第50話 再び関東へ(犬飼真希)
家出常習犯である妹が、実は事件に巻き込まれたと朱乃から聞かされた時、あーしは言葉を失った。
どこの誰がそんなふざけた事をしでかしたのか、とっちめてやると意気込むが、本人はどこか上の空。
「実は私、迷ってるんです。このままでええんかって」
何を迷う必要があるのか?
あーしと朱乃は関西支部では首席と次席。TPだってトップに食い込んどる。将来は安泰や。
「妹が、東京もんに恋したらしくて。私、それで焦りを感じてしまって」
かーっ、色恋に浮かれおって。まぁ? あーしも花の女子高生。
気持ちはわかるつもりや。
ゆうてもそれは一般人の認識や。あーしら探索者は一般人とは結婚出来へん。どうしたって能力の差で見てしまうから。
「なんならウチらで今から遠征しに行くか? 関東支部には借りもある。あの時の決着もつけとらんしな」
「真希さん! いいんすか?」
「あーしの姉貴も近頃東京もんばかり目立って面白くない思うとる。行く時は姉貴に引っ張ってもらうつもりや。それでええか?」
「しゃーっす、頼りになります!」
あーしは当時を思い出していた。
まだあの時は夏場だったが、今はもう真冬。
背中にバットを仕込むんはやめとこ。金属バットは乙女の柔肌に響くわ。
六濃君ちゅーたか。あんたはあーしらAクラス生に向かってお遊戯扱いした。
まだFランクで頑張っとるんやったら、今も同じことが言えるかその口から聞いてみたいわ。
あーしもあれからパワーアップしとるんや。
TPも1500万に届いたし、関西のギルドからも一目置かれてる。
当時で5000万やったら今頃一億か?
比べられたら立つ瀬ないなと思いつつも、どうすればそんな稼げるんか聞いてみてもいいな。
姉貴の車で高速を一っ飛び。
つーても五時間はかかった。道中で休憩も挟んだから予定よりずっと掛かったな。学園側は首席のやることに文句は言わんけど、正直優遇しすぎ思うことはあるよ。
「姉貴、先に学園の関東支部に寄ってもええか?」
「例のFクラス生が気になるんか?」
「そうや、あたしらをまとめてお遊戯扱いした六濃君にちぃとばかし挨拶しとこ思うてな」
「ふぅん。おもろい子やないか。例のMNOも関東支部生らしいし、ちょいと顔出してこか。朱乃も来るか?」
「お供します!」
そうしてお昼過ぎに着いた学園内で、あーしは六濃君の現状を知った。
「え、自主退学した!? あんなに稼いでたのになんで?」
「それがかくかくしかじかと言うわけで」
次席の佐咲ゆうん子が説明してくれた。
首席と次席が揃って六濃君を優遇し出すもんだからAクラス生はおもろくない。それで決闘まで持っていったんはいいけど、実力では勝てずに風評被害で罵詈雑言の雨霰。
付き合うのも馬鹿らしいと自主退学の道を選んだらしい。
「でも六濃君、ここでやる目的があったんちゃうの?」
「それはすでに叶いました。なので出て行くと。今は兄様の元でワーカー業に励んでいますわ」
「あぁん? 御堂の兄、ちゅー事はあのロンギヌスか!」
「お探しのMNOも六濃君でしょうね。兄様もそんなことができるのはあいつくらいだそうと仰ってました」
「よーし! 見つけたでMNO! 今度こそ勝負つけたる! 行くぞ、真希! 朱乃!」
姉貴は一人で盛り上がってしまった。
MNOが六濃君だって分かったからにはもう止まらんやろう。
「待って姉貴。あーしはここでお話ししとるわ。姉貴達は先言ってて」
「お前、場所はわかるんか?」
「こっちの道はこっちの人に聞くんが一番やわ。心配せんとって。あーしもいつまでも子供じゃないわ」
「そうか。なら置いとくぞ。集合場所はSNS送るわ」
「堪忍な」
◇
あーしが一人残った理由は、六濃君がいなくなったと言うのに、凛華の奴が平静でいられた事が不思議でしゃーなかった事。
「お姉さん達、行かせてしまって良かったの?」
「姉貴の目的は六濃君や。今ここに居っても目的は果たせんやろ?」
「なら、真希さんが学園に一人残った理由はなんでしょう?」
「あんたら、あーしになんか隠し事しとらん? 目を見ればわかるわ」
「凛華、彼女には隠し事は無駄みたい。きっと察知系のスキルガン積みよ?」
「ええ、恐ろしいほどの野生の嗅覚。では私達が秘密裏に行っている事をお教えしましょう。ただし、聞いたら引き返せませんよ?」
「望むところや!」
どうせ六濃君と秘密裏に連絡取り合ってるくらいやろ?
