第36話 水面下の攻防(御堂凛華)
私は父の飼い犬が校門から出ていくのを確認し、すぐさまに兄様に連絡を入れます。
「ええ、はい兄様。父の飼い犬が何故か学園に聞き込みに」
『裏を取るような仕草はしていなかったか?』
「いえ、ただ六濃君の親戚だと
『じゃあ、あのゴミ兄弟が例の親戚か。そりゃ最悪だな。恭弥から聞いてなんで近辺にいるのかその点だけが不明だったが、そうか海斗の親戚か。なら想像の斜め上の被害を被ったと見ていい。あいつの『エレメンタルブレイカー』はモンスター・人間問わず心を砕くのに最適化した嫌がらせの権化だ。海斗はそんな奴に追い込まれてたのか……』
「一応、知らぬ存ぜぬで通しました。ここを私の管轄・実験場とし、成果を渡したらあっさり引き上げました」
『海斗に借りたデタラメな貸しを信じたか?』
「あの方達は私達の計上したTPだけが全てのようですわ。ここにきて六濃君の貸しが生きてくるとは思いませんでしたが」
『凛華にはいつも苦労をかけるな。ではあいつの管轄の被験体とは?』
「
もしそうだとしたら、もう私と兄様の計画が筒抜けということに?
末恐ろしい人。
あの人を無能と蔑んで見下して居たかつての級友も今はFクラスで落ちぶれていると聞きます。
私は止めたのですが、傲慢になると人はどこまでも愚かになるのでしょうね。
『その件だが、海斗はどこまでこの計画に気が付いていると思う? 北谷久遠の件と言い、明らかに手回しが良すぎる。あの子、案の定吹っ掛けられてたぞ。その上で借用書を返さない交渉に及んでたからふんじばって成敗したくらいだ』
「まぁ……一体いくら上乗せされたので?」
『30億から50億にされて、さらにそれらは利子だから元金は無傷、元金に関してはTPでの支払いではなく“命の雫”本品で支払えときた』
「全てが六濃君の読み通りでしたね」
『ああ、末恐ろしい奴だよ。今まで海斗についてあまり深く考えて来なかったが、一体どんな人生を送ったらそこまで疑い深くなるんだ? 用意させたものが全て役に立つ、どころか有り余ってお釣りが出たぞ?』
「六濃君は出会った当初から不思議な方でしたよ。学年首席の私に対してなんて言ったと思います?」
『そういや馴れ初めは聞いてなかったな』
「ええ、特に気分の良いお話ではありませんでしたから」
『なに、お前にそんな失礼な態度を取ったのか!?』
兄様は私の事となるとすぐムキになります。
ムキになりすぎると言いますか、そこだけは少し残念ですね。
「その時、私の他にも関西の首席が同席してたのですけど」
『関西の? なんでまた』
「どうやら恭弥さんが熱心に遊んでるゲーム関係のようです。そのお方のお姉さんがランカーで、六濃君が横から入ってしまったがためにランクから落ちてしまい、噂を信じて学園まで参られたとの事ですわ」
『それでお前がとばっちりを喰らった?』
「ええ」
あの時は本当に苦労しました。
海斗君に対してはその時まで名前を知ることすら出来ていません。
なので憎たらしいFクラス生と言う認識。
Fクラス生だからなにをしてもいいまでは言いませんが、クラスの雰囲気に少し当てられていたのかも知れませんね。
『で、あいつはなんて言ったんだ?』
「君たちのお遊びに付き合っている暇はない、と」
『お遊び、ときたか。学年首席のお前に向かってか? そりゃ腹も立つな』
「実際に私も事情を知らなかったわけですから、お遊びと言われても仕方ありません。よもや単独で、あのクラスに在籍しながら、本気で1億稼いでいるなんて知りもしませんでした」
『実際には10億稼いだ訳だからな。中抜きどころか搾りかすのTPレートで5000万稼いだ奴なんて学園始まって以来じゃねぇのか? その上で自分以外の全員を上位クラスに押し上げてる。退学騒動後、学園内は相当荒れたんじゃねぇのか?』
「教頭先生は頭部がまた寂しくなられておいででしたわ。理事長はその責任を取らせるべく、決闘を仕掛けたAクラス生と参加した生徒に借金を負わせ、Fクラスに降格処分としました。それでも六濃君は自主退学したので戻る理由も何もありませんが」
『海斗以上に稼ぐ奴は今の学園にいないだろうしなぁ』
「あら兄様、久遠さんをお忘れですよ?」
沖縄の北谷久遠さん。単独で一億稼いだ超新星。
私のライバルに相応しい、どころか天上の住人と言って差し支えない。ダンジョンチルドレンと言ってもここまで性能差があるのも面白い点ですね。
ただしあまり無理をさせすぎてもいけないでしょう。
『あいつは自主退学させたぞ。うちで預かってる。借金の返済が済んで今は普通の暮らしに慣れてもらってる頃だ』
「あら、ライバルが減ってしまいましたわ」
と言うよりお兄様?
