第31話 学園潜入
翌日、勝也さんに確認を取ってから久遠を誘って学園へ。
俺が力を貸していいのか? そう聞いたら彼女を解放してやってくれと頼まれた。
それならば手を抜かずに事を運べる。
校門前で待っていてくれた凛華には事前に勝也さんから連絡して貰っていた。
「あなたが久遠さんね。私は凛華、御堂凛華。兄様から話は聞いております。今日は海斗君の力を借りにきたと言う事でよろしいですか?」
「御堂、凛華。確か関東の一年首席……その御堂凛華が認める腕前をムックンが? 力って何?」
「六濃君、教えてないの?」
佐咲さんが圧を含んだ声を上げる。
「俺は才能の覚醒ができなくて自主退学した元学園生とは説明したさ」
「間違いではないのよね」
「肝心な部分が抜けて居ますが。では久遠さん、こちらへ」
「お願いします!」
「では六濃君、学園内に潜入するにはこれを使ってちょうだい。ダンジョンそのもののセンサーは誤魔化せるでしょうが学園に入るだけでもいくつかの難関があるわ」
「よく調べたね? ありがとう」
「昨日の今日でしょ? おかげで徹夜よ」
「本当、ごめん! 恩に着ます!」
「良いのよ、これでいつでも学園に出入りできるでしょ? 今回だけじゃなく、今後ともお世話になるから持ってて」
「あれ、これは実質佐咲さんにずっと従う感じになった?」
「今気が付いたの? 徹夜した甲斐があったわ」
肩に腕を置いて回す様な仕草をする彼女。
転んでもただじゃ起きない彼女らしい。
一時期は自主退学で不義理を果たす形となってしまったが、これなら確かにクラスの差別なく一緒に入られるな。
ただしプロのライセンスを学園内で扱えないが。
一部を除く職員、役員のみが例外で部外者が学園内でブイブイ言わせることはできないのだ。
「じゃあ、私達は先に行ってるわ。六濃君はうまく人目を避けてダンジョンまで来てちょうだい。得意でしょ?」
聴かれるまでもない。俺は認識阻害の指輪を嵌めると、もう一つ、脚力上昇の指輪、瞬発力上昇、『幻覚』の効果を持つ指輪を嵌めてフードをまぶかに被った。
地を蹴るだけで景色が後方に飛んでいく。
なるべく足を立てず、そして潜り込む様に学園内に侵入した。
◇
「悪い、待たせたか?」
「もう来たの? 久遠さんにまだ説明してないのに」
「説明したって理解できないさ。俺の能力は、ダンジョン内限定だからな」
「ムックン、うちには才能がないっていってたよー、嘘ついたの?」
「俺にも表沙汰にできない秘密があるんだよ。そのミサンガ、マジックバッグだろ? ブラックドラゴンのソロ討伐報酬の」
「それを知ってるってことは……」
「彼、Fクラスに居ながら5000万TP貯めたのよ?」
「しかもAクラス換算したら10億相当をたった半年で」
「あれ、ムックンてやっぱり凄い人?」
「どうかな? 学園側からは無能の六濃だなんて言われてたけど、俺を知ってる人にはそれなりに思われてるよ」
「こう言う人なの。さ、彼の力については歩きながら説明するわ」
「そうだな。単純に説明するなら、俺の力はテイマーだ」
「テイマー?」
「ダンジョン内のモンスターを使役する能力よ」
「うーん? それでどうやってお金稼ぐのー?」
「裏技があるんだよ。凛華、例のものは?」
「こちらに」
いつもの感じで呼んだら、佐咲さんがギョッとした。
そう言えば彼女たちには『僕』モードで接してたのに、久遠の手前俺モードのままきてしまっている。
それについてはバレてたのか気にも留めないが、それ以外のことに佐咲さんが食いついた。
「いつの間に名前呼びで……そう言えば御堂さんも六濃君を名前で呼んでるわね。ねぇ、私もいっそ名前で呼んでくれない?」
「それって今必要?」
「必要!」
力強く地団駄を踏んだ。
これ、拗れると後々面倒なことになりそうだな。
彼女には色々助けてもらってるし、名前で呼ぶだけで機嫌が良くなるんなら安いか。
「じゃあ、寧々」
「とりあえずはそれでよしとしましょうか。どうしたのよ御堂さん? ぼーっとしちゃって」
「──せっかく、名前呼びしあって貴女より一歩リードしましたのに! きーー!」
何やら御堂さんが暴れている。
道中のゴブリンが彼女の宝剣のサビになった。
こらこら、無駄使いしないの!
「ムックン、さっきからモンスターが方々で同士討ちしてるのはなんで?」
「ああ、それは俺が仮契約して襲わせてるんだ。襲ったらそいつと喧嘩になるから契約解除。そしてまた違う種族を仮契約して違う群れを襲わせて、俺たちは危険な目に遭わずに先に進めてるな」
「ムックン見てるとテイマーがなんなのかわからなくなるよー」
久遠の言い分は尤もだ。
正直俺の能力はテイマーだなんて枠組みで括って良いのかわからんし。
お目当てのモンスターはDランクモンスターのマンドラゴラ。
こいつは四階層の浮き島の上に居る。
凛華に用意してもらった魔封じの瓶は三階層に居るレッドスライムを捕獲するのに使う。
「ところで久遠、借金あるって言ってたけどいくら? こっちはいくらでも賄えるが。正直この方法は裏技中の裏技。俺以外に使い手がいないから誰にも教えたくないんだが、妹と同じ病気の患者が困ってると聞いたら俺としてはなんとかしてやりたいと思う」
「ムックンの妹さん、病気だって聞いてたけど、もしかして?」
「ああ、魔石病でさ。金がなかったから病院に都合のいいモルモット状態にされてて、そこから救い出すべく学園に入ったんだよ。正直Fじゃやってけないって思ってた。でも元同級生の佐咲さんが」
「寧々!」
「寧々が努力してAクラスに上がってさ。そこから凛華と出会って俺に寄付を受け取ってくれないかって提案してくれたんだ。やったのは俺が変換するはずのアイテムを代わりに交換してもらって得たTPを募金として俺が受取人になる形でさ。妹は無事退院できた。そのあと凛華と一緒に暮らしてもらってる」
「そうだったんねー。でもこればっかりは正直全額出してもらうのは気が引けるから」
「一気に返済してから、後から返してくれりゃ良いさ。俺は優しいから利子なんてつけないぞ。卒業後はどうせロンギヌスに来るんだ。今は後腐れなくして、その後の事はその後考えりゃいい。それとこれは偶然だが、命の雫が高騰してるっぽいんだ。捌くなら今だぞ? でもここで捌くのはなんか腹立たしいから沖縄に帰ってからすりゃいい」
「海斗君が意地悪するから元Aクラス生がFに飛ばされて同額の借金を負ったのよ?」
「それ、俺が悪いの?」
寧々が肩をすくめて首を横に振った。
凛華も首を竦める。
解せぬ。むしろ被害者はこっちだろ。
それにどこでアイテム量産しようとこっちの勝手だろ。
そんなどこまでも自由な俺達に、ついに久遠は笑い出す。
借金を返したら、今度は借金する相手が変わるだけ。
だと言うのに今までの悩みがなんだったのかと思うほど俺たちが余裕で返済してみせると豪語するから笑うしか無くなったんだろうな。
彼女の借金の総額は、30億だった。
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