そう思ってたんやけど、今思うととんでもない件に首突っ込んでしもうたと頭を抱える羽目になったわ。
手土産に持たされた100本もの“命の雫”。
これをTPに換算するだけで30億ちゅーんやからアホちゃうかって思ったわ。
でも、これはただのTP稼ぎとちゃう。
目的を聞かされたらその思想はあーしも他人事やないと思った。
朱乃の妹もその事件の被害者。
例の事件は才能覚醒者の二代目がターゲットっちゅう話や。
これをTPに変える事で借金の返済に充てたり、在学しながら手伝う事ができるし、もしそれでも物がない言われた時の現物にもなる。
そして六濃君がやりたい事は命の雫の安定供給。
この世界から魔石病で苦しむ患者を撲滅する。
そんな壮大な思想。凛華達はその思想に乗っかって協力しとる。
今までのあーしがやってたことなんて、ほんまお遊戯やん。
こんなの笑われて当たり前や。
だからこう言うた。
「なぁ、その件あーしらにも一枚噛ませてもらえへん? 実際あーしらも他人事じゃないやん。協力するで!」
「宜しいのですか? うちの父様を的に回したらお姉さんのギルドなんて簡単に潰されてしまうかもしれませんよ?」
「そんなん怖がってて探索者がやれるかっちゅーんや! モンスターに立ち向かうのとそう違わんやろ? あーしもやるで!」
「気持ちは固いようだわ。それじゃあ私達の仲間を紹介するわね。みんなが六濃君に助けてもらって、恩義を感じてる人ばかりよ」
佐咲ちゃんを筆頭にここでは凛華と沖縄の超新星北谷久遠言うたか? それらを除いて全員Fクラス生。
全員が今やAクラス生ゆーんやから六濃君がどれだけ人材育成のプロか疑う余地もないんやな。
そう考えるとあーしはまだ六濃君のことなんも知らん。
Fクラス生でありながら5000万溜めるバケモンやっちゅーのは知ってた。しかしそれがどれほどの茨の道かいまいち理解しとらんかったんや。
彼の事を知れば知るほど努力の人やっちゅうんのがわかる。
才能の所為にしない。
どんなに自分の立場が学園内でも低くたって、決して諦めず、最後までやり抜く覚悟を貫き通す。
そうして紡いできた信頼関係が今もあるんだと分かった。
漢やん、六濃海斗。
なんやあーしも年下君を意識してしまいそうや。
好みのタイプは才能が強くて引っ張ってくれる年上やった筈なのに、朱乃の言葉が頭の中でぐるぐる回って責めるんなら今やって思ってまう。
「これは強力なライバルの登場かしら?」
「ちょっと真希さん? 六濃君は渡しませんよ?」
「むームックンはみんなのムックンよ? 抜け駆けは許さないよー」
この子らも、六濃君大好きすぎるやろ。
まぁ、だからこうやって集まって尽くそう思っとるんやろな。
あーしも負けてられへんで!
「なんやー誰か黙ってちゅーぐらいしとらんの?」
煽ってみたら全員が顔を赤くする。
想像してしまったらしい。
初々しいやっちゃ。なんや凛華も可愛いところもあるんやな。
出会った頃のツンツンが懐かしいわ。
すっかり六濃君に骨抜きにされてしもうて。
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