第42話 クラブ活動(北谷久遠)

 今日はクラブ活動なる物を体験することになった。

 ダンジョンくらい好きに探索させて欲しい物だけど、寧々の頼みなので仕方なく活動内容に従う事にする。

 最初に行うことはスライムを能力を使わず倒すと言う物だった。


「え、そんなことする必要ある? 弱いモンスターなんて気にしなくてもいいのに」


「久遠さん、モンスターを弱いと決めつけるのはあなたの勝手ですが、このクラブ活動の主な議題は能力を使わずどこまで戦えるかを見つめ合う物ですよ?」


「ちなみに発案者は海斗よ」


 それだったら、意味がないってことはないかな?


「あいつ、俺たちに才能ない時からこれをレクチャーしてくれてたんだぜ?」


 そう語るのは同じクラスの秋庭という男子。

 Aクラス生だというのに奢ることなくFクラス生を尊ぶ。

 聞けば元Fクラス生だというのだから驚きだ。


 Fクラスの待遇を聞けば上位に上がってくるなんて至難の業のはずなのに、寧々ほどでは無いが海斗のやり方を信じて上に上がってきてる人達がこんなにも居る。

 うちだけが特別では無いのだと知ると少し寂しく思うが……


「うん、彼は自分の都合を他人に語りたがらない人だからね。でも無力な僕たちを“戦うだけ無駄”と諦めずに最後の一人まで才能覚醒に付き合ってくれたのも彼なんだ。彼と付き合った人は全員彼に恩義を感じてるよ。本人はそこまで思ってないだろうけど」


 木下という男子も、それに頷く紅林、岡本と名乗る女子達もみんなムックンに助けられたから今があると言っている。

 ある意味では今日集まったグループはムックンと関わりのある者達。

 うちの様な余所者にも親しいのはそういう事だ。

 除け者にせず、最後まで付き合う。

 思えばそんな風に扱ってもらったことなど一度もないから忘れてしまっていた。


「分かったよ。それだったら従うよ」


「それに二学年に上がる頃には新しい生徒も来ます」


「海斗の妹の明海さんよ。久遠も仲良くしてあげてね?」


 確か同じ病気で苦しんだ仲だとか。

 それだったら気持ちもわかる。

 ムックンと結ばれるためにも外堀は固めておく必要はあるからね!

 

「勿論よ!」


 ◇


 モンスターの討伐方法は奇抜極まりないが、それをFランクモンスターからE、Dとこなしていくあたりでこの集団がとんでもないことをしていると気づく。


 ここまでの道中で彼らは回数消費型の戦技を一切使わず、連携を取り合ってドロップ品を集めていた。


「これは海斗さんからの情報なのですが、ドロップ品にはポイントになる他にもう一つ隠れた効果がある事をみなさんはご存知ですか?」


 クラブ活動の部長を務める凛華がいつもと違って優しい声で一団に呼びかける。

 そんな顔をすることも出来るんだ?

 見やれば全員が頷くなか、うちだけが何も知らない。

 一人だけ知らないのが居た堪れな苦なるくらいに恥ずかしいが、わからないので教えてもらう。

 来年度から来る後輩に教えるためにも知っておくのに無駄なんてことはないはずだ。

 うちは思いっきり挙手をした。


 凛華はにこりと笑ってアイテムの詳細を教えてくれた。

 スライムのドロップ品は小腹を満たすのに活用可能。

 種類によって味が変わるため、水筒の中に保管すれば溶け出して味が移せるとも言っていた。

 そんな知識、学園で習わないよ。

 ムックンは独学でそこに辿り着いたというのだから恐ろしい。


 続くゴブリンのドロップ品の棍棒、ボロボロの布は他のモンスターに擦るつけるためのアイテム。

 大量に集める必要はないが、縄張り争いをしている上下関係を知り、大勢相手取るときに活躍するそうだ。


 知らなかった。いつも一対多になる時は暴走モードで片付けちゃってたから。

 ここで活動する以上は周りに迷惑はかけられないもんね。

 来年から来る妹ちゃんのためにも、ドロップ品の把握はしておきたい。そこでメモしておきたいのに筆記用具を忘れてきてしまったことを思い出す。

 うちは今まで学園だというのにここまで勉強することがなかったから、うっかり失念していた。

 一人で困り果てていると、寧々が待ってましたとばかりに予備のノートとシャーペン、消しゴムを貸してくれた。

 どれも新品だ。


「久遠、メモを忘れたなら貸してあげるわ」


「いいの?」


「ええ、ここに居るのはライバルでありながら仲間。今までのAクラス生と同じ様に蹴落としてまで上に登りたいだなんて言わないわ。手を取り合うことも大切なの。そんな意地悪しないわよ」


