第49話 学園での戦闘訓練
「と、言うわけで。みんなには大量に命の雫を納品してもらいたいんだ」
俺はSNSで連絡をするなりダンジョンで集まった。
日課のワーカー業の合間に、こうやって学園のクラスメイトにレクチャーしにくるのだ。
「それが兄様の為になるのでしたら、私に不満はありません」
「これ、私たちばかり得して他のクラス生と差がつく一方よ?」
「うちはもっと強敵と戦いたいよー」
凛華、寧々、久遠の順で返答を頂く。
「俺たちも、TPになるならこれ以上の事はない。母親が病気でさ、すげえ助かるよ」
「数が増えてけば需要を破るから安く放っていくからね。今は希少だから高くなってるだけだ。六濃君はこれをどの価格まで落とすつもり?」
順に秋庭君、木下君が答える。
木下君に至ってはこっちの企みに気がついてる感じだ。
当時の目の曇ってた彼らはもう居ない。
立派に育ったなぁ。
「私達は六濃君のお手伝いをするだけだから!」
「何でも言ってよ!」
岡本さんと紅林さんも協力してくれるそうだ。
これだけ居たら大丈夫だろう。
「瓶はいくら用意したら良いかしら?」
「あ、それはもう大丈夫になったから。でももらえるならいくつか欲しいな」
「そう言うと思って100個用意したわ。久遠さん、出してくれる?」
「オッケーよー」
既に友達感覚でアイテムの貸し借りをしている様だ。
俺の想像以上に仲が良い事で、取り敢えずの憂いは晴れたかな?
「ムックン、魔封じの瓶よ。ラッピング、うちも手伝ったんよー」
受け取った瓶には可愛いラッピングがされていた。
一度ジャケットを買ってあげてから、随分とピンクが好きになったようだ。
「あ、ありがとう。ははは、嬉しいなー」
ちょっと棒読みになってしまったが、機嫌は取れたかな?
秋庭君が肩を竦め、木下君が首を横に振った。
どうやら男子陣は誤魔化せなかったようだ。
久遠は喜んでるから良いんだよ!
◇
場所は五階層。
収穫はここで行う。ついでに元級友の成長を見る為組み手もする。
「俺の方もちょっと成長してさ。今ならDランクモンスターまでは倒さなくても使役できるようになったんだ。こんなふうにさ」
魔封じの瓶を地面に放るとそこからマンドラゴラが10体現れる。
ひとつの瓶から10体も現れて全員が驚く。
「ひとつの瓶に一体まで、そう思っていましたが……」
「一般的にはな。これは多分俺が使役できる前提の効果。真似しても仕方ないぞ?」
「まーた遠い場所に行っちゃってるわ」
「追いかけてる僕たちの身にもなってよ」
「よそう、木下君。彼は昔っから凄いやつだよ。正直俺がこの力を手に入れたとしても、まるで扱える気がしない」
「それもそうか。六濃君だからこその使用法。そう考えたら腑に落ちるね」
「ま、見せたいのはこれからが真骨頂だ。来い、ユグドラシル」
金色に輝く瓶を地面に放り投げると、そこから一気に大樹が生えた。
「おっきい樹さー!」
「これが、モンスター?」
「悪意は感じませんね」
「危機察知にも反応なし!」
「おおよそ正解だ。こいつはドライアドの正統進化系にして最高峰のサポーター。効果は見てもらえればわかるだろ」
俺は場にユグドラシルとマンドラゴラ何10匹いる状態からマンドラゴラを一匹テイム。その場で叫ばせて9匹始末する。その代わり即死するが、同時に10匹使役可能になる。
「見て、死んだはずのマンドラゴラが!」
「復活したの!?」
「俺のマジックはここからだ」
マンドラゴラを強化してドライアドに!
