第54話 隠蔽工作失敗!
衝撃の事実を聞かされつつ、Aランクダンジョンに赴く道中に父さんの過去の話を聞いた。
当時の俺は弱い存在を守ってやれとよく言われたことを思い出す。
ずっと妹の明海のことを言っていたと思っていたが、自分も似たようなことをしていたからだと今になって思い至る。
「六濃塾と言ってね。まだ才能の覚醒のない子を引き取って、ダンジョンに入る前の事前知識を教えてくれたんだ。私達は当時才能の覚醒もまだまだのひよっこでね。今みたいに学園もなかったし、才能の有無もよくわからなかったんだ」
麒麟字さんは年齢こそ明かさなかったが、勝也さんよりもひとまわり上だそうだ。だとしたら俺の……考えた途端に麒麟字さんからの圧が強まる。
俺以外の全員が震えだしたので年齢について考えるのはやめよう。
ニコニコしてるのに気が短すぎない?
いや、女性の年齢について考察をした俺が悪いんだけど。
「寒かったかな? 暖房ついてるけど」
「あ、窓開いてたみたいです。それが寒かったのかも」
「おっと気をつけてくれよ? アタック前に風邪をひかれたら大変だ」
大型ワゴンでの移動中、誰の殺気で全滅寸前になっているのやら。
他全員がノックアウトしたのを確認してから、運転手を兼任していた麒麟字さんが問いかけてくる。
「そう言えばさっきは聞きそびれたけど、六濃君の才能は?」
「あ、俺はワーカーで来てるので。持ってたら探索者なってますって」
「今はそういう建前は要らないかな?」
せっかく場を整えてやったのに、と恩着せがましく語りだす麒麟字さん。もしやさっきの威圧もわざとだった?
「実は持ってるんでしょ、才能? ないって言う方が無理あるよ。あの動き、あの対応。キリちゃんへの反応から見てテイマー系かな?」
ウインカーを右に点灯させたのち、ハンドルを切る。
凄いな、あの会話だけでそこまで見透かしてくるのか。
「どうしてそう思うんですか?」
「これは経験談だけどね。探索者のランクは乗り越えてきた修羅場の数によって決まると言っていい。君の反応速度は既にAランクの域に至っている。だと言うのに本人は才能はないと言う。分かる人には分かるもんだよ? なんで秘匿してるのかは聞かないよ。晶正さんもあまり多くを語る人ではなかった」
君もそうなんじゃないのか?
問われて俺は何も答えられずにいた。実際のところAランクダンジョンに入れるこの環境はありがたい。同時にある程度話してしまえばずっと仲良くできるのではないかと言う黒い部分もないわけではない。
しかし勝也さんはこの話には乗るなと言う。
俺にとっての美味しい話だけではないとの懸念がどこにあるか見極めない限り、俺も慎重に行こうと思った。
「そうですね。確かに俺の対応は珍しいのかも知れません。でも基本は慣れですよ。俺がどの様に学園で過ごしてきたか知りませんよね? だからみんなFクラス生の癖におかしいって言いたがる」
「特別なことではないと?」
「俺からしてみれば、才能もないのにダンジョンに入るのと、才能を得てからダンジョンに入るのは命綱が有るか無いかの違いです。俺は運悪く持ってなかった。持ってて当然の奴らからみれば俺は異質に映ったと思います」
「そうまでしてダンジョンに入った理由を聞いてなかったね。どうしてそこまで無理をしたんだい?」
「妹が魔石病と言う奇病に罹っていた話は勝也さんから聞きましたか?」
「ああ、それ関連だったのか。悪いことを聞いた。今妹さんは?」
「クラウドファンディングが成功して無事退院。彼女の元で養ってもらってます。お陰で彼女に頭が上がりません」
「おっと、出遅れてしまったか」
この反応は……いや、まさかね?
