第29話 地方からの研修生

 あの騒動以降、俺はといえばギルド側から一週間の謹慎処分を受けていた。解せぬ。

 証拠は消しても、被害者が全員俺の顔を覚えていたので俺が関わっていると例のギルドが訴えかけてきたが知らぬ存ぜぬで通した。

 なんせ向こうがそう言ってようがダンジョン教会側に証拠がないのだ。

 このまま泣き寝入りさせる為にも俺にはダンジョンに行くなとのお達しが出ていた。

 そのかわり新しい人材発掘のためにいくつかの研修生の迎え入れするから案内を頼むと仰せ受けた。


 一人は沖縄から遠路はるばる東京にやってきた北谷きたたにさん、と読むのかな?

 俺と同世代の女の子のようだ。不思議ちゃんで会話は噛み合わないが、そこは空気を読むなりして対処してくれとのこと。


 それともう一人は北海道から二個上の先輩がこちらに下見に来るらしい。研修生は女の子だけだが、もう一人はギルドマスターの恭弥さんとのツテでこっちに顔を売り込むのが狙いだそうで、他にも何やらこっちでやることがあるようだ。

 

 どちらも周王学園生で、大変優秀な成績を収めているとか。

 居るもんだなぁ、優秀かつ勤勉な相手ってものが。

 俺の通ってた学校は特に待遇面が酷かったからなぁ。

 全国がああじゃないとはいいが、俺個人の問題もあるか。

 実際才能さえ認められたらいいところまでいけてたと思うんだよ。


 ◇


 最寄りの空港に着くと、キョロキョロと周囲を見回す褐色の子が居た。

 出迎えてくれる相手を探しているようで、俺は事前に受け渡されていたプラカードを掲げて誘導する。

 そこには「めんそーれ東京へ北谷様。ご案内はこちら」と書かれている。


「那覇からお越しの北谷きたたにさん〜? ギルドからお迎えにあがりました!」


「それは北谷きたたに、じゃなくて北谷ちゃたんって読むんよ、お兄さん?」


「おっと、それは失礼。ロンギヌスに研修に来た北谷ちゃたんさんでよろしかったですか?」


「うん、お兄さんがロンギヌスの人? 随分とわかいんだねー。もっと年上の人が来ると思ったー」


「俺は拾い上げ枠だから。学校行ってりゃ高一になるのかな?」


「あー、うちと同じだ。うちは北谷久遠ちゃたんくおん久遠くおんって呼んでいいよ」


「久遠ちゃん?」


「同い年なのにちゃんはないよー」


「あはは、ごめんごめん。俺は海斗。六濃海斗」


「むのう?」


「漢数字の六に、濃霧警報の濃。合わせて六濃。珍しい苗字だから聞き覚えがなくて当然かな? 北谷もこっちじゃ聞かないし」


「ああ、六濃! 覚えたよ。下の名前は海斗っていうんだ? なら呼び捨てでいい?」


「そういうのはもっとお互い親しくなってからのほうが良くない?」


「むぅ、ムックンのケチー」


「早速変なあだ名付けてるし」


「だってー、六濃って無能みたいで言葉が悪いもん。ウチはこっちの方が断然いいと思うな?」


「もうどうにでもして」


 パワフルすぎる元気っ子に一人困惑していると、モンスターと見間違うほどの巨体の男がこちらを覗き込んでいた。


「あの?」


「ああ、失礼。君がロンギヌスの案内人かね? ワシは北海道から来た荒牧大吾。秋津さんとのツテで寝床を借りに来ている。一緒に案内してもらえればな、と」


「成る程、貴方がそうでしたか。想像以上に大きな方でびっくりしてしまいました」


「威圧が強すぎたかの?」


 初見ヤクザ屋さんかと思って目を合わせないようにしてたとは言うまい。


「いえ。もっと違う職業の方かと推察しておりました」


「高校生らしくないとはよく言われるわい。この口調は一種のロールプレイと言うやつじゃ。才能が才能だからの。風格を纏わせるのに苦労したんじゃ。今では癖のようになってしまったわい」