そして強化する際に消耗されたマンドラゴラが即座に復活した。
「あっさりと、コストも使わずに……お見事です」
「これなら確かに量産は可能ね」
「ムックン凄いよー」
「倒すのは俺たちに任せてくれ」
「いや、それじゃあ時間の無駄だ。量産はこちらでやるから、秋庭君たちには程よい練習台を用意する。久遠も遊び足りないだろ?」
「うちでも満足できる相手かー?」
「ユグドラシルの効果は見たろ? 傷つけても立ち上がるモンスターが相手だ。その上で俺が使役する。そう易々と勝てると思うな?」
「コーチとしても頼りになるとか、成長しすぎなのよ。彼のどこが無能なのか、元クラスメイトに小一時間問い詰めたいわ」
「まぁ才能でしか見ない校風が災いしたよな」
「僕達も六濃君と出会ってなかったらそうなってたかと思うと……」
「その前に自主退学してたような……?」
「確かにね。私達揃って無能だった訳だし」
「俺から言わせて貰えば、才能なんかで比較する方が時間の無駄だけどな」
「それを言えるのは六濃君くらいよ。世間一般の常識では、ゴブリンでさえ才能がないと立ち向かうべきではないとされてるのよ?」
「そんな言葉間に受けて、自分の将来を諦め切れるの? 俺は無理だ」
「彼の強さの根底にはその真の強さと諦めの悪さがあるのは確定したよね」
「はいはい、どうせ俺は負けず嫌いですよ」
そんなこんなでドライアドが歩いてマンドラゴラにビビって死ぬ装置が完成する。
ドライアドもマンドラゴラも即座に復活するので俺は使役モンスターに命令しながら拾うだけで良い。
このパーティーはいつ見てもチームワークができてて良いな。
あちらを攻めればこちらが立たずもない。
プロになってもきっと上に行けるだろう。
「よーし、今日はこれくらいで切り上げるか。撤収、撤収」
「お疲れ様〜」
「その瓶の用途が漸く分かったよ。Dランクモンスターなら何でも即座に支配下に置けるって普通にやばいね」
「AランクもBランクも倒したことあったけど、今日ほどワクワクした日はないよー! やっぱりムックンは凄いよー」
「絶対に六濃君に持たせちゃいけない才能な気がするわ」
「なお、きっと彼なら何でも巧みに扱うわ」
「それもそうね」
関谷さんが紅林さんを嗜めていた。
そこ、諦めないでもっと自分の才能を信じてくれよ。
「はい、じゃあ一人100個持って帰ってくれ」
「桁www」
「これ、一個3000万なのよね?」
「7人だと700個?」
「一人頭30億とか、俺たちいろんな奴に喧嘩売られそう」
「まぁ、そこは俺と修行してるから乗り越えて貰うしかないよ」
「そのための修行なのか、納得」
「俺は更に200個蓄えてから他の場所で納品するから俺の総額を抜けると思わないことだな!」
「誰も六濃君にマネーレースで張り合おうとなんて持ってないわよ。それよりも普通にTP変換しても大丈夫になったの?」
寧々が聞いて欲しいことを聞いてくれる。
流石、俺の理解者なだけある。
話が早くて助かるな。
「勝也さんのブラックカードを借りた。稼げば稼ぐほど勝也さんが目立つ仕組みだ。今の俺はワーカーだからな。仕事で稼げない代わりにこっそり稼ぐ事を許可してもらったんだ。勝也さんには頭があがんないよ」
「兄様……自ら茨の道を……」
「勝也、墓穴掘ってるよー」
実の妹と久遠から酷い言われようだ。
まぁ、心中お察しするがね。
「俺としてはTPで解決できるならそうすべきだと思ってる。勝也さんの目的のためにはお金が必要だ。稼いでおいて損はないと思うんだよ。明海の生活費だって稼がなくちゃいけないしな」
「お兄様に思われて明海さんは幸せ者ですね」
「本人がそう思ってるかどうかは知らないが、兄貴としては欲しがってるもんを用意してやりたいよ。妹はずっと寝たきりだったからさ。同年代と繋がり合えるんだったらその場を用意してやりたい」
「ムックン……明海の事はうちに任せるよー」
久遠が自らの胸を打つ。
それを寧々や凛華が生暖かい笑顔で見守っている。
これだけ妹の味方がいてくれるのなら、探索者の道も真剣に検討しなくてはな。
全く知らない場所で一般校も嫌かもしれないし。
「みんなのそばでなら妹も幸せかもな。もし本人がその道に進みたかった時は改めてよろしく頼むよ」
「学園の平和は私たちに任せてください」
「六濃君はそっちのお仕事に集中してね」
「でも、たまには遊びに来てくれると嬉しいわ」
なんだかんだと学園にも俺の居場所があることが嬉しい。
自主退学したと言うのに、こうやって集まって協力してくれるのはあの時見捨てなくてよかったなって、今になって思う事だ。
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