ギルドで預かっていると言うことは海斗君と一つ屋根の下ということになりませんか?
あの方は海斗君に並々ならぬ執着を抱いております。
私の抱く憧れ以上に尊い何か。
それに距離感も異様に近いし、あだ名までつけています。
あれ? これ意外と私ピンチじゃありませんか?
今は明海さんを預かってる都合上、寧々さんに一歩リードしています。
兄様と結託して海斗君の居場所も作ってあげました。
けどここにきて久遠さんがいつでもお泊まりできる関係に?
不潔ですわー!
『その件だが、しばらくダンジョンに入れさせない方がいいとして学園に通わせることにした。三学期中には無理だが、来年度、再度一学年から始めさせるつもりだ』
でもそれって、4ヶ月はフリーにさせて置くって事ですよね?
ピンチには変わりありません。
もしその間に既成事実を作られてしまったら?
ああ、変な妄想が後から後から溢れてきます!
「兄様、なんとか三学期中に編入させられませんか?」
『何やら鼻息が荒いがどうした?』
「なんでもありませんわ!」
『お、おう』
「それに同じダンジョンチルドレンですもの。同じ境遇に陥ったもの同士、話が弾むと思いますの」
『そうだな、見知らぬ土地で一人。自由に過ごせと言われても落ち着かないか。海斗もいるが、今はワーカーの研修に行ってるし一人の時間も多い。よし分かった、なんとか三学期中には編入できるように掛け合ってやろう。久遠もその方が喜ぶだろうしな』
あれ? 今ワーカー研修に行っていると言いましたか?
なんだ、私の早とちりでしたのね。
そうですよ、あの海斗君がそんな馬鹿な真似するわけがありませんね。私ったら、最近妄想力ばかり逞しくなっていけませんわね。
「そうでしたの。六濃君は頑張っておいでですか?」
『今は佐咲の親父さんの率いるギルド『疾風団』に預けてる。あそこの家庭は男児に恵まれずに女ばかり三人もいる家庭でな。実の息子のように和気藹々としてるようだ』
バンッ!
私は強く壁を叩いた。若干力を込めすぎて鉄筋コンクリートが歪んでいる。
それって寧々さんのご実家ではなくて?
何勝手に親密な関係を築いてらっしゃるんですの!?
実は知らないのは私だけで寧々さんたら裏でほくそ笑んでいらしたのかしら。
いけませんわ、だったらまだ久遠さんがフリーの方が……
いいえ、それでもダメですわ!
『ど、どうした凛華? 転んだか?』
「なんでもありませんわ。では久遠さんの件、なるべく早めにお願い致しますわ。こちらも計画を進めておきますので」
『お、おう』
海斗君の周りをうろつくチンピラの事よりも先に片付ける案件が出てきましたわ!
真の敵は身内にいる!
私は兄様の返事も聞かずに電話を切って教室へと駆け出した。
寧々さん、今日こそ引導をつけて差し上げますわよ!
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