第32話 錬金術!

 久遠曰く、たった二年で借金が30倍になったらしい。

 一体どんな金利なら元金を抜いて利子がそこまで膨らむのか?

 まず間違いなく足元を見た金貸しだろう。

 なんせ額が額だ。耳を揃えて用意する時点で違法の金貸し。

 このままじゃ借金のカタに売られかねない。

 むしろそれが狙いなのだろうか?

 なにやら魔石病の背後に黒い影を感じるな。


 久遠も頑張ったが二学期かけて一億までしか貯められず、途方に暮れて居たそうだ。

 それでも一億貯めたのは凄い。


 なんせ学園のダンジョンにマンドラゴラは居ても、ドライアドは存在しないからな。

 俺はダンジョン中のモンスターを使役して回ったからわかる。

 ドライアドはマンドラゴラの強化でのみその姿を表した。

 それ以外では一切見かけてない。


 他にもいくつかレアなモンスターは出るが、それらは才能のレベルアップの足しにしかならない。

 要は経験値が美味しいモンスターだ。


 ドロップの美味しい敵は今の所確認してない。

 なんせ目標額が俺の30倍。

 学園滞在時間だけで支払える額ではない。

 一生をかけて食い物にされる額である。これは放っておけばどんどん膨らみかねんぞ?


 それでも一億貯められたのはひとえに自由になりたい執念からだろう。俺にはその気持ちが痛いほどわかった。

 俺の力はこうやって誰かを束縛から解き放つためにあるのかもしれない。


「凛華、念には念を入れてその倍持っていかせよう。この様子だとまた帰ったら増えてそうだ」


「私は瓶を買い付ければいいですか?」


「頼む」


「私は?」


「寧々はそうだな。投石でもしてレッドスライムを誘き寄せてくれ。テイムできると言っても生息地を探すのは手間だ」


「うちは?」


「何もない、と言いたいところだが、暇つぶしに踏破でもしてクリア報酬をもぎ取ってこい。少しは借金の足しになるはずだ。自分だけ何もせずなんて居ても立っても居られないだろ?」


「ふふ、ムックンはうちのことよくわかってる。そうだね、そうしよう! やるぞーーー!」


 そう言って駆け出して行ってしまった。

 あっという間に姿が消えてなくなる。

 俺の踏破数もそれなりだが、彼女も実際やばいくらいの数をクリアしてそうだ。俺ほどマジックアイテム頼りの戦闘はしてないようだが、全部交換してしまったのだろうか?

 単品で数千万行くのもあるが、割とピンキリだからなぁ。


「連れてきたわよ、あれ、久遠さんは?」


 そこでレッドスライムを釣ってきた寧々が話しかけてきた。

 もはや四階層も彼女の庭であるかのように手際がいい。

 俺の教えが役に立ったのなら嬉しい限りだ。


「ありがとう、寧々。彼女なら暇つぶしにダンジョンを踏破しに行ったぞ?」


「ねぇ、それ私たちの報酬が安くなる危機なんだけど?」


「そう言うと思って、多少手土産を持たせるつもりだ。彼女はマジックバッグ持ち。ここまで言えばわかるか?」


「また私達へ横流しさせるつもり?」


「人聞の悪いことを言うなよ。本来得るはずだったアイテムを事前に持っておくんだ。倒す相手が違うだけさ」


「そんなセリフを吐けるのは何度も踏破してる人だけよ!」


 実際、寧々もパーティ組んで踏破は達成している。

 案の定俺の時から比べて随分と弱くなっていたそうだ。

 現れるモンスターもCランクの強化型。

 グレード的にはⅨ相当だが、ランクの壁を考えるにBには届かず厄介なくらいで取るに足らない相手らしい。

 たった数日離れてる間に随分な成長を見せてるようで嬉しい限りだ。


 俺は魔封じの瓶にレッドスライムの詰め込み作業を行った。

 そして適当に飛空系のモンスターを仮契約して浮島に。

 上空でマンドラゴラの断末魔を響かせながら強化してドライアドを作り上げる。

 しかしドライアドにマンドラゴラの叫びには効果がない。


 ではどうやってトドメを刺すか。

 それは至極簡単だ。このモンスターは非常に臆病で、ちょっとした揺れにもびっくりしてショック死する。


 非常にか弱いモンスター。

 絶滅危惧種なのも頷けるのである。

 なお、野良のモンスターがショック死した場合、当然ドロップ品は落とさない。仕留めるのも高等技術がいるが、俺の場合は使役中の手駒なので……


 マンドラゴラゾーンに入って一斉に呼び出すマンドラゴラ達。

 大声で即死の叫びを一斉掃射。

 声の効果よりも、突然土の中から複数飛び出してきたことに驚いて昇天した。

 なおマンドラゴラ達も全滅だ。あいつらの攻撃は自爆特攻だからな。

 お陰でモンスターの沸きが早い早い。

 俺はドロップ品を拾い上げ、以下の手順を繰り返す。


 マンドラゴラを使役する。

 マンドラゴラの使役枠増やす。

 マンドラゴラ強化する→ドライアド誕生!

