、一気に同情を誘った。

 それより早く先に進みません?

 時間は有限なんですよ。


「ほらほら、他人の事情に首を突っ込まないの。本人は気にしてないんだし、こっちは雇用主よ? Aランク探索者たるものがワーカー相手に気後れしてたって仕方ないでしょ」


 麒麟字さんが手を叩いて気持ちを持ち直させた。

 全くもってその通り。

 俺から見たらお手軽に能力を行使できるみんなが羨ましくて仕方ない。俺を羨ましがるのは筋違いって奴だ。


「ここから先はAランクゾーンだ。討伐した経験は?」


「ブラックドラゴンなら一度」


「だからマジックバッグ持ちか。私の思っている以上に君は特異な存在であるようだ」


「ちなみに討伐に一週間掛けてます。それでも特異と?」


「初見で全滅するのがお決まりなんだ、このランクのモンスターは。逃げ帰れるだけ立派だよ。あわよくば打倒するなんてもっての外。しかもその時君はソロだったのだろう?」


「聞いた話だと学園ダンジョンでAランクが出るのはソロの場合のみらしいです」


 麒麟字さんとの会話に、幻術師の貝塚さんが補足を入れる。


「それ見た事か。君はやっぱり異質だよ」


「ひどい、異質って言われた。こっちは無我夢中だったんですよ?」


 無我夢中程度で討伐できるなら人類はAランクで溢れてるだろうと答えを切り上げられてしまった。解せぬ。


 それから小一時間戦闘して小休止に入ると本格的にウチのギルドに来ないかと申告を受けた。

 流石にそれは勝也さんの手前お断りを入れた。

 

 俺にとっての優先順位はまず最初に凛華が人形として操られる可能性がある親父さんとの離縁をしてからだ。

 それまではロンギヌスに籍を置いていた方が俺も妹の明海も安心。

 来年度入学するかもしれない明海と離れて暮らすメリットが俺にはないからな。

 それと彼女を作ってすぐさま遠距離恋愛とか無慈悲にも程がある。


 確かにAランクダンジョンに入れる恩恵はでかいが、二つ返事で答えるほど魅力的ではなかった。

 稼ぐだけならロンギヌスだけでも十分ではあるからな。


 なので返事はワーカーででしたらいつでも駆けつけますよとしておく。俺の才能を知って取り入れたい気持ちはわかるが、俺はあんまり表に顔を出したくないのだ。

 今になって思えば勝也さんの懸念はここだったのかもな。

 上位ランクギルドほど人材不足。俺が優秀であればあるほどヘッドハンティングされかねない。

 本人も上位ギルドの方が身入りもいいだろうと下位ギルドは逆らいきれないところもあるのか。

 そりゃいい顔はしないわ。


 小休止中なので手製の軽食を振る舞いつつ談話する。


「どちらにせよ、こっちには遠征できてますから。ワーカーの仕事をしつつ、情報の取得を堪能させてもらいますね!」


「君ならきっとどこでも上手くやれるんだろうな。晶正さんの血縁であることに合点が行く。あの人も実生活を話さずにのらりくらりとこっちの口撃を交わすところがあったから」


「俺はまだその域に達せてませんよ。なんだかんだでバラしましたから」


「バラした上で一緒に行動しないと強さがわからない情報をもらったこっちはどう評価すればいいのさ?」


「上手い躱され方をされたもんだ。あ、このハンバーガー美味いな、どこの店のだ?」


「手製です。バンズは買いましたが、具とソースがオリジナルです。野菜はおまけですが疲れが取れませんか?」


 調味料に命の雫が混入している逸品。

 これがAランクパーティ専用軽食コースだ。


「何が入ってるか聞くのが怖いな」


「俺の飯の種ですから教えられません。気に入ってくれたらご贔屓にしてほしいですね。ドリンクもどうぞ」


「あ、美味しい。暑いから服の中が蒸れて大変だったから助かるわ」


「温かい手拭いもご用意してます。テントもあるので女性陣はそこで拭って来てください。簡易冷却魔道具もセットでどうぞ」


「君のバッグにはなんでも入ってるね?」


「俺の本職はワーカーですよ? なんだと思ってるんです?」


「それは世を偲ぶ仮の姿! とかじゃないのが君らしいね。ではキリ、信乃。少し汗を拭ってこよう。男性陣にもそれらのサービスはあるのだろう?」


「勿論です」


 と言うわけで男性陣にはまた別のサービスをする。

 男と女でサービスの種類を変えるのはあんまりいいことではないが、ダンジョン内で我慢することも多いのが探索者。

 臭いのきつい食事は避ける傾向があるのでここは強力なニオイ消しを用意しながら魅惑の一品を提供した。


「おいおいおい、これをダンジョン内で食せるとか正気か?」


「口が臭いだけで連携が乱れるんだぞ? ダンジョン突入前はそれこそ我慢してるってーのに」


「……ごくり」


「そんな時の為の消臭剤をご用意してます。女性とご一緒する以上、男にも我慢すべきポイントがあるのは心得ています。生理現象だってあるでしょう。特にここは危険地帯。我慢のしすぎは良くないですよ?」


 持ち出したアイテム群に心を躍らせる男性群。

 男は胃袋を掴めば大体落とせると言うが、それだけじゃあ落ちない猛者もいる。

 その猛者どもを落とすのに用いるのが男でしか分かり合えない嗜好品のやり取りである。


 ニンニクをガッツリ効かせたラーメン、餃子。

 これらは嗅覚を利かせるテイム系の妨害になるからとこのパーティーの男性陣は我慢させられてきた。

 だからといって女性陣優遇というわけではない。

 お互いが我慢し合って尊重し合っているからこそ生まれる絆もあるのだ。


 俺はその隙に付け入り、今後とも世話になる気満々で懐柔作戦を実行する。上位ギルドなら多方面に顔が利く。

 俺の噂をもみ消すくらい造作もないことだろう。

 その為にはここで恩を売りつけとかないとな!


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    ┃本日は19:10にも二話目が投稿されます。┃

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