第28話 立ちはだかる壁

「こーこま〜でおーいで。おしーりぺーんぺん!」


 煽りに煽りまくると、全員が股間を曝け出して全力疾走してくる。

 漏れなくスライムに襲わせた甲斐があると言うモノだ。

 高画像で全員の顔入り痴態をパシャリと映すだけで相手が勝手に単調な攻撃に移ってくれるので楽だった。


 全力疾走する度にスライムを貼り付けた股間をブラブラさせている。

 絵面がやばいが、本番はここからだ!


 適当にゴブリンを仮契約させて突撃させる。

 狙う場所は男の急所だ。無防備な場所に振り下ろされる錆びた手斧。タマヒュンどころの騒ぎじゃない。

 直撃してもダメージはないだろうが、想像力を掻き立てられる男は少なくないだろう。

 武器でのタマの取り合いには慣れていても、ウィークスポットを剥き出しでのタマの取り合いは不慣れもいいところだった。


「こいつら、的確にタマ狙ってくんぞ!」


「回避ぃ!」


「おい、盾役前出ろ!」


「守護魔法かけろ後衛!」


守護性棒ガードチン◯!」


 全員が内股になりながらなんとか撃退するが、怒りと羞恥、男のシンボルをしつこく狙ってくる相手に普段の能力を完全に発揮できないでいた。


 学園では逃げ回ることしかできない俺だが、ダンジョン内ではこの通り。嫌がらせをさせれば右に出るものはいない。

 敵意をチェインさせてのモンスタートレイン。

 所詮はFクラスモンスターのゴブリン。


 通常であれば取るに足らない相手でも、パニック状況では面白いように手間取った。

 雑魚相手に相次ぐ武技、魔法の無駄打ち。

 同士討ちさせながら隙をついて俺も始末し、支配下に置く。

 ゴブリンを増やすこと25匹。

 枠の上限いっぱい支配下に置いてやった。


 回数分の武技を打たせ切って、執拗に金的攻撃。

 魔法での援護も人数で囲って両手足を封じることで防ぐ。

 数の暴力ここに極まれり。


 ついでに余ったゴブリンでスライムを始末させ上限を増やしてこいつらも25匹まで増やす。肛門から侵入させて、腸の中で暴れさせたら全員が腹痛を訴えてその場で嘔吐や下痢の症状を訴える。


 ピ〜、ギュルルル……

 突如内股になり、顔面蒼白になる男達。

 普段偉ぶってるがこうなると可哀想になってくるな。

 学園ではAクラス生だったかもしれないが、それがFランクダンジョンでこのザマだ。


 相手の肉体そのものにダメージは入らないが、生理現象の操作は他愛もないのだ。

 流動系モンスターはそれの扱い次第で上位モンスターですら行動不能にする。

 ただ図体がでかいモンスターはダメだ。

 消化能力が高くてスライムですら溶かされるからな。


「あれれ〜どうしたんですか、パイセン? 俺に生まれてきたことを後悔させてやるんじゃなかったんですかー?」


「クソ、今日に限ってこのダンジョンおかしいぞ?」


「まるでモンスターの知性が爆上がりしたみたいだ」


 いいとこつくじゃん。

 スマホを傾けながら地面に芋虫のように転がる悪漢の映像を写してからダンジョンを出る。


 入る時も出る時も、センサーの類を無視する魔道具をつけさせてもらった。透明化してもサーモセンサーで人かモンスターを見分けるカメラが付いてるが、この指輪はそのカメラそのものを無効化する。


 ダンジョンの中で起きたことは自己責任。

 これはダンジョン協会の規約にもある。

 プロは学生とは違って命の価値基準が軽いのだ。


 その為実力のない者が入ることは許されなかった。

 俺は特例中の特例として認可させられた。

 要はTPによるゴリ押し。俺も人のこと言えないくらい資金力に物を言わせてんのよね。


 さて、後はこの画像でどうやってアイツらのメンタルを追い込むか。

 俺はネットの海に潜って効率的な技術を学んだ。


 ◇◆◇◆


 その日、SNSに投稿された日記形式の情報は瞬く間に1万いいねを貰い、フォロワー数を大きく伸ばした。

 相互フォローをしないとコメントできない仕様上、コメントはされないが、拡散といいね数を爆上げする形になる。


 日記のタイトルは『無能君のFクラスダンジョン探索日誌』


 元学園生で自主退学をした経歴を持つ作者が、赤裸々な過去を綴りながらその日の出来事を綴っていく。

 割と誰も目を向けないタイプの日記なのだが、新しく公開された日記には『各地で悪さを働くウロボロスがFランクダンジョンでまさかの失態!?』みたいなスキャンダル情報が載せられていた。


