第52話 クリスマスパーティ
12月の末。
カップル達が色めきだち、俺の周りの女子達がクリスマスパーティをしないかと誘ってきた。
勝也さんからも許可が出て、働き詰めの毎日からしばし解放された。
場所は勝也さんが用意してくれた都内のホール。
荒稼ぎしたTPを使って豪勢な内祝いだ。
その場所はドレスコードが指定される場所で、その日俺は指定されたスーツに着られる様。
その他も同様だ。
唯一様になっていたのは凛華と寧々だ。
凛華は流石って感じで、寧々に至っては恥ずかしがるほどのもんじゃないでしょうと肝が据わってるからこその余裕。
久遠は馬子にも衣装って感じで浮きまくっていた。
そして……
「お
妹の
どこか着なれないドレスに戸惑いつつも、病床に伏せっていた時とは違いふっくらした体にピッタリとフィットしていた。
その姿に思わず感涙する俺。
「ちょっ、泣かないでよぉ!」
「ごめん、感無量で」
「はいはい、六濃君にとってはたった一人の肉親だものね。その為にも今までの頑張りがあったわけだし」
「お兄、あたし今とっても幸せ。よくしてくれる人たちに囲まれて、こんなパーティにも誘ってもらえた」
「うん、うん……」
「でもこれからは、お兄も自分の為に時間を使ってね? あたしはもう大丈夫だから!」
「分かった。ありがとう、明海」
「どういたしまして! それよりもそろそろ決着つけなくちゃいけないんじゃないのぉ〜?」
明海が周囲を振り返り、それぞれ着飾った女性陣にそうだな、と振り返った。
俺が告白しやすいように、秋庭君と木下君が花束を持ってガチガチになりながら関谷さんと紅林さんに手渡していた。
どこまでが仕込みかわからないが、カップルの誕生に次は俺の番だぞ、と念を押された。
俺が出した答えは……
◇◆◇◆
「その話は本当か? ATM」
「こっちでは秋津恭弥って呼べ、HDD」
そっちこそ、と同じ名乗りをする恭弥に亜紀は苦笑する。
場所は大阪の探索者協会本部。
そこでちょっとした立食パーティが行われていた。
その日海斗に自由行動を許したのはひとえにこちらへ出席する為。
ここには今の時代を生きる探索者が鎬を削り合う意味合いでもコードネームでの呼び合いが義務付けられていた。
恭弥であれば『サイレントキラー』、亜紀であれば『狂犬』などだ。で、あるにもかかわらずDEでのコードネームを呼び合うのは何も彼らに限った話ではない。
「や、お二人さん。お噂はかねがね」
「出たな、三重のKRN。今日は随分とバリっと決めてんな?」
現れたのは女性探索者の中でも最高峰。
若くしてAランクギルド『奉天撃』をまとめ上げ、その上でDEでも上位に位置する存在、麒麟字芳佳の登場に亜紀と恭弥はサービスドリンクを掲げて挨拶を交わした。
「仕方ないじゃないの。今回はコメントを授かってるのよ? いつも通りというわけにもいかないわよ。それにしても珍しいわね、犬猿の仲が仲睦まじそうに」
「そうそう、MNOはこいつの傘下に入ったらしいぜ? 俺もバッチリこの目で見た。あれはヤバい。何がヤバいかは俺の口じゃ説明はできんが、俺らとは別種の存在と見ていい。地頭がいいとかそういう問題だけじゃ説明できねぇ。まるでモンスターの対応策が全部頭に入ってるみたいな動きと習性の裏を突く行動。全てにおいて高水準だ」
「へぇ、ライバルになりうる感じ?」
「いや、あいつ才能ないから雇うって言ってもワーカーでだぞ?」
「うむ? 才能がないのにモンスター知識がある?」
「そこが凄いんだよ。記憶力の良さか、はたまた向こうが何をしてくるのか未来が見えてるかの処置法の数々。もし才能があったらと思うと肝が冷えるよ」
「ATM君はもし彼に才能があったらどこまで上り詰めると思う?」
芳佳の思わせぶりな質問に、恭弥は自信満々に答えた。
「そりゃ勿論。トップだよ、トップ」
「私すら追い抜くと?」
「いんや」
恭弥は肩をすくめて掌を上にあげると、間を開けてから口を開いた。