「ご苦労されたんですね」


「そうとも言えるし、そうとは言えんの。お主に言うことではないがDEというゲームは知っているか?」


「ダンジョンエクスプローラーですか。聞いたことはあります」


 これ関連で話振ってくる人に対して俺は忌避感を感じている。

 拾い上げ関連はまだいいとして、その広まった噂に食いついた輩の場合、何か因縁をつけられそうで怖いと言うのもある。

 ただでさえ見た目がおっかないし、ここは知らんぷりしとこ。


「ムックン、その人とばかりお話しせんでうちも会話に混ぜてよー」


「と、ごめんごめん」


 立ち話もあれだからとタクシーを呼んでその中での会話とした。

 電車内は混むし、ギルドの社宅は空港から近いと言うのもある。

 今の時代は物騒だからとタクシー運転手も副業で探索者をしてる人がほとんど。

 なので暴力で解決しようとすれば当然しっぺ返しを喰らうことになるのだが。

 纏うオーラだけなら荒牧さんも久遠ちゃんもAクラス生さながらの強者のオーラを纏っている。

 これは佐咲さんや御堂さんを超えるかもな? と思案してるうちにギルド本部のあるビルに着いた。


 まずは住む場所の提供として先輩方に顔見せする。

 二人は数日泊まった後帰るとのことで帰るまで世話しろって言われた。ま、これもクエストだ。最後まで面倒は見るさ。TPも貰えるしな。


「さて、ここからはギルド本部と社宅で道が変わります」


 ロビーにてギルドのバッジとライセンスをかざし、今日のクエスト達成報告を入れると報酬としてお小遣い程度のTPと指定の空き部屋の鍵を頂いた。

 ギルドではちょっとしたお使いも報酬を出す形でメンバーを労っていた。ダンジョンに行けない俺にとってはありがたい限りだ。


「さて僕の両手には鍵が二つあります。二人にはどっちの鍵がいいかを選択してもらいます」


「右がいいよ!」


「ならワシは左を貰おうかの」


「話が早くて助かります。それではこちらをお渡ししますのでロビーにて再度お会いしましょう」


「了解よー」


「案内感謝する」


 社宅で二人と別れて先にエレベーターで1Fに降りて待ちぼうけ。

 携帯端末から情報を流しみていると、動きやすい格好に着替えた二人が現れた。

 季節は夏が過ぎて秋に差し掛かる頃。

 お互いに熱いところと寒いところから来ているため、格好も対極だったがこちらの温度に合わせた格好に着替えてきたようだ。


「荒牧さんは一気に若さが出てきましたね」


「流石に黒のスーツは格好つけすぎじゃったか」


「ヤクザ屋さんかと思ったよー。ムックンが目を合わせないのもわかる気がするね」


「それはさておき、ギルドマスター達に会っていくでしょ?」


「うん」


「積もる話もあるからの。六濃君、君もDEで遊ぶなら君との交流も深めておきたいと思っておったとこじゃ」


「いやー、僕はにわかですし遠慮しておきますよ」


「なんじゃ、つまらんの」


 俺にとっては学園もDEの話題もNG。

 どっちも今すぐ忘れたい事柄No.1だ。


「お、連れて来たな? 久遠君はこっちだ」


「大吾! お前はこっちだ。どうせなら海斗も寄ってくか?」


「遠慮しておきます」


 久遠ちゃんを勝也さんが、荒牧さんを恭弥さんが引き受けるのをみて失礼しようとしたところ、恭弥さんから逃さないぞと肩を掴まれた。


「そう遠慮するなよMNO。ここからはゲーマー同士交流を図るところだぜ?」


「六濃君、君が噂のMNOだったのか! どうして言ってくれないんだ! ワシの用事の半分くらいは君に会うことだったんだぞ!?」


 だってこの人ゲームの話してる時、ずっと鼻息荒かったんだもん。

 やたらボディタッチ多くて身の危険感じたし、久遠ちゃんがいたから耐えられたのに、誰が好き好んで男くさい空間に居たがるのだろうか。

 これがわからない。

 だったらダンジョンにこもっていた方がマシである。

 でも現在ダンジョンに篭るのは禁止されてるし、仕方ないので男ムサイ談義に参加することにした。


 異様に盛り上がったのは言うまでもない。

 と言うか、そのあとゲーセンに行って実際に遊んでそのあと一緒に飯も食った。

 お互いのいいところを褒めあってたら日が明けた。

 そんな感じで仲良くなったよ。

 悪い人じゃないんだ、うん。

 やたら尻を触ってくるのを気にしなければさ。

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