強欲の章-Ⅲ【暗躍】
第41話 久遠の編入
総合_日間10位に入れました!
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研修を終えると、三学期に合わせて関東支部に編入する準備をすべく、アイテム類を揃えるのに久遠と一緒に街を練り歩くことになった。
「ムックン! こっちこっち!」
ただの買い物なのにやたらとおめかししてきた久遠に、これはデートだったのか? とコンビニに行くくらいの気軽さでやってきた俺は周囲から浮きまくっていた。
季節は12月を周り、季節外れのツリーと電飾がそこかしこで輝いている。街頭では冬物セールやケーキの予約で目まぐるしい。
そんな中で連れて行かれたのは女性服のショップ。
下着などもあって目のやり場に困るアレだ。
妹はませてるのでそう言うのはネットで揃えてしまいがち。
こうやって体に合わせて似合うかどうかを尋ね合うのは恋人同士でやるイベントではないのだろうか?
そんな風に思う俺に、服を押し付けてくる久遠。
どうやら俺に着替えて欲しい様だ。
流石にシャツにジーンズだけでは不釣り合いだとは思う。
でも俺はただの付き添い、荷物持ちくらいのポジションなのでめかしこむ必要なんてないんだが?
「ムックン、似合ってるよー」
「そりゃどうも」
だが、褒められたら嬉しい。
久遠は背格好は妹と似た感じだが、妹ほど不躾ではなく。
どことなく距離感の近い親戚の子。
見目の良い子の褒められたら男はみんな嬉しいと思う。
「うちにはこれとこれ、どっちが似合うと思う?」
二種のジャケットを、自分の体に合わせる久遠。
ううむ、と顎に手を添える。
妹がそれを聞いてくる場合、既に色を決めている場合が多い。
俺はひらめきに従って右側のピンク色を選んだ。
真っ黒とピンクの二択である。
褐色が目立たなくなる黒は論外だろう。
対してピンクは可愛い色合いだが、幼い出立ちの彼女に似合ってると思う。
「むむ、意外と可愛い路線が好みなの?」
ちょっと困った様な顔色。
「久遠ならどっちでも似合うと思うけど、どっちかと言ったら俺はそっちかなって思っただけだよ」
「むむむ、それ。一番困る奴よー」
個人的にはおとなしめの色合いが好みの様だ。
恥ずかしげに俯く久遠。
勝也さんから聞かされた話だが、彼女はこうやってファッションに悩む時間もなかったらしい。
着る物にこだわらない。俺も似た様な経験がある。
貧乏時代が長いと横着するからな。
「色々着回してみたらいいんじゃないか? 今回こっちのは俺がプレゼントするよ」
「えっと? プレゼント? 貰ったの初めてよ。大切にする……」
TPで支払い、荷物に入れると、俯きながらもはにかんだ。
満更でもない様子。
「ムックン、ありがとうよー」
買ってやったジャケットを両手で抱え込んで大切そうにしている。
「今日は例の方言は使わないのか?」
「あんまり意地悪言わないで欲しいよ」
それはある意味で人前で言いにくい物かもしれない。
人の多い場所、他人と違うことをして目立つのは誰だって避ける事。俺も二つの顔を使い分けて対処するのに彼女だけ本心を曝け出せと言うのも酷か。
恋人ではないが、彼女にとってはこう言う思い出すらない過去。
ひとときの恋人役くらい、いくらでも買ってやるさ。
その後は色々今までお金の関係で体験出来ないことや、やれないことを謳歌した。
しかし散々時間が経過してから気がつく。
あ、編入準備なんもしてねーやって。
◇◆◇◆
「それじゃあ久遠、向こうでのマナーはウチの妹に色々聞いてくれ。寮舎での暮らしに不安は?」
「ないよー。沖縄にもあったし」
「なら、妹共々頼む。海斗も、学園には秘密裏に潜ってくれるそうだ」
「あはは、ムックンは目立つ成績上げてるから仕方ないよー。その分、うちが目立ちまくるさー」
「頼りにしてるぜ、超新星。だが、上ばかり見上げてないで足元にも気をつけろ? 関東は沖縄と違って人外が多いらしい」
勝也が言うのは妹の凛華、それとムックンの妹の明海ちゃん?
他にも心当たりがある様に言うけどそれは誰だろうか?
そう言えばムックンが懇意にしていた子にもう一人ノーマルの子が居たけど、その子も?
わからないことばかり。
でも自由を得た私の出来ることは何に変えても貫くつもりよ。
◇
「そう言うわけで本日付で沖縄校から編入してきた北谷久遠さんだ。TPは学園毎に管轄が違うので一からとなるが、実力はお墨付きだ。なんと二学期で一億稼いでいるのだからね。Aクラスどころか特別にSクラスを作るべきかと話すが出ているくらいだ。君たちも仲良くして欲しい」
いつになく長い教員のおべっか、ヨイショに呆れることなくうちは挨拶を交わす。
席順はAクラスでは一番後ろだけど、周りのみんなは聞きなれない訛りに屈することなく色々聞いてくれた。
特にどこのお店のファッションが好みかと聞かれて、この間ムックンと一緒に行ったお店を話題に出すと、斜め右前側から一際大きく“ガタン”と聞こえた。
凛華が恐ろしい形相でこちらを向いていた。
野生の嗅覚か、ムックンについてマウントを取ったら食いついてきた。
「久遠さん、兄様のギルドで海斗君と何をしてきたのかしら〜?」
「それを、言う必要あるのー?」
「是・非、聞かせてほしいわね?」
こいつは敵だ。直感でそう悟った。
勝也には恩があるから仲良くするつもりではいる。
でもこうも敵対的だと、仲良くしようにもできない。
そんな私たちの頭部に冊子を一つづつ落としたのは、
「辞めなさい、女々しい真似は。あなたはもっと学年の首席である自覚を持ちなさいな」
「だって〜〜」
「だってじゃありません!」
あの勝也の妹をこうも言い負かす存在がいる。
成績は上から二番目、確か……
佐咲寧々。
一般クラスからAに上がった努力の人。
「寧々、もういいよ」
「あなたが言うのならこの辺でやめてあげます。この子はつけあがらせると際限ないから気をつけなさい?」
「ちょ、寧々さん!? 私そこまで聞き分けのない子供じゃありませんよ!」
この子となら、仲良くなれそう。
上から来ないし、物分かりもいい。
「ごめんね、この子海斗の話題出すと途端にポンコツになるから」
普段は違うみたいな言い方だけど、信じがたい。
「本当なのー?」
「ほんと、ほんと」
本人は寧々の言い分に不服な様でプイッと他所を向いていた。
プライドばかり高くて、沖縄のAクラス生と同じ。
勝也の妹でも、これは流石にないかな?
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