第35話 ギルドの信念(秋津恭弥)
ゲームセンターで時間を潰してからギルドに帰還すると、丁度相棒の勝也が空港から帰ってくるところだった。
お姫様の奪還は無事成功したらしい。
今回のMVPは海斗とは言え、今まで搾取されてた側が、お金を手に入れたからとすぐに立場を変えられるわけがない。
念の為勝也について行って貰ったが、状況から察するに大活躍したようだ。
今はあれこれ表立って動けないが、ダンジョンチルドレンの奪還はギルド創設からの取り決め。
自力で解決した海斗みたいな例外中の例外はさておき、魔石病患者は日本中に居る。
そのバッグには勝也の親父さんが暗躍している。
親父さんの才能は『傀儡師』。
ダンジョン時代を生き抜いた才能持ちの探索者。
その二世の中でも特にダンジョンに適正の高い少女の額に現れる魔石。それは特別な才能を宿した人間に与えられる特徴。
12歳の生理現象と同時に発芽し、16歳を迎える頃に開花する。
その為探索者の専門学校である周王学園は16歳からの迎え入れをしていた。
この周王学園すら御堂グループが関与している。
その被験体の第一号が妹ちゃん。
それを事前に知った勝也は俺を誘ってギルドを設立。
卒業前に妹ちゃんを救い出す算段……だったのだが。
海斗の奴、こちらの都合がいいように引っ掻き回してくれるよな。
妹さんの自力奪還から、当分手は出せないと思っていた沖縄の首席の少女の奪還。何から何までうまくいきすぎている。
もしやこちらの計画が既に漏れている?
でなければここまで都合良くなんて行かないか。
では俺たちが次にどう動くかは……
「帰ったか、恭弥。ギルド付近に不審な輩は居たか?」
「海斗にこっぴどくやられたウロボロスの連中がそこらへんで見張ってたぜ? 全然見つからなくて苛立ちが募ってるようだ」
「海斗はどうした?」
「あいつは学園に篭もりきりさ。退学はしてるが、インストラクターとして引っ張りだこらしい。お前の妹ちゃんにも世話になったそうで頭が上がらないんだと」
「はは、凛華もようやく心を許せる学友が出来たか」
ずっと後ろにくっついて回ってたあの妹が兄貴から巣立って行ったか。兄貴としては感慨深いが、だがこいつも生粋のシスコン。
そう簡単に手放せるかな?
「海斗は不思議な奴だよな。ブラコン一直線のお嬢様もその気にさせちまうらしい」
「何!? 凛華に恋愛などまだ早い!」
言ってるそばからこれだよ。
妹は兄貴離れしたのに、兄貴は妹離れできないらしい。
「そうやって決めつけるのはキモいぞ? お兄様、最低! とか言われちゃうぜー?」
「凛華はそんなこと言わない!」
「わかんないぜー? 女は家族の前と恋人の前では違う顔をするもんだ」
「そんな、電話に出るたび兄様と慕ってくれたあの妹が……」
「そうなって欲しいと願っていたのは誰だったやら。そういやゲーセンで五味兄弟に会ったぜ?」
「ゴミ兄弟? あの学園の問題児が何を嗅ぎ回ってやがる」
「分からんが、碌なことじゃないだろ。あいつらは手癖が悪いから因縁つけられると大変だぜ? あちこち噛みついてきやがる」
「解ってる。久遠は学園に通わせる。ギルドで動かせば向こうに付け入る口実を与えるからな」
「それが確実か。しかし海斗はどうする? ギルドメンバーにした以上、動かさないわけにはいかないだろ」
「あいつは普通に動かせないからな。一応メンバーだが、ワーカー兼ポーターとしての運用を考えてる」
「単独で動かすより、サポートとして底上げさせるのか?」
「本人もそれを望んでるからな」
「分かった。では海斗の件はそれで。では保護したダンジョンチルドレンのメンタルケアについて──」
「それは専門家に任せるしかない。あとは海斗の妹も対象者だろ? うちで引き取るのか?」
「本人次第だな。才能があるのは確定だが、探索者にならず、ダンジョンに潜らなければ無害だ。それ以外の道がある」
それは難しいんじゃないか?
聞いた話によれば妹ちゃんと一緒に暮らしてるって聞く。
それって近場に探索者がいるって境遇だ。
助けて貰った恩義を働いて返そうとするのにこれ以上ない境遇だぜ?
◇
翌日、海斗の部屋に確認しにいくと、眠そうな顔で出てきた。
「おはようございます」
「随分とお疲れのようだな。緊急のクエストがあるが、受けるかどうかの確認をしにきた」
「内容だけ聞いてから受けるかどうか決めても?」
「良いだろう。お前をうちで活用する為にダンジョンワーカーの職業訓練所へと向かってもらう」
「職業訓練所?」
「才能のない落ちこぼれが集められたダンジョンに夢を見る人たちの集まりさ」
「要は学園からフィールドアウトした連中の溜まり場だと?」
「どう捉えて貰っても構わんが、お前のような立場でも諦めなかった奴が頑張ってる場所だ。良い勉強になるぞ」
「行きます」
話を振った時は面倒臭そうだったのに、今となっては自分の同類が集まる場所だと聞いて目の色を変えていた。
◇◆◇◆
恭弥さんから朝イチでクエストを受けた俺は、目的の場所にたどり着くと早速玄関のチャイムを押して声を上げる。
「すいませーん、ロンギヌスから来たものですがー?」
ビーッと何度か鳴らしてようやく人がきた。
「おう、待ってたぞ。入りな」
中から出てきたのは頭部が後退し始めたおじさん。
探索者のような出立ちをしてるが、面接場所が一般家屋とあって、間取りも普通に家そのものだ。
自宅兼事務所といった感じだ。
「そこにかけてくれ」
案内されたのはどう見てもリビングの装いだが、ガッチリとしたテーブルとソファがその雰囲気を面接室に押し上げている。
「名前は何だったかな?」
「六濃海斗。漢数字の六に、濃霧警報の濃で六濃。海に一斗缶の斗で海斗と呼んでもらえれば」
「海斗だな。呼び捨てでいいか?」
「大丈夫です」
「なら俺たちの仕事、ダンジョンワーカーの仕事についてどこまで知っている?」
「探索者について回る人足だと」
「それ以外に荷物持ち、料理の技術の提供など多岐に渡る。才能のない俺たちは何でもやる必要がある」
「その通りですね。我々にはまだ道はある」
「おう、お前さん。いい考えを持ってるな? うちに来るだけある」
「まずは自己紹介だな。俺は蓮司。ギルド『疾風団』のマスター、佐咲蓮司だ」
佐咲? 寧々の親戚かな?
世間は狭いな。
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