第53話 Aランクダンジョンへの案内人
クリスマスパーティーで楽しい時間を過ごした俺は、妹を凛華の部屋に送ってからロンギヌスのギルド社宅へと帰る時のことである。
メールの着信をうけて電話をかけるとすぐに出た。
『今パーティーの帰りか?』
「そんな所です」
『悪いがお前にご指名が入った』
「俺に?」
『多分恭弥経由でお前の話が伝わったんだろう。バカンスは一時取りやめだ。至急三重の探索者協会に行ってくれ』
「突然ですね。しかも名指しで出張ですか? 恭弥さん経由と言うとDE関連ですか?」
『ああ。本当だったら突発の依頼、断ってもよかったんだが相手が相手なもんでな。お前は探索者について詳しくないんだっけか?』
「はい。一攫千金狙いでの入学ですから」
『ならこれだけは言っておく。あまり相手に自分の能力をひけらかすな。いいな?』
「勝也さんがそこまで釘を刺すってことは……?」
『相手は俺らの世代の現役トップだ。うちの親父が第一世代でのトップだと言う話はしたか?』
「いえ。ただ御堂グループは有名ですから」
『そうか。じゃあトップランカーになると嫌でも顔が売れると思って置いておけばいい。あいつはそういう意味でも親父の次に探索者に顔が効く』
「だから断れなかった?」
『それもあるが、あいつとは親父を打倒するのに協力してもらってる仲間の一人。成功報酬にお前の雇用を持ち出してきてな』
「ああ、腑に落ちました。俺が行くことで勝也さんのメンツが回復する?」
『そうだ。そのかわり稼いできていいぞ?』
「能力をひけらかさずに、ですか?」
『ああ。雇用期間中、あいつのギルドはAランクダンジョンに篭ることになる。そこでお前が何をしようと目を瞑ってやる。俺のギルドじゃまだAランクダンジョンに予約が取れないからな。先にそっちで勉強してこい』
「成る程。それは俺にとってもありがたい仕事ですね」
『普通は身に余る光栄だっつってメンバーを聞いて震え上がるもんだが』
「あ、俺そういうのは気にしない人なので」
『そういう奴だと思ったよ。新たにクエスト出しとくから受け取ってから現場に迎え。移動費くらいはギルドで負担してやるよ』
「あざーっす」
TPでの支払いなら余裕で支払えるが、逆にワーカー業でどうやってそんなに稼いだのか聞かれても困るしな。ここは勝也さんの労いに感謝しておこう。
ちょっとしたやり取りだったが、よもやここにきてAランクダンジョンにワーカーとして雇い入れられるとは。
幸先がいいなと思いつつも勝也さんの懸念が見えてこない。
同じ目的を持つ仲間なのに手の内を見せるなという件だ。
それは実際に接してみないとわからないな。
部屋に戻るなりシャワー浴びてベッドに寝転んだ。
俺が告白した相手は凛華だった。
寧々は俺には勿体無いし、久遠は妹にしか見えない。
その中で付き合うなら凛華かな、と思った。
別に勝也さんを安心させたいと思ったわけではない。
ただ、見ていて放っておけないと思ったんだ。
妹が世話になってると言うのもある。
もし付き合うなら……とまだ付き合い始めたばかりの事だ。
流石にその先のことまでは考えてない。
◇
翌朝ギルドのロビーでクエストを受け取り、情報を貰ってから三重県へ。東京から片道7時間。
神戸から車で来た亜紀さん達のポジティブさを見習いつつ、朝イチで向かうも着いたのは昼の二時を過ぎた辺りだ。
「こっちの方は東京に比べて暑いな。場所はっと、あっちか」
タクシーを乗り継いで探索者協会へ。
ロンギヌスから依頼を受けた六濃ですと名乗り出れば隣接したホテルのキーを渡された。
どうやらここで寝泊まりしろと言うことらしい。