「今の御堂グループの総帥すら追い落として頂点に立つ。ありゃそういう奴だ。見てる場所が違うのよ」
「君がそこまで褒め称えるか!」
芳佳が感嘆の声を上げるが、恭弥は頭を振った。
「だからこそもったいねぇんだ。あいつに力さえあれば……みんながそう思う、努力の天才だ。生憎と神様からは嫌われちまってるらしい」
「そうか。DEで久方ぶりの好敵手に出会ったと思ったが、こちらには来ないか」
「でも、そのデータログは俺たちの役に立つぜ? ほらよ、NEWRECORDじゃないが今のMNOの記録だ。俺はコピー貰ったからな、お前にもやるよ!」
「いいのかい? 私は君に嫌われているもんだと」
「ああ、でもそれはライバルって意味でだぜ? 俺ばっかりズルして上に上がったんじゃフェアじゃねぇ!」
「おや、君にしては珍しい」
「こいつ、MNOに女性扱いされてちょっと嬉しかったらしいんだよ。普段ガサツの極みだし、男口調だし、不良から崇拝されてるくせにさ」
「ハハッ、よもや年下に惚れたのかい? いや、ここはおめでとうと言っておくべきか」
芳佳からの心からの拍手に、亜樹はそんなんじゃねぇよと狼狽える。恭弥から見ればその態度で丸わかりだろうにと肩をすくめた。
ちょっと用足してくらぁ、と女性にあるまじき口調で化粧室で飛び込むと、それを見送りつつ芳佳と恭弥は真剣な顔つきになる。
「やっぱりあの失踪事件、裏で御堂が動いてたぜ?」
「やはりか……どうにも辛いねぇ、正義の味方は。事が起こってからじゃなきゃ動き出せない」
「それに関しちゃ勝也が動いてくれている。これを」
テーブルの上に置かれた手紙。
芳佳はここで話すには耳が多すぎると話題にも出さずに簡単にパスコードとアドレスが記された手紙を読み上げる事なく懐へ忍ばせた。
「確かに預かった。それにしても彼女がああも変わるとは。MNOはとんだ人タラシなようだ」
「それに関しては否定できねーな」
芳佳の問いに苦笑する恭弥。
亜紀が帰ってくるのを迎え入れ、三人は別の店へと足を向けた。
二次会はDEの話題で盛り上がった。
◇
芳佳は二人と別れた後、宿泊先のビジネスホテルで早速パスコードを打ち込み、中の情報を確認後、ファイルを抹消する。
「確かにこれは表に出せない案件だわ」
六濃海斗。MNO。学園内では無能と蔑まれ、自主退学したとされた。しかしもし彼が認められていたら、自力で10億稼いだという事実。学園側はそれを秘匿し、自分の小遣い稼ぎに走った。
御堂はそれを見過ごせなかったのだろう。
何せ出てきたアイテムが抹消した筈の命の雫。
「これは確かにあの人には誤算だろう。ドライアドなんて私だってそうそうお目にかかった事がないというのに」
六濃君はそれを秘密裏に製造、またはドライアドそのものを創造できる術を持っているとのこと。
「そのヒントがここに封じられていたらいいんだけどね」
芳佳は亜紀から授かったデータをパソコンで干渉し始めた。
最初こそおぼつかない動き。Fクラス生ならではの拙さが前面に出ていた。
しかし中盤を過ぎたあたりから歴戦のAクラス生を抜きん出た勘の良さとどんな経験を積めばそんな度胸が生まれるのかと疑わしいほどの知識と度胸を併せ持ち、最終エリアにまで到着。
何故こんな生徒がFクラスに居るんだ!?
いや、現場の教員は一体どんな節穴なのか。
これほどの動きをする生徒、噂に登っていてもおかしくないだろうに。いや、それよりも先に体面を取ったのだろうなとすぐに考えを改める。実力主義の実力には権力も含まれるのだ。
大方、大手ギルドの二世に目を向け過ぎて末端の彼に目が向かなかったのだろう。今の腐った教育制度にはよくある事だった。
芳佳は憤りから興奮覚めやらず勝也へ連絡を取り付けていた。
六濃海斗に合わせて欲しいと。
直接見て話を聞いてみたいと。
そして彼を一日雇いたいとオファーを出していた。
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