第48話 身の振り方
助け出した子供達を全員見送った後、勝也さんが俺に問う。
「よかったのか? 助けた功績を代わりに俺がもらっちまって?」
「何言ってるんですか。事実でしょ? それに俺はあの日、ダンジョンに入ってないんです。居た方が問題でしょう?」
「ああ、その通りだ。しかしどんな魔法を使ったら実験の失敗作だった子達を完治させる事ができるんだ? 俺は実物を見たことあるが、あれは手の施し用が無いだろう? 親父たちがそれを見越して始末するんだぞ? 恭弥も数日悪い夢を見そうだと報告してきたよ」
何度も見てきたであろう失敗作扱いの子供たち。
このギルドでは事前に防ぐか、見つけ次第保護する形で親元に送り返しているそうだ。
しかし今回のように間に合ったのは初めての事。
「話してもいいですが、あまりこの件は表沙汰にしたくないですね」
「例の才能絡みか?」
「はい。もし新たに発見したそれを悪用すると……」
「いや、待て。それ以上言うな。お前の事だ、聞いたら巻き込むつもりだろう?」
「もう既に巻き込んでいますし、今更ですよ。勝也さんはBランクモンスターに詳しいですか?」
「ある程度はな。だが知らないことの方が多いぞ? 恭弥から聞いているが、お前ほどモンスターの生態に詳しい奴もそうそう居まい。それで、そのBランクモンスターがどうした?」
「ドライアドをさらに強化した先に現れたのがユグドラシル。これが今の俺の切り札です」
「伝説上の世界樹か。しかしそれはただでっかい樹というだけでモンスターなのか? 意志を持ち、人を襲うのか?」
「いえ。ただそこに埋まってるだけです。しかし効果がとびっきりに破格。これは俺の場合ですが、テイムモンスターの中にそいつを一匹入れてるだけで他のモンスターが傷を負っても回復し続けます」
勝也さんが顔を顰める。
凄いと思う以上にその性質を厄介だと見極めたのだ。
野良で絶対に出会いたくない。そう思ったのだろう。
「且つ、」
「まだ有るのかよ」
「使役中のモンスターが死んでも蘇生させます。もちろん殺せばドロップ品は現れます」
「分かった、もういい。もう聞きたくない。お前が悪用するなと言った理由がもう分かった。もう話すな」
勝也さんがオーバーリアクションで会話を切った。
だろうな。もしこれが手元にあるならモンスタードロップ品は大量に生産し放題。誰でも悪用できるのだ。
しかしその出現方法はダンジョンテイマー以外には無理。
モンスターテイマーなら実在するモンスターしかテイムできないからな。これがダンジョンテイマーとの明確な差だ。
「それで、お前はそいつを使ってどんな悪事を働くつもりだ?」
「悪事とは人聞きの悪い」
「事実だろうが。普通の奴なら羨ましがるだけで済むが、お前はさらにもう一段階先を考えている。そうだろう?」
「そうですね。取り敢えずこれで散々稼いだ後、学園から大量の命の雫を納品させます」
「妹たちに花を持たせる気か?」
「それもありますが、俺の思惑はその先にあります」
勝也さんは顎に手を置きながら思考する。
「いや、親父の視線を学園側に固定させるのか。今頃親父達は突如増えた命の雫の出先を見つけたがっている。そして量が増えれば、供給が満たされれ、需要も減ると?」
やはり、見抜いたか。そうでなくてはこれから先この人の下で働きにくい。
上が間抜けだと苦労するのは下だからな。
就いた先がこの人の元で本当に良かった。
この人なら俺の狙いも理解してもらえる。
そんな予感もある。
「値段が下がれば借金苦に悩まされる魔石病患者は大助かりですよね? 単価1000円まで落とせば、治療費も5000円とお安くなりますし」
「だがそれを相手が黙って見過ごすと思うか?」
「そのために学園に戦力を集中させています。もちろん俺も陰ながら手助けしますし」
「親父の視線を釘つけにする事によって今現在注目されてる俺たちの活動もしやすくなる?」
「相手がどこにいるのか見つけにくいのなら、あえて居場所を知らせて意識させれば良いと思いませんか?」
「ああ、その通りだ。凛華が成果を出す分には親父も文句を言わないだろう。問題は出した成果の方にあると気がついた時にはもう遅い?」