 ドライアドショック死させる。

 レアアイテムゲット!


 これが手間なのは、同種のモンスターは一枠でしか使役できない面。複数契約できれば良いが、流石にこれ以上儲けたら上位ギルドから目をつけられるから乱獲は裏技中の裏技だ。

 

 凛華から預かった瓶は20本。

 これを一本3000万に変換すればあっという間に6億。

 たったの数分でこの稼ぎ、我ながらボロい商売だと思う。


 問題は魔封じの瓶が結構良い値段するくらいか。

 レッドスライムを使う以外の討伐法は今のところ確立できてない。

 あいつら叫ぶと死ぬ脆い生命体だから、あらかじめ喉を焼く必要があるのだ。

 うまいこと成長してドライアドになっても大声でびっくりして死ぬ死にやすい種族。

 こうやって浮島の上で心穏やかに人の目につかない場所で成長させるのが一番なのかもな。

 


「海斗君〜!」


 地上で凛華が呼んでるので飛空系を再度仮契約して地上に。

 

「ありがとう、これを久遠に渡してやってくれ」


「早速こんなに量産して、学長に知れたら事よ?」


「俺を嵌めた人間がどうなろうと知ったこっちゃないな。それに俺はもう学園生ですらない。聞く耳持たないぜ」


「御堂さん、諦めたら? この人こういう人よ」


 佐咲さんがなんか酷いこと言ってる。俺は聞いてないふりをしてマンドラゴラ駆逐作戦を再開した。


 ◇◆◇◆


 その頃地上では、凛華から寧々に向けて牽制していた。

 名前での呼び合いで一歩牽制していた凛華が、ここにきて寧々まで名前呼び。

 それ以前に新しくやってきた久遠と呼ばれる少女は海斗の妹と同じ病気だった。

 距離感の余の近さに焦りを感じたためである。


「ねぇ、佐咲さん」


「何かしら?」


「私たちだけ苗字で呼び合うのもおかしいです。こちらも名前で呼び合いませんか?」


「どう言った心境の変化かしら?」


 普段はクラスメイトとして以外での会話を極力しなかった凛華。

 寧々がそんな返答をするのも無理はない。


「同じ相手を好きな者同士と言う意味ですよ。さっきのあの態度でわからないと思いますか?」


「その事ね。確かにあんなに感情剥き出しにするのは私らしくないと思うわ。でもね、貴女もそんな大胆な手に出ると思わなかったのよ。この泥棒猫! 六濃君は私が先に見つけたんですからね? なに勝手に一歩距離縮めてんのよ!」


「泥棒……酷いです」


「そうやっていちいちショック受けない。それで? 一体どんな気持ちの変化でそんな提案してきたわけよ?」


「久遠さんです」


「ああ……妹さんと同じ病名で借金苦。六濃君なら放っておかないとせっかく優先させてた気持ちが流れて居ても立っても居られないと?」


「エスパー!?」


 凛華はそんな能力を持っていたのかと大層驚くが、見ただけでわかるとは寧々。普段落ち着いてるからって今の自分がどんな顔してるかわかっていない凛華だった。


「貴女、喋るたびにボロが出るわね。でも言いたいことはわかったわ、凛華。これからよろしく」


「ええ、お願いしますね寧々」


 ◇◆◇◆


 地上でそんなやり取りが行われてるとは知らず、凛華の持ってきた80本の瓶を佐咲さんの釣ってきたレッドスライムで埋め、マンドラゴラの声の届かない浮島でドライアドの誕生とショック死を繰り返す事80回。


 途中報告を兼ねて地上に戻ると、ちょうど久遠が討伐から帰ってくるところだった。

 流石に一日で稼ぎ切るのは難しかったか。

 特に今回久遠は関東支部に遊びにきている。ダンジョンに篭りきりは流石に問題だろうと本日はこれくらいで切り上げることにした。

 俺もレッドスライムを連れて浮島に登れたら良いんだが、一緒に登ると飛行種モンスターの肌が燃え尽きるので魔封じの瓶の入手は必要不可欠だった。


「ムックン、にふぇーでーびるよ」


 確かありがとうって意味だったよな?

 俺は「どういたしまして」と答えて久遠とハイタッチした。

 今、久遠のミサンガに擬態させてるマジックバッグの中には、命の雫が丁度100本入ってる。これで30億ピッタリだが、相手が金のなる木を逃すわけがない。更なる借金苦を見越して送り返す必要があった。

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