「ありがとう、寧々」


 やっぱりこの子、いい子だ。

 人は見た目じゃわからない。

 第一印象はツンケンしてておっかない感じだったけど、凛華と比べたら冷静沈着で周囲を見てる。

 ここならうちを誰も怖がらない。化け物だなんて石を投げつけない。

 普通の女の子として扱ってもらえる。

 それが、ただただ嬉しい。


「いいのよ、久遠。みんなも知らないからと馬鹿にせず、お互いに知識を共有する場としてこのクラブ活動に参加しているの。今はね、クラスが一丸となって臨む場面よ。足を引っ張り合うことしか考えられない様になったら終わりだわ。私達は海斗からそれを教わった同志達」


「クラブ活動に誘ってもらって良かったよ。うち、ここでなら頑張れる気がする!」


「そう言って貰えると誘った甲斐がありました。兄様から能力のことで困っている様だったら手を差し伸べて欲しいと言われておりましたから」


 ムックンのことでムキになっていた彼女はここに居ない。

 今の凛華となら仲良くなれそうな気がした。

 うちも、ムックンを引き合いに出されるとムキになるところがある。

 彼女も同じくらいに惹かれている?

 強力なライバルだ。

 勝也の妹というだけでなく、同じ男を好き合う物同士。

 宿敵と言っていいかもしれない。


「今のところ、私達が技能で対処できるのは三階層まで」


「それでも十分すごいよ。うちならここまで来るのに何回か能力使ってきてるもん。二階層を越えるのにボスは倒す必要あるからそこで数回。三階層からモンスターが多くなるからそこでも数回。ボスにも当然使うよ!」


 なのに四階層に至るまで一度も能力を使わず、なんなら回復アイテムまで補充してみせた。

 スライムコアを浸した水筒は空腹減少効果があり、月光花の蜜を煮詰めたシロップには武技/魔法回復効果がある。

 凛華達はこれをミルク煎餅に挟んで食べることで消費。

 口の中が乾いたら水筒に入れたスポーツドリンクで流し込むと空腹と武技回数を一度に回復できる。

 これがこのクラブの日常。

 目から鱗が落ちる思いだよ。


 四階層でも主旨は変わらず、極力大技を使わず対処する形で進める。

 なんなら切り札を一切使わず攻略する様になれば一人前とされていた。

 能力と言っても効果はピンキリ。

 うちの能力は範囲殲滅型で、使いすぎると意識を失うデメリットがある。

 暴走状態だ。

 でも、ここなら仲間がいるから能力をあまり使わずとも少ない労力で対処できた。

 ダンジョンに行って帰ってくるまでに意識を失わず、寿命を損なわずに来た事なんて初めて。

 ようやく、ようやくうちは日常へと帰ってこれたことを痛感する。

 もう自分一人だけで我慢しなくていいのだ。


「お疲れ様、久遠。行って帰ってきたら終わりじゃないわよ? 今日行った動作の反省点を洗い出して無駄を無くすことを心がけましょう?」


 寧々に話しかけられて、答える。


「今日のうち、どうだった?」


「まだ初参加だから動きがモタついていたけど、やはり戦闘時は頼りになるわね。でも何でもかんでも構いすぎよ。もうあなた一人だけではないのだから、チームプレイを意識しましょう? そのためにこの反省会があるの。理解しないうちから教えたって覚えないのは既に経験済みだからね?」


 寧々が凛華を見据えて苦笑した。

 どうやらうちだけではなく、無駄と決めつけて覚える気がなかったのはライバルも同じ様だった。

 Aクラス生の慢心。

 いつの間にか自分にもそんなものが養われていたのかと思うとゾッとするが、早い段階で気がつけてよかった。

 そんな一日だった。

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