 それを目撃した周王学園在校生のA氏とK氏が遊び仲間に拡散し、その情報を得たS氏とM氏が交流会に拡散。

 おもしろ情報としてそれが全国から世界に発信、更にはギルド全体に広まった。

 擁護コメとざまあコメで罵り合いが過激化し、しかし作者本人がコメントを受け付けないことで作者の身元情報のすっぱ抜きに奔走されられた。


 ◇◆◇◆


「はっはっは、これってやっぱりアイツの仕業だよな?」


「まず間違いなくな。ったく、今日は家で大人しくしとけって釘刺したんだぜ? 俺は」


 ロンギヌスのマスタールームでは、流れてきた情報に向き合いながら犯人が海斗であると当たりをつけて勝也と恭弥が仕事の手を止めて談笑していた。


「日誌そのものは別に昨日今日登録したってわけじゃないんだろ?」


「そんなもんPCの時間設定をいじればいくらでも改竄できるだろ。問題はその技術をどこで知ったのかってことだ」


「詳しい相手が友達にいたのでは?」


「アイツ、友達いないんだよ。基本的に他人を信じてないからな。そのくせ周囲からの信頼が厚い。よくわかんない奴だ」


「情報分析、収集能力のずば抜け具合はそっちでも発揮したか。元々知恵が回るのか? それとも……」


「それができなきゃ生き残れなかったかだな。どちらにせよ敵に回したらやばい奴だってよく分かる。妹を守るための知恵か。そう思えば同じ兄貴としてよくわかる……が、手元に置いておく自信を失くすな」


「フェイクも織り交ぜて二年前から活動してる元Fクラス生、探せば何人出てくる?」


「全国に三つあるんだぜ? 自主退学を推奨してる学風だ。それこそ何十人といるだろう。二年前なんて特に何百、何千といる。学園はここぞとばかりに現役探索者の二世を集めたからな」


「最近沖縄にもできたので厳密には四つだ」


「それで、被害に遭ったウロボロスの幹部はうちに何か言ってきてるか?」


「アイツがその日はダンジョンに行ってないって通達してるから突っぱねてる。本当にダンジョン情報に通過記録が無いんだよ、海斗の奴」


「じゃあこの画像はどこから出てきたんだよって言う」


「だからその他の奴が通りがかりに見かけて写真に収めたんじゃないかって推察がSNS上であげられてるんだ」

 

「完全に奴の掌の上だな。モンスターの攻略が得意な奴は人の掌握術もお上手ってか?」


「良くも悪くもスカッとしてる奴がこれだけ居る。相手が誰であろうと、いいねの数がそれを証明してるのさ。果たしてどっちが加害者か被害者なのかってさ」


「金で人の心までは支配できないってやつか?」


「獅童のやり口はウチの親父の模倣だ。あまり放置しておけない。なんとかしたいが、人手も金も足りなくてな」


「たくさん稼いでくれそうな新人が入ってきてくれたが?」


「そいつに頼ってばかりじゃ俺たちの立場がないな。Aランクダンジョンの予約情報は?」


「まだ金をつかまされた役人が多いか。独占してるのは?」


「グリードポッド。お前の親父だよ、勝也」


「チッ、あの人はいつも俺たちの前に立ちはだかる」


「それを阻止するために俺たちはこのギルドを立ち上げた。だろ?」


「ああ……」


 敵は国内最大の御堂グループ。金とコネで固めた地位で好き放題探索者を支配する実の父親のギルドだった。

 そしてウロボロスはグリードポッドの傘下。

 手を出せば報復しにくることでも有名だ。


 まだ手を出すのは早いと思っていたが、早々に先手を打つとは。


「アイツは一体どれだけの人間を巻き込むんだろうな?」


「さぁ?」


 勝也の問いかけに恭弥は頭をひねって答えた。

 自分達の斜め上にカッ飛んでいく埒外の存在の考えなど、誰もわからないからだ。

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