第30話 久遠の相談

 翌日、研修と聞いていたのに久遠を押しつけられた俺は、近所を案内してやってくれとクエストを受けていた。

 なんでもこっちに来たら見てみたいものや行きたいところがあるそうだ。

 荒牧さんと同様、メインは研修の方ではないらしい。

 首席だから学園を出歩いても良いのだそうだ。

 職権濫用甚だしいが、首席特権なのだろう。


「そう言えば久遠は学園での成績はいいのか?」


「ムックンはうちの成績気になるー?」


「勝也さんが研修生を受け入れるほどの実力があるように見えなかったからさ。俺と同年代ってことはまだ高一だろ?」


「んー、でも? うちと同じ学年にもすっごいの居るよ! 今日はその子に会いに来たの」


 わざわざ遠くから会いにくる有名人?

 大阪の首席? はそんなでもなかったし。

 荒牧さんは二個上だし、じゃあ誰だ?


「そう言えばムックン、そのミサンガ……」


「これか? 実はウチの妹が入院しててさ。余命二年と宣告されたんだ。だからそれまでになんとか治療費貯めようって、頑張るつもりで願掛けしてたんだ」


「ごめん、無神経なこと聞いちゃった」


「ああ、もう治療費は集まって妹は無事退院したよ。本当は俺がなんとかしてやりたかったんだけど、クラウドファンディングに投資してくれる人がいて、助かったんだ」


「そうだったの? うちも、同じの持ってるよー」


 そう言ってリストバンドの内側から俺とそっくりのミサンガを出してくる。この子、もしかしなくても俺と同じくソロ踏破者か?

 なら荒牧さんや御堂さんが驚愕するレベルの実績を持ってそうだ。


「ムックンとお揃いよー。でも、願掛けする願いが段違いねー」


「いや、願掛けなんて人それぞれだよ。久遠は久遠なりの願いをかけたんだろ? だったら誰かと比べる必要なくないか?」


「うん、そうだね。にふぇーでーびるよー、ムックン」


「??? どう言う意味だ?」


「ありがとう、って意味よ」


 沖縄の方言はよくわからない。

 北谷もそうだけど独特の言語がなかなか頭に入ってこない。でもその土地で育んだ文化に対しての敬意は持っておこうと思う。


「どうしたの、ムックン?」


「いや、今回は東京見学ってことで案内するけどさ、普通に俺も沖縄行ったことないから色々教えてくれるか? 方言とかもさ」


「うちの事に興味あるのー?」


 ちょっと嬉しそうに微笑む久遠。

 でも体格から何から何まで妹にしか見えないので、親戚の子ぐらいの興味なんだよな。


「そりゃせっかく知り合ったんだし。SNSのフォローでもする?」


「お願いするよー。うち友達少ないから」


「そうなのか? 全然ボッチっぽくないけど?」


 どっちかと言えばムードメーカー。

 クラスにいたら周囲に人を集める魅力がある気がするんだが?


「ウチの実力について来れる人居なくて、クラスでは浮いてるんだ〜。でも今日は実力に追いつける子と会えるから楽しみよー」


 かつての凛華のような?

 こんなに良い子なのに強いってだけで遠慮しちゃうのは少し勿体無いよな。


「そう言えばさ、昨日荒牧さんと一緒にダンジョンエクスプローラーやったんだよ。もしよかったら久遠もやってみない? 本来の自分の能力は使えない代わりに、環境によっていろんなやり方ができるんだよ」


「あのヤクザ屋さん?」


「荒牧さんはそんな怖い人じゃないよ。ちょっと変な人ではあるけどね。ちなみに俺のランクは上から二番目になったから、いつでも挑戦を受け付けるぞ?」


「一番じゃないの?」


「なかなか上位層が抜けなくてさ。やってみる?」


「やる!」


 こうして久遠はただの遊びと出会い、ちょっとした息抜きをした。

 学園ではあまり良い思い出がなかったらしいし、同年代の友達もいないと言うなら俺がなってやっても良いかなって思った。


 あれ? そう思うと俺の友達女の子しかいなくね?