「そこまでは望んでませんよ。彼女には俺の妹を預けてますから。探索者になるにせよ、ならないにせよ、彼女が決める時にお金がなくて養えないと言い出されると困るのは俺です」
勝也さんが肩を竦める。
「まぁ、妹が心配だって気持ちはわかる。俺も兄ちゃんだからな。妹は他人に興味を持たないやつだが見ていて危なっかしくてな。何かと世話を焼きたいもんだ」
非常によくわかる。人に接し慣れてないからか、非常にポンコツになる時がある。寧々がフォローしてくれているが、単独で行動させられない気持ちはよく分かった。
ウチの妹も若干似通っている所があるからな。
「うちの妹も俺の前では非常にしっかり者ですが、ずっと後ろにくっついてきたので俺ばかり心配性になってしまって」
「どこの家庭も同じだな。それにしても、駆けつけた時にサンタルックだからびっくりしたぞ? あれは一体何だったんだ?」
「相手をサンタクロースだと思わせるのには成功しましたよ?」
「本当かぁ? 獅童朱音がそこまで馬鹿だとは思わないが」
「居ましたねぇ、あのおっかないお姉さんも。でももう一人、とびっきり手強い方もいました」
「もう一人?」
「俺のゾンビアタックに対抗してか、影から分身を作り出していたんです。手強かったなぁ、Bランクモンスターがゴミのように死んでいくんですもん」
「……ドッペルゲンガー? そうか、母さんが来てたか。よく生きて帰ってこれたな」
勝也さんのお母さん? にしては随分と若く見えた。
こんなに大きい子供がいるとは思えないお姉さんだったが、若造りしていたのだろうか?
「ユグドラシルのお陰でなんとか。なかったらきっと八つ裂きにされてましたね。Merry ’Christmasのフレーズに相当キレていたようですし」
「お前、そんなこと言ってたのかよ? 正体を隠す便宜上都合はよかったんだろうが……まぁユグドラシルの効果を聞いただけでジリ貧は確定か。母さんですら撤退を考えてもおかしくない。やっぱりお前とんでもない奴だったんだな。俺、母さんには一度も勝てた事ないんだぜ? もう俺より強いんじゃないか?」
「ダンジョン外では攻撃手段がないので、今まで通りの運用で結構ですよ? お陰でダンジョン内でやりたいこともできましたし」
「お前を安く使えるのは助かる反面、不安もまた大きいことを忘れてくれるなよ?」
「ははは、ご冗談を」
笑いながら会話を切ってマスタールームを後にした。
俺ほど扱いやすい人物もいないだろうに。
◇
「よう、ヒーロー。噂は聞いたぜ? 朱音のやつを追い払ったんだって? あいつは思想は強いが間抜けじゃない。一体どんなマジックを使ったんだ?」
マスタールームを出た先で恭弥さんに出会う。
「あれ? 二、三日寝込むって話じゃ?」
「ありゃモノの例えだよ、馬鹿」
「お元気そうでよかったです」
「ま、食事が喉を通らねぇってのは本当さ。それより、お前が残した功績のデカさがウチのギルドを押し上げてるぜ? 未だに親の七光りだの何だの言われてるがな」
「そんなつもりはなかったんですが、結果うまくいきました」
「うまく行き過ぎだ、馬鹿野郎。上位ギルドから注目されてるぜ? 勝也の親父さんからもな」
「グリードポッドでしたっけ?」
「ああ。最初期の探索者であり、実質業界でもトップのギルドだ。探索者協会はほぼ手中に収めてるし、ダンジョン協会すら握ってるって話だ」
「今後やりにくくなりますかね?」
「いや、このギルド立ち上げた時点で既に親父さんに喧嘩売っちまってるからな。今更だ。放っておいても問題ないとされていたのをようやく気にかけて貰えたってところかな?」
「じゃ、ようやく策が進められる段階ですか?」
「いや、こっちの準備が整う前に因縁をつけられた形だ。お前にも働いてもらうからな?」
恭弥さんはニコニコしながら俺の肩をポンと叩いた。
おっと、藪蛇。
俺の方も迷惑かけるから一蓮托生とも言えるが。先が思いやられるな。
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┃本日は19:10にも二話目が投稿されます。┃
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