マジックバッグ持ちだと荷物もそんなにないのだが、ワーカー業としてきてる以上、それは流石に怪しまれるかと荷物を用意して出発する。
準備ができたと連絡すれば、談話室へと通された。
ノックをして、室内からの返事を待って室内へ。
「お待ちしていたよ、MNO君」
「やっぱりDE案件でしたか。生憎と俺はそっち系に疎くて、申し訳ありません」
「ああ、それもあるが実際には君がダンジョン内でどれくらい動けるかを見てみたいというのもあってね。うちでもワーカーを雇おうと思ってるんだが、なにぶんと向かうダンジョンランクが高い。そこでCランクモンスター相手に切った張ったできる君はどれくらい持つか見てみたくてね?」
「DEのように動けるかは解りませんが、仕事はするつもりですよ」
「なら良かった。恭弥君は絶賛するのに勝也君は出し渋るので無理をさせてもと思ってね。それではメンバーを紹介しよう。ああ、その前に自己紹介からかな?」
普通であれば知らない方がおかしい。そう言われ慣れてるのか、自己紹介を自分からすることの方が珍しいようだった。
「私は
KRN! 俺が本気で挑んでなお超えられない壁。
勝也さんが慎重になる訳だ。
セリフ運び一つとってもどこか探るような気配を感じる。
今まで出会ってきたチンピラのような探索者とは一味も二味も違うのがよくわかった。
「それじゃあメンバー紹介と行こうか。入ってきてくれ、例のMNO君を紹介するよ」
パンパンと手を叩くと、面構えからして軍人のような規律を重んじてそうな五人組が現れる。今までの探索者とは一味も二味も違う。全員が一戦級。こちらも態度を改めねばなるまいと居住まいを正した。
「では自己紹介を頼む。彼は探索者業界は素人でね、知っているだろう? と言う威圧は無意味に終わるよ。私もしたが全く通用しなかった。凹むよねー?」
威圧なんかしてたか?
すっとぼけてるとどよめきが起きる。
おっと、実は会話が始まった時点でテストが始まってた系?
「芳佳さんの威圧を受けて涼しい顔をしていただと? 鬼の麒麟字を知らないとは末恐ろしいな。俺は桂木だ。才能は『ガーディアン』、ギルドではタンカーを務める」
「私は狩野キリ。才能はビーストテイマーよ。よろしくねー」
「狩屋さんのテイムはビースト種に限る感じですか?」
「お、気になる〜?」
狩野さんは意地の悪そうなお姉さんて感じの雰囲気の人。
良くも悪くも会話のペースを握られると後々厄介な感じだ。
「テイマーってあまり聞かないので」
「そうね、それは後で教えたげる。その前に他の子の紹介が先でいい?」
頷き、残り三人の紹介を受けた。
今回雇用されるのは麒麟字さんが率いるこのパーティ。
驚いたことにギルドメンバーはこれだけしかいないのだそうだ。
替えが利かないからそれぞれが複数の役割を受け持つスペシャリスト。そりゃ全員が全員をカバー出来れば隙なんて生まれるはずがない。
正直ワーカー要らないんじゃね?
と言うのが本音だ。
【鬼神】麒麟字芳佳『???』
【蟻地獄】桂木拓人『ガーディアン』
【獣王無尽】狩野キリ『ビーストテイマー』
【神速】クロウ・ディム『ルナシューター』
【幻影】貝塚志乃『幻術師』
【連撃】甲賀半治『忍者』
全員が仲が良さそうなメンバーに、俺も紹介を重ねる。
「ギルドロンギヌスから派遣されてきた六濃海斗です、よろしくお願いします」
「あれ? 六濃って六濃晶正さんのご親戚?」
意外なところで意外な名前が出てきた。
「晶正は俺の父ですが?」
「わ、こんな偶然てある? 私達、あの方の教え子なのよ」
「え?」
俺は訳もわからず二の句を告げずにいた。
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