 いや、木下や秋庭とだって友達だし!

 向こうがそう思ってくれるかはちょっと怪しいが。


 結果は29位と大健闘。しかし俺に追いつかなかった事を悔しそうにしていた。

 結局東京見物は翌日に回し、その日は俺のプレイを見学したり、一緒にご飯を食べたりして過ごした。


「ムックン、今日はありがとうね。明日こそは学校に行くから」


「今日は俺の用事に付き合わせちゃって悪いな。久遠にはどうしても世界の広さを見せてやりたかったんだ」


「世界の広さ?」


「そうだよ。学園のトップと言ったって、それは狭い世界だ。でもダンジョンエクスプローラーは世界中のみんながプレイしている。こっちの道のプロがいるくらいに奥深いし、プロの探索者が上位に食い込むくらいすごい場所だ」


「じゃあ上位に食い込めてるムックンて凄いの?」


「どうかな? 俺は無才能者、一応一攫千金を狙って学園に通ってた時期もあるけど才能に覚醒しなくてFから上がれずじまいで自主退学を選んだ落第者だぜ?」


「あの動きでF!? 全然Aでも通用するよ!」


 久遠はとんでもない、と身振り手振りでオーバーアクションして見せる。見てて楽しいというより忙しないな。

 妹は動くよりも先に口が先に出るから似てるようで似てない。

 まぁ、今は病み上がりだからな。

 昔の妹は久遠みたいだったなと思い出す。


「そうは言っても、Aの人達から学園の恥晒しとまで言われたからな。ああまで言われて学園に残るのも辛いって」


「その人達はひどいよ。辞めて正解! うちと一緒に沖縄行こ?」


「いや、なんでそうなる? 俺は一応ロンギヌスのメンバーだぞ?」


「あぅ、そうだった」


「この忘れん坊さんめ」


 ピン、とおでこを弾くと、痛いそぶりをするが、本当に痛がってはいまい。


 部屋の前まで送ってやり、自分の部屋に帰る頃には何件かメールが入っていた。

 一件は勝也さんから。

 今日学園に行くはずだったのをすっぽかした事を凛華に責められたそうだ。

 明日こそは行きますと返信を送り、スパムを処理してると久遠から新しくメールが届く。


 件名には“ムックンは魔石病って知ってる?”と他人事じゃない文章から始まった。

 彼女はかつてその病気にかかり、命の危機に瀕したそうだ。

 運良く特効薬は見つかって、見つけてきたのはダンジョンから。

 まだ勝也さんが学園を卒業したばかりの頃、Cランクダンジョンから持ち帰った“命の雫”、それを5つほど使って魔石病は久遠の肉体に適応。

 退院後、金貸しから借りた1億には莫大な利子がついていた。

 今現在の稼ぎではいつまで経っても返済しきれない。頑張って稼ぐも学園のダンジョンではそもそも大した換算額にならない。

 俺の稼ぎは裏技中の裏技、力技を使っての総額だ。

 その上でFクラスの換算レートで9割5分持っていかれる始末。

 いつまで経ってもたまらない。


 そこで且つて世話になった勝也さんのロンギヌスへ研修生としてやってきて、上位ランクのダンジョンを体験しにきたと言うわけだ。


 借金の総額は記されてなかったが、彼女がこんな内容のメールを俺に渡してきた事と、今日勝也さんから俺に彼女が託されたのは偶然じゃない気がした。


 命の雫か。

 確か今高騰してるんだよな?

 勝也さんは俺の力を使って久遠を助けてやってくれと言っているのだろうか?

 そして現状俺のやらかしのおかげで外のダンジョンは使えない。

 明日赴く周王学園内のダンジョンを使えと?


 自主退学して数日で出戻りする羽目になるとは思いもしないだろ。

 俺は御堂さんにメールを送り、明日ダンジョンに入れるか尋ねてみた。そして俺が必要な素材を集めてほしいとお願いを聞いてもらう。

 彼女への借りが増えてくばかりだな。

 妹も彼女に懐いている様だし、なんだか俺の知らないところで外堀ばかりが埋まっていくぜ。

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