今のは聞かなかったことにしよう。
「……う、ここは?」
そんな腹の探り合いの最中、威圧効果が切れたのかメンバーが気を取り戻していく。参ったな、Aランクと言えどあの程度の殺気でダウンか。これはもっと演技した方が良さそうだ。
「車の中だよ。疲れが溜まってたんだろうね、きっと。一斉におねむになったみたいだ。と、ようやく見えてきたね。あの場所が例のダンジョンに繋がる区画だ」
F〜Dランクダンジョンとは違い、Aランクともなると入り口の封鎖が厳重だった。
今まで通ってきたダンジョン入り口はコンビニ程度。
上位ランクはシェルターの奥に封じ込められている。
守る、と言うよりは逃さないためのシェルター構造。
さてどんなモンスターが出てくるのかお手並み拝見といきますか。
「Aランクダンジョンは初めてです。出現モンスターの分布図は?」
「気になるかい?」
「そりゃ、飯の種ですし」
ここで新種のモンスターを知れる事は糧になる。
学園のダンジョンでAランクを見たのは後にも先にもブラックドラゴン一回こっきり。
凛華達のトレーニング相手に最近Bランクモンスターでは追いつかなくなってきてる。
勿論、凛華のみならず、寧々や木下君、秋庭君、関谷さん、紅林さんも目覚ましい連携を見せている。
久遠はなー、強い分暴走するデメリットを抱えているので、いかに暴走しないかで立ち回る術を教えている最中だ。
それでも対応力は元Fクラス生とは段違いで砂が水を吸う様に覚えていくから将来が楽しみだ。
凛華もそうだけど久遠もまだまだ伸び代がある。
まだ成長できると知った彼女達に俺ができることと言ったら使役モンスターを持ち帰る事ぐらいだもんな。
「じゃあ、ここから先は君の未体験ゾーンだ。いつも以上に気を引き締めてくれよ?」
そんな呼びかけと同時、肌を焼く様な熱気がフィールド全体から襲ってきた。熱だけじゃない、喉の奥もカラカラとする。立っているのがやっとの空間。その上で足場も最悪。
煮えたつマグマがあちこちで火柱を上げながら進行の邪魔をした。
「マグマフィールドですか?」
「落ちたら死ぬから気をつけてねー?」
気楽に言ってくれる。メンバー離れた様子で前を進み、俺も遅れじと後を追う。
かくしてこうやってAランクダンジョンの侵入を果たせたばかりだが、本当に見たことのないモンスター群で驚いた。
雑魚ですらBランク上位。
一匹一匹が規格外。釣っては連携して打ち負かす。これが常套。
群れで襲ってきた時の対処法も変わらず分散させて仕留める形。
全員が全員の仕事と役割を交代できる強みがAランク足りえる実力を持っている。
まぁ、俺も見たことある(討伐済み)のモンスターを消しかけてお手伝いはしてるので勘弁て事で。
ドロップ品に至ってはまあまあデカいので早速マジックバッグの存在が明るみになったくらいだ。
正直、持ち込んだバッグが小さすぎて持ち帰れないまであった。
先に行ってくれないかな、そう言うの。
ワーカー泣かせにも程がある。
「やっぱり君、持ってるでしょ。テイム系?」
「そう言えばたまに変な動きをする個体がいたな。普段なら他の個体を襲うことなんてまずないのに」
「あれ、君がやってたの? 情報秘匿は隠した相手にはいいけど一緒に行動するメンバーにするのはないよー。知ってるのと知らないでは余計な動きが出てきちゃうからね」
と、まあこんな感じで無能なワーカーを装うのは土台無理になった。普通のワーカーなら見ただけでビビって震えて置いてくことがしょっちゅうある。中腹地点までついてこれるだけで異常。つまり胆力まで備えたワーカーは俺くらいだと述べられては降参するしかない。
このメンツ相手に今まで同様に誤魔化すのは無理だと情報を公開した。
「ダンジョンテイマー?」
「ええ、それが俺の覚醒した才能です」
勿論、全てのできることを開示はしない。
一度討伐したモンスターはテイム可能な事。しかし、ダンジョンから出るとテイムモンスターが消える事。
再度テイムするにはまた倒さねばならない事。
一種族一匹だけに限り、一度テイムした事のあるモンスターは仮テイム出来る事。
同時にテイムできる枠は五体まで、とデメリットしかない部分を口頭で伝える。
実は条件を満たせば枠は増やせるし、モンスターを強化、合成出来ることは教えなくてもいいかなと思った。
「え、それ強いの?」
「だが実際、Bランクを操って見せた。強いのだろうな、俺たちには到底理解できないがこの子はそれにたどり着く何かを見出したのだろう。その情報だけが全てではないと見るべきだ」
流石Aランク。今の情報だけで全てではないと見抜いたか。
いや、そんじょそこらのAランクと同列視するのは失礼か。
このギルドメンバーはAランクギルドでも最上位に位置するメンバー達。自身の能力すら創意工夫で昇華してきた人達だ。
そんな人達を導いたのが父さんだったと言うだけで俺も鼻が高い。
同時に血は争えないなとも感じた。
「じゃあ、今度からはそれも見据えてやっていこうか。海斗君もそれでいいかい?」
「俺としてはそっちの方が気が楽ですね。操ることでどんな情報を持ってるかも知れます。ワーカーとして食っていくのなら、モンスター情報はあって困ることはないんで」
「君のそう言うところ、嫌いじゃないよ?」
麒麟字さんはニコニコしながら俺が単独で稼ぐことを許可してくれた。他のメンバーも同意してくれている。
後はどれだけ貢献できるかは俺